第二話 『“王子殿”』

*セクシーなシーンがありますので、苦手な方はお控えください。

===



『ーーまさか、兵を皆殺しとは思わなんだよ。次期国王殿?』


『し、死なせるつもりはなかったんですっ!』



 * * *



 ーーここは、王都から最短距離にある港町『ホレスト・ネイス』。

 港には船がずらっと並び、人々がわいわいと賑わっている。

 ここには極めて貴重な海の幸ーー黒く長大な棘を持つ『カバデル』。海の宝玉『ララスペー』。秋季の風物詩『セセラマ』。

 クラウディア曰く、それぞれ彼女の故郷にあるウニ、イクラ、サンマに似ているらしい。

 聞いたことのない名称に興味が沸きつつ、アルメラは野菜を物色する。


「滑らかで、ずっしりと重いのがいいんだ」


 それを聞いたクラウディアは力なさげに、はあ、と相槌を打った。

 水分をどっと含んだ野菜たちは、太陽の光を一心に浴びる。

 アルメラは光の加減に騙されず、最も鮮度が高く品質の良い『モルトイモ』を手に取る。これはジャガイモとサツマイモらしい。


「毎度」


 アルメラが代金を渡すと、野菜店の店主が短く、そう言い渡した。

 アルメラの左手に『モルトイモ』が詰まった袋を持つ。ダイコンとやらに似ているらしい『カクメギ』も含まれている。

 この国では黒米が主食で、その上に『カクメギ』を塩漬けした漬物を、乗せて食べるのだと。


「流石王子殿!王子に関連しないことなら随一!」


 アルメラは大変不服だ。

 だが自覚も、ある。自分は大変王子に向いていないし、国王にだって向いていない。人の上に立つより、庭いじりでもしていた方が性に合うだろう。

 だがやはり、それでも、なんだかやだ。彼は、口をへの字に曲げる。


「…ディア殿はいささか、失礼じゃないか?」


「まさか!仲良くなろうと気楽にフランクに喋ってるだけですよ。やだなあもう!」


 声色は慎ましさに溢れているが、顔は駄目だ。悪魔の顔だ。

 折角の美貌が、表情に殺されている。

 アルメラはぷくーっと、顔を膨らませる。

 野菜店から、次は肉屋に足を向ける。



〈ーー今後の方針を、どうするか〉


 それが、アルメラ・ノア・ライネアートの頭に占める五割のことだった。

 後の五割はクラウディアのことでいっぱい。


〈まずは、喜怒哀楽の杖……『正義の杖』の所持者の元を訪ねる、か〉


 ーー『喜怒哀楽の杖』。

 その全貌は、誰にも見えない。

 杖自体、大半が戦争で修復不可になったか、所持者が雲隠れした。という伝承のみ。

 争いの元、兵器、女神がもたらした奇跡。口伝は幾らでもある。


「ーーヘレーネは『空虚の杖』を所持していた。いまは…」


 きっとオリビオ派の、誰かが持っているのだろう。

 限りなく透明で、強かなあの杖を…

 アルメラはどんよりと俯いて、悲痛を顔に浮かべた。


「生きてるよ。今頃メイドと仲良くランデブーってとこでしょ」


「…オリビオは、何も言わなかった」


「殺しに来た奴が、適当なこと言ったんじゃない?」


「そうだと、いいが…」


 数十秒の沈黙。

 アルメラはヘレーネのことを誰よりも強いと思っている。誰にも負けないと思っている。

 だがーー見ていないのだ。


 生き生きとした横顔をーー今は落ち込んでいることが多いがーー。あの綺麗な、曇り空の下に育つ小麦を。黄金を水で薄めて、桜を溶かした瞳を。見ていない。

 血溜まりしか、まだ、見ていない。


「ーーまずは『正義の杖』からだ」


「そうだねえ」



 * * *



 時は遡る。王城にて反乱が起きた直後。


「ーー暗殺は」


「無し!」


「有りに決まっているだろう」


 このイカれポンチは、スリルを求めているらしい。意味がわからない。

 アルメラは心底げんなりした様子で、次の言葉を紡ぐ。


「…暗殺で死んだら、それこそ『儀礼』ができないじゃないか。良いのか…?オリビオの望む野心家が死んでも」


 アルメラは、自らの胸を叩いて見せる。ぽすぽすと音が鳴った。

 顔面に自信満々であることを浮かべながらーー


「その程度で死ぬるなら、要らん。無へ、還ると良い」


「!? 仮にもオリビオのお兄様なんだが…!」


「様? この体たらくで様か?」


「評価してるのか、してないのか、はっきりしてくださいよっ…!」


 つい、素が出てしまった。

 どうしよう、このままだと暗殺合戦で間違いなく死ぬ…!そう、心の中で慌ただしく、ぐるぐると回り歩く。


「良いんじゃないですかー?暗殺あっても」


 無意味だった。

 どう悩んでも、無意味だった。

 仲間…ではない?この女神然とした少女は、悪魔だったのか?


