王立学院入学編 第56話 ルシア神降臨?

「色々とありがとうございました」


 新学期を間近に控え、僕は学院長に挨拶にきていた。


 辺境伯領から戻り、教材作りをコピーカードをフル活用して作っていたら、あっという間に学院に通う日が来てしまった。


「ルシア君、君の味方は君が思う以上に多い。その事は覚えておいて下さい」


「はい」


 一週間ほど前に僕の元に吉報が届いた。報せには僕の囚人の身分が消滅した事が記されていた。


「学院長はじめ、エリザベート殿下、ロンズデール辺境伯、マライアさんがご尽力してくれた事に感謝しています」


「ホッ、ホッ、ホッ。他にも名だたる王侯貴族の援助もあった。名は出さぬが覚えておいてください」


 僕を援助してくれる王侯貴族? 全く心当たりはないけど……、いずれ機会があれば感謝を伝えたい。





「おはようございます」


 職員室のドアを開けて挨拶をする。


 既に朝は過ぎているけど、職場の挨拶は「おはようございます」で始まる。流石は元社会人。ブラックだったから社員はガン無視だったけど。


「きたぁッ!」


「本当に子供よ!」


「待ってました、天才少年!」


 ……何故か歓迎されている。


 ブラック企業入社初日も、めちゃ歓迎された。そして家に帰れなくなった。


 まさか、ここもか!?


 職員室にいる先生方の笑顔に戦慄が走る。


「ルシア君の答案、あの計算はどうなってるんだ!」


「連撃魔法陣ってどうやったの!」


「え、えっと……」


 先生方の勢いに呆気に取られていると――


「はい、はい、皆さん、ルシア先生が困っていますよ」


 白い髪が少し混じり始めた初老の女性先生が場を鎮めてくれた。


 いい先生だ。


「そういった質問は歓迎会で聞きましょう」


 キランと初老先生の目が光る。


 悪だった。





「ルシア先生はここの部屋を使ってね」


 若い女性の先生――シャロン先生が個人に割り当てられた個室……研究室を案内してくれた。


 ……ベッドがある? 家に、帰らせないつもりか?


「あ、あの、なんでベッドがあるんですか?」


「あら、本当。前の先生の忘れ物ね。見落としていたのかしら?」


 いやいや、ベッドは見落とさないでしょう。


「あとで片付けてもらうわね」


「よろしくお願いします。精神的に。」


 首を傾げて「フフ、面白い子」と笑った。


 ……職場にベッドは精神的によくないと思います。


「……でもここにアレを設置したら、他の人が使えないな」


「何をですか?」


「えっと、これです」


 僕は異空間収納からコピー箱を取り出した。


「……えっ? 今、どこから出しました?」


 ……しまった、異空間収納もレア魔法だから矢鱈に使うなとマライアさんに念をさされていたんだ。


「え、いや、ここに置いてありましたよ……」


 適当にとぼける僕。


「そ、そう? そうだったかしら?」


「それで、この箱はですねッ!」


 僕は大きな声で話題を変え、コピー箱の説明をした。


 ――そして説明が終わるとシャロン先生は何故か慌てて部屋を出て行ってしまった。


 ……トイレ、我慢してたのかな。





 『廊下を走るな』


 学院ではベーシックなルールだ。しかしそれを守らない教師がいた。


 学院はまだ新学期前とあって、廊下を歩く生徒の数は少ない。


 しかし、その少数の生徒達は目撃した。若い女性教師が慌てて廊下を走る姿を。


 職員室のドアが壊れんばかりに勢いよく開かれた。


「神よッ! 神が降臨したわッ!」


 息を切らしながら叫ぶ女性教師シャロン。


「シャロン先生、宗教の勧誘は学院では駄目ですよ」


 男性教師が指摘するが、


「神、神なのよ! ルシア先生はッ!」


 今日から着任した幼い教師の名を叫ぶシャロン。


「確かに彼は神がかってはいるが」


「そうじゃないのよ!」


 シャロンは少年の研究室で見たコピー箱を他の先生達に鼻息を荒くして説明をする。


「そ、それは本当なのか? そんな紙を複写する魔法陣カードなんて聞いた事がないぞ」


「見ました! 有ります! 私はルシア先生がコピー箱でプリントを複写するのを目撃しましたッ!」


 ハアハアと息を切らすシャロン。


「しかも、しかも彼はそのコピー箱を私達にも使って欲しいと」


「マジか! それがあればプリント作りが大幅に短縮できるぞ!」


「試験前の問題を生徒分書き写す作業が無くなるのかッ! やった、家に帰れる!」


「……神だ」


「……ルシア神、降臨」


「ルシア様バンザーイ!」


 王立学院の職員室は未だかつてない興奮に包まれていた。




【作者より】

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