第16話「卑劣な罠」

 俺とカイゼルの想いが通じ合ったことで、二人の婚儀の準備が本格的に進められ始めた。国中が祝福ムードに包まれる中、その光景を苦虫を噛み潰したような顔で見ている者たちがいた。


 宰相ヴォルグと、彼に味方する保守派貴族たちだ。


「このまま、あの人間を王の番に迎えるなど断じて認められん!」


 ヴォルグにとって、俺の存在は自らの地位を脅かし獣人国の伝統を破壊する元凶でしかなかった。彼は、俺を排除するための最後の手段を画策していた。


 そして、彼に手を貸す者が現れた。ミコト奪還に失敗し、国としての面子を潰された人間国アルバ王国の密使だ。


「ヴォルグ殿、お互いの利害は一致しているはず。我々はあの『賢者』を取り戻したい。あなたは、あの『賢者』に消えてほしい。協力しませんか?」


 敵の敵は味方。ヴォルグと人間国は、水面下で手を組んだ。彼らが練り上げたのは、カイゼルが最も大切にしているミコトを狙った、卑劣な暗殺計画だった。


 数日後、王家の恒例行事である『王の狩り』が開催されることになった。カイゼルは当然のように、俺もそれに同行するよう命じた。


「カイゼル、俺は狩りなんてしたことないし、足手まといになるだけだよ」


「お前はただ、俺の側にいればいい。それに、王の番となる者が国の重要な行事に参加しないわけにはいかないだろう」


 そう言われてしまえば、断ることはできなかった。


 狩りの当日。俺はカイゼルから贈られた動きやすい狩衣を身にまとい、彼と同じ馬に乗って森へと入った。森の奥深くには、王族しか立ち入れない特別な狩場があるという。


 カイゼルの背中にしがみつきながら、馬に揺られる。木々の間を抜ける風が心地よかった。周囲には屈強な近衛騎士たちが控えており、一見すれば何の危険もないように思えた。


 しかし、俺はどこか胸騒ぎがするのを感じていた。ヴォルグたちの動きが、ここ最近妙に静かだったからだ。嵐の前の静けさのようで、気味が悪い。


 狩場に到着し、カイゼルが獲物を探して馬を進め始めた、その時だった。


「――今だ!」


 森の茂みから、複数の黒い影が飛び出してきた。その手には鈍く光る刃が握られている。彼らは明らかに、俺たち――いや、馬上で無防備な俺を狙っていた。


「ミコト!」


 カイゼルが叫び、咄嗟に俺を自分の腕の中に庇う。近衛騎士たちがすぐに応戦するが、刺客の数は多く連携も取れていた。これは単なる賊の仕業ではない。周到に準備された襲撃だ。


 そして、刺客の一人が騎士の守りを突破し、俺に向かって鋭い短剣を突き出してきた。


 まずい、避けきれない――!


 俺が死を覚悟した、その瞬間だった。

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