「私、強いし」


 強さが理由らしい。

 親指を自らに向け、ドヤ顔をしている。

 確かに、精霊召喚ができるだけでも、強い。

 それは、大変心強いのだが、困る。暗殺は困る。ただでさえ、最近の食事だって、びくびくしながら食べてるのに。


「ならば、今この瞬間、余を殺してみよ」


「ーーっ!? だ、ダメだ! オリビオは然るべき処置を取るのだ!正しく裁かれよ!」


 イカれポンチはイカれたことを言った。

 だが今は、殺したくない。死なせたく、ない。

 気持ちの整理がつかないのだ。少しだけ、時間が欲しい。


「暗殺は不問とする。良いな?」


「はい…良いです……」


 アルメラは肩を下ろし、あらぬ方向へ目が向いている。目が回る。お供えはキャベツが、良いな。



「…もしや、野心が翳ったのか?」


「違います!!野心たっぷりです!!」


 野心ハンターの目は濁っていなかった。



「『儀礼』はどうする?」


「通常通り、一年後に攻城戦を行う!どうだ!!」


「良い」



 野心ハンターは、ご満足いただいたようだ。



 * * *



 夕食後。鱈腹食ったおかげで、腹が丸っと少しだけ膨れている。クラウディアは、相変わらずシュッとしたままだ。か細い。

 そしてクラウディアは、ある提案をする。


「ーーチェスを、しませんか?」


「別に良いが…」


「賭けを、しましょうーー」


 クラウディアは、一呼吸を開け、緊張感を高める。息が詰まる。


「私が勝ったら、指定の洋服を着てください」


「…それだけで良いのか?」


「ええ、それだけで」


 クラウディアの表情は読めない。

 ーー何も、変わらないのだ。瞬き、瞳孔、声色、息遣い、言葉、指先。何もかもが、一定で。何も、読み取れない。


「では、当方が勝ったら…一緒に、その、お出掛け、してください」


 顔を赤らめながら、声がどんどん小さくなり、やがて塩一粒程度になった。小さかった。


「良いよ。じゃ、何かハンデでもいる?ーー私は、強いから」


 酒が入ったグラスを揺らす。瞳はまっすぐで、左目は白い眼帯で隠れており、わからない。余裕たっぷりのドヤ顔は、虚勢か、本心か。

 だが、アルメラは翻弄されるわけには、いかない。何故ならーー


「当方は王になる者。情けは無用」



 * * *



「エッヘヘヘ…たまんねえなあ!!」


 ねっとり、とした声色で、アルメラを舐め回す。

 ーークラウディア・ラルコール。

 発言から少々滲み出ていたが、彼女は清楚ではない。

 清楚ではないのだ。


「す、裾が短いですっ!」


 アルメラはメイド服を、着せられている。

 大量のフリルをあしらっており、裾は大変短く、少し風が吹くだけで、ありとあらゆる物が見えそうな長さだ。

 みっちりと白い編みタイツが脚を包む。肉がほんの少し、むにっとはみ出している。霰もない姿だ。敗者。


 そんな敗者にクラウディアは、微風をスカートの中に吹き込む。


「ひゃうっ!? な、なっ…」


 何か、不満を主張しようとしたらしい。けしからん。

 なだらかな尻を、直に撫で回す。アルメラは嫌がってるそぶりを見せるが、むしろ嬉しそうだ。


「ーーまさか、兵を皆殺しとは思わなんだよ。次期国王殿?」


「し、死なせるつもりはなかったんですっ! そ、それより、なんで下着まで女の子のなんですかっ! こ、こんなの…こんなのぉ…!」


 クラウディアはあろうことが、下着まで指定していた。白いTバックだった。レース付き。


「そりゃ、美少女には白くて細〜いTバックが良いに決まってんだろ!」


「私は、当方は女の子じゃないですっ!」


