辺境伯領編 第53話 大賢者の謎に迫る

「大賢者ルドルフについて私が調べた事柄を記す、と」


 僕は客間を借りて、ソファーにもたれておばあさんの調査史を読み始めた。


「……ルドルフは黒髪、……独自の魔法語、魔法陣カード発明の創始者!?」


 何か、僕と被ってない?


「ルドルフの作った魔法陣カードは苛烈で、時の国王は彼のカードを軍隊に持たせ……酷え」


 ルドルフの生涯は酷いの一言につきた。時の国王に軟禁され、強力な魔法陣カードを大量生産させられていたらしい。


「彼の国の軍隊は世界の果てまで進軍し……はっ? 魔法陣カードが使えなくなり壊滅した?」


 その理由は……分からない。


「怒りに震えた国王はルドルフを斬首刑……」


 本を持つ手が震える。


「……死体は光になって消えた」


 目頭が何故か熱を持っている。


 胸がざわついた。


 ――幼い頃に一度だけ見た、あの不思議な夢。


 ルドルフが言っていた言葉が今、繋がった様な気がした。


『異世界の赤子よ、可能性の赤子よいずれ我が叡智授かりし時がくる。汝は自由に生きよ。選ばれ時赤子よ、我は賢者ルドルフ』


 黒髪のルドルフ。


 大精霊エストリアが言った『カンジ』とは、ルドルフが使っていた独自の魔法語。


 そしてエストリアとルドルフが行った盟約。


「そう言うこと、なのか……」


 僕は静かに本を閉じた。





 本も読み終わり、魔法陣カードについて分かったことがある。ルドルフの作った魔法陣カードは全て消えてはいなく、