第3話

「美味いか?」


「うん、美味しい!!」


簡単なコーンスープとパンであった、嬉しそうに食べる姿をみると。ようやく落ち着いてきたと感じる。


近くの村の住人が魔族の一人に皆殺しされて、一人生き残った人間の女の子を一旦俺の家で預かる事にした。


あれから数日経つが、人間の女の子はずっと泣き続けていたからなのか、目が赤く腫れている状態だ。


「それで、これからどうする?もし他に身寄りがあるなら、送っていくが」


「私、お母さんとお父さんと妹しか知らない」


人間の女の子は首を横に振って呟いた。


どうやらこの子には両親以外の身寄りはないらしい。


こんな年端もいかない人間の女の子がいきなり両親を失ってしまったら。最悪、人間達の奴隷としてこき使われて働くことになる。


「そうか……」


俺は魔族だ。今はあの婆さんのように人間に姿を変えて正体を隠しているので、この子は俺の正体に全く気付いていない。


だが……時間が経てば、いつか俺が魔族だと気付く可能性がある。


「あの……お兄ちゃん。私をこの家で働かせてください」


コーンスープを飲んでいたスプーンを皿の上に置いて食べるのを中断して、目の前に座っていた人間の女の子は頭を下げて伝えてきた。


「ここからなら大きな街もそこまで遠くない、身寄りがないなら別に俺の家で働かなくても。君の年齢くらいなら体を売れば住み込みで稼ぐことくらい簡単だろう」


「あ……う……」


まだ小さいから、俺の話をまだしっかり理解できていないだろうが俺が断ったと思い込んで涙を流しそうになる。


「普通だったら、こう言って断る。だが、君みたいにまだ幼い少女が両親と妹を亡くしてしまい、一人で生きていくのは大変だからな。大人になるまではこの家で働いてもらおうか、最近一人では退屈していて、話し相手がほしいと思っていたしな」


「あ……ありがとうお兄ちゃん」


「だが自分で働きたいと言った以上、やってもらうことをしっかり覚えてもらうからな」


「う……頑張る」


自信なさげに答えている。根は真面目そうな人間の女の子に見えるし、きっと仕事を覚えるのも早い。


「仕事は明日の朝から伝えるから、今日はゆっくり休んでくれていいぞ」


「お兄ちゃん、どこに行くの……?」


「あの村の住人達を埋葬してくる。ずっと外に放置しているのも、可哀想だからな」


辺境の村だから、住人が皆殺しにあっても、誰かがやって来ない限り皆殺しにあった事すら気付かれない。


死体は腐敗が進むのも早いので、放置していれば魔獣が食べにくる。その前に埋葬してやろうと思っていた。


「同族がやった事の責任は同族が取る。そう教えられて、育ったからな」


「あの……私も何か手伝う」


「だったら一緒に皆を埋めるようの穴を掘るのを手伝ってくれ」


「わかった」


満面の笑みを浮かべる人間の女の子。食事を終えて家を出て、住人達の死体がある村に戻る。


来るまではまだ穴を掘る元気があったが、村の住人達の死体を見るとやはり怯えて体が震え始めた。


仕方ないか……元は皆が幸せに暮らしていた村が、たった一日で地獄のような有様になってしまったのだから。


「もし、難しいなら。少しそこで休んでいてもいいぞ」


住人の死体が見えない場所を見つけて指を差すが、人間の女の子は持ってきたスコップを使い、地面を掘る。


「大丈夫……生き残った私が、皆を埋葬してあげなきゃいけないから」


この子はきっと将来強くなる。そう確信が持てた。


二人で夕方まで穴を掘って、住人達の死体を埋めていき、住人の死体が三人残っていた。


「――お父さん―お母さん―ミナ――助けられなくてごめんなさい」


両親と妹の死体の前で手を合わせ涙を流している。


「本当に両親と妹も村の住人達と一緒に燃やして埋めてもいいのか?どこか別の場所に」


穴には死体の住人達を埋めていて、これから炎を使って燃やそうとしていた。その穴の中にはこの子の両親と妹も含まれている。


「ううん……きっと、村の皆と一緒の方が嬉しいだろうから……」


「いい親に育てられたな」


「う……ん」


泣きながら、俺の手を繋いで全く離そうとしない。


木に油を引いて燃やし、穴の中に落とす。死体はどんどん燃え移り。時間が経って、炎が治まる頃には村の住人達の骨だけが穴の中に残って掘っていった穴を元通りに戻す。


「何もないのは寂しいからな、せめて、この周りに花でも咲かせようか」


住人達の死体が埋まっている周りに数種類の花を咲かせる。夜の風景と相まって、とても美しい。


「ふわぁぁぁ……――とっても綺麗――お兄ちゃん、もしかしてこれって……まほ――」


「これは俺と君の秘密だからな、この世界では魔法を使うのは禁術だからな」


「わかった、でもお兄ちゃんありがとう。村の皆もきっと喜んでいると思うよ」


「はは……こんな魔法を見せて喜んでくれたのは、君と妹ぐらいさ……」


世界最強の魔王である俺の妹にも、昔この魔法を見せたら、とても綺麗だって言って喜んでいた。


「お兄ちゃん……?」


一瞬、人間の女の子と目が合うと子供の頃の妹の顔が重なる。


「なんでもない、さぁ……もうこんな時間だし、魔獣が出現するかもしれないから、もう帰ろう」


俺と人間の女の子は手を繋いで森にある俺の家に帰る。

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世界最強の魔王である妹に告白された日の夜、俺は妹の元から離れて人間の世界で平和にのんびり暮らし始める ゆきいろ @nineyuki

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