「はっはははは!!」


 悪役さながら、笑い声を上げる。

 酒を、ぐびぐびっと飲みながらーー


「今夜はお楽しみだぜ…!ヘッヘヘヘ!」



 * * *



〈ーーほ、ほんとに、お楽しみされちゃうんですか!?〉


 アルメラは、クラウディアの部屋に半ば無理矢理連れて来られてしまった。のこのこと。


「ほれ、ちこうよれ。ほれほれ」


 クラウディアは、ふかふかのベットの上に座っている。酒瓶を片手に。

 シーツをぽすぽすと叩く。そして、何か悪巧みを閃いたかのように、悪魔の顔色に変わる。悪魔だ。


「よしーー脱げ」


「え“!?」


 アルメラは、大きく声を上げた。本当に、本当にお楽しみされるらしい。なんて、好色な方なんだろう。


「下着から脱いじゃおっかあ。ねえ?脱げるよねえ?」


 脱いだら、何をしてもらえるのだろうか。

 ゴクリと唾を飲み、喉を鳴らす。

 するりと、下着の紐を解こうとする。緩めに結んでしまったため、すぐにでも解けそうだ。

 紐が丁度、解けそうになるーー



「それとも脱がされたい?」


 アルメラはパッと手を止め、顔を赤らめ、目を伏せ、恍惚とした顔色を見せる。そして上目遣いで、



「ぬ…ぬが、されたいです……」


 押し倒される。

 シーツがぽすっと音を立てる。

 顔が近い。

 獅子が鶏を喰らうとき、このような表情になるのだろう。


「ーーアルメラ」


 情愛を含んだ声色を、鼓膜の中で転がす。

 アルメラはこれから起こるであろう快楽を思い浮かべながら、そっと、目を閉じる。


「ーーあっはは! ナニしてもらえると思ったの?ほら、言って見なよ。大きな声で!ははははーー!!」


 大笑いしている偽獅子と喰らわれたかった鶏。

 クラウディアは、嫌がらない範囲で、少し揶揄おうと思ったのだがーーこの様だ。まんまと引っかかり、音の出るおもちゃへと成り下がった王子殿。


「会ったばかりの人の前で、脱いじゃ駄目ですう〜。 ほら、フツーに寝るよ。睡眠だ、睡眠。」


 ぽふぽふと布団を叩いて、こちらを呼ぶ。

 それはあまりにも、健全な声色だった。


「おやすみい、よい眠りをー」


「…おやすみなさい。ディア殿」


 少し残念だったが、仕方ない。私たちはまだ、何も知らないのだから。

 ーー一体、自分たちはこのおやすみを、どれだけ積み重ねることができるのだろう。



 * * *



 早朝。朝日がきらきらと照り、窓辺を輝かす。暖かな日差しが、布団をじんわりと身体を温めた。

 隣に、クラウディアはいない。何処に行ったのだろうと、辺りを見回すがーー


 周囲が、虹色だ。

 頭上には恐らく、銀の球体が目まぐるしく回っている。

 一体何が起きているのか。もしやこれは刺客の魔法ーー


 途端、陽気な音楽が流れ出す。リズミカルで大変楽しげな音楽だ。

 そして扉が開かれ、クラウディアが現れる。手元には、フライドチキンのような楽器。頭には彩色豊かな羽の被り物。

 クラウディアは何も言わない。じっと、ただマラカスを振り続けている。

 そして耐えきれなくなったアルメラは、透明な唇を開く。


「私で揶揄わないでくださいっーー!!」


「音の出るおもちゃ、おもろー!!」



 * * *



 港。都合がよさそうな船を探しているが、もうすでに予約済みで満席だった。予約しておけばよかったのだが、生憎のオリビオだ。格が違う。

 クラウディアが途端に、目を輝かせる。アルメラが見たことのない、表情で。

 胸がちくり、と痛む。


「カフォ、たそっ…♡」


 まるで最愛の恋人を見つけたかのような喜びよう。

 ちくちくと、胸が痛い。

 そんなアルメラをクラウディアは見向きもせず、カフォに駆け寄るーー否、雷光の如く近づいた。


「何かお困りですか?」


 彼女が話しかけたのは、灰がかった金髪、低めに結んだおさげ、右目に黒い眼帯、薔薇の瞳、暖かなポンチョを着こなすーー幼女。

 しかし、急に現れたクラウディアを見ても驚くどころか、ちょうどよかったと言わんばかりに、話し始める。



「ーー丁度良かったのです。探しているココアが見つからなくて…」


「どんなココアかな? お姉ちゃんが一緒に探してあげる」


「お高い、『ナクメシア』っていうココアなのです」


「それならさっき、あっちの通りで見かけたよ! “一緒に“行こっか!!」


「ありがとうなのです。ですが一人で行けま」


「さあ行こう! “俺たちの“ア・イの旅へ!!」


「……」


「…話を聞いてくれない、お姉さんなのです……」



 心底げんなりした表情を見せながら、幼女は犯罪者予備軍候補であるクラウディアに手を引かれ、仲良くーー半ば強引にだがーーココア専門店へ向かう。


 一方、アルメラは置いてけぼりだし、人混みに押されクラウディアを見失う。



 * * *



「あっ、チョコいる? はい、どうぞ」


「ならば遠慮なく、いただくのです。 んむんむ…」


 んむんむとチョコを頬張り始める。

 渡された板チョコは、カフォの口では大変食べずらい大きさで、だんだん口の周りにチョコがまとわりつき始める。

 クラウディアがうんうんと頷きながら、ニマニマしている。

 ーーおそらく謀ったのであろう。


「可愛いなあ…本当に えへへ、えへへへッ」


 ねっとりとした声で気持ち悪くカフォを褒め称え、心の底から溺愛する。

 幼女には、甘いらしい。


「んぶ…食べ終わりました、えっぷ」


「美味しかったあ?」


 ニマニマとしながら、カフォの口周りを白いハンカチで拭う。

 チョコが白いハンカチを侵食する。海に流した、絵の具のように。


「美味なのでした。お姉さんはチョコ通なのですね」


「お姉さん、舌には自信ないんだけど…喜んでもらえて何より! それとーー」



「お姉さん呼びはしっかり堪能したので、ここらで愛称呼びを所望します!」


 この犯罪者は、急に意味不明なことを口走った。もはや喋ること自体が、犯罪だ。


「私はクラウディア・ラルコール。 とかとかって呼んでいいよ!」


「一つも、とかとかが入ってないのですが…」


「良いから! ほら!」


「…まあいいのです。とかとかって呼んであげます」


「ヒヤッホウ!! 頂いちまったぜ、愛・称呼びィ!!」


 あまり納得いってない様子だが、了承してくれた幼女は寛大な器の持ち主なのだろう。そう感銘を受けつつ、この幸福を享受していることに感謝をしーー



「カフォは、カフォ・アマリリスなのです。よろしくお願いします。」


 ーーカフォ・アマリリス。

 海賊団『鯨の飛沫』の頭領を務める、若き海賊。可愛い幼女。

 呂律があまり良くなく、それが余計に柔らかい雰囲気を醸し出す。

 最も海賊に向いてなさそうに見える。幼女。至高の。


「じゃ、これからよろしくね。カフォたそ♡」


「その気味の悪い愛称は、やめるのです…」


 気味の悪い白づくめのお姉さんに辟易した幼女は、この先の航海を思い浮かべる。

 カフォ・アマリリスには、これから多大なる苦労が課されるだろう。合掌。



 * * *



 ココア専門店に訪れ、無事『ナクメシア』というココアを手に入れることができた、カフォと犯罪者。


「ーー何か、お礼をするのです。遠慮なくです」


「な、なんでも!? お、お礼は、カフォたそのア・イ!で、良いよ?」


「残念ながら、カフォの愛はお姉様のものなのです。あげれません…」


 それはもう、心底申し訳なさそうに言った。

 その返答にクラウディアは、大して落ち込まない。


「耳を垂らした子犬みたいな、カフォたそも可愛い…!!」


 むしろ喜んでいる。

 頬に両手を添え左右に揺れている。そろそろお縄につきそうだ。


「生きててくれてありがとう…! 可愛いほっぺを見せてくれてありがとう…! 可愛いおててを見せてくれて、ありがとう…!!」


 完全に自分の世界に入っており、カフォのことしか頭にない。

 カフォは甘ロリが似合うだの、ゴスロリもありだの、味変に軍服も素晴らしいだの、訳のわからないことばかり口走る。


「やっと見つけたっ! ディア殿っ〜」


 アルメラは、愛おしい花をようやく見つけた。気分が高揚する。愛おしさが溢れた声色で叫ぶ。

 だがーー


〈あの表情……危険だ。早く、幼子と離さないと!〉



「えっ、ちょっ、ロリコン扱いしないでもらえます!?」


 カフォからクラウディアを引き剥がそうとするが、クラウディアの方が腕力も身のこなし方も洞察力も、何もかもが上だった。完全敗北。

 だが、


〈ーーこ、このままだと、ディア殿が犯罪者になるっ!!〉


「ちょ、私は幼女保護団体に所属してんだぞ、取締役代理だぞ!!」


「は、犯罪集団だーー!!」


「まだ!犯罪!してないから!!」


「まだ!? やはり、今から」


「これからも何もしないから!! 幼女には、健全に、健やかに、純粋無垢に、育ってもらいますからァーー!!」



 * * *



「ーー海賊船なんて、初めて乗りました!」


 大はしゃぎしている、アルメラ。王子様にとって、なかなか無い体験だったらしく、高揚を隠しきれない。


「…カフォは頭領なのです。 なので、船を守る権利がありますーー」


「その手に持ったキャベツ、没収なのです」


 アルメラはもっもっ、とキャベツをそのまま頬張っていた。心底美味しそうに食べるその姿は、それだけは、王子然としていた。それだけだ。

 キャベツと、海と、海賊船に気を取られていたアルメラは、一テンポ遅れて反応した。


「そんな、殺生なーー」


「カフォは、キャベツが嫌いなのです。だから、ポイです」


「私怨すぎませんか!?」


 食べかすを落とさないよう上品に食べていたが、まさかキャベツが嫌いだからとは。キャベツを目にも入れたく無いのか…そうぼんやりと考えたアルメラは、仕方ないので懐にしまうことにした。入らなかった。


「ポイ」


「あ“ーー!!私のおやつがーー!!」


 きっと、海の住人達がアルメラの分までキャベツを美味しく、平らげてくれるだろう。

 そうやって、わいわいと談笑をしているとーー



 巨大な影が、海を泳いでいる。

 アシカだろうか。だが、妙に図体が大きい。

 その妙な影は、海辺からゆっくりと顔を覗かせる。


 世界の果てを煮詰めたような墨色。白銀に光る怪しげな幾何学模様。青白い双眸、眼球、目が、目がこちらをーー


 こちらを、覗いた。



 見られている、見ている、見た、見たから、見たならーー

 言葉にならない言葉が脳に響く。それは酷く、甘ったるかった得体の知れない薄気味悪さが、自分の背中を襲う。


 助けを待ったなら、きっと魂まで齧られ、血が吹き出し、息を絶やすのだろう。

 とてもとても恐ろしい魔神。海の支配者。海上で最も恐れなければならない存在。絶対的上位存在。




 ーー魔神だ。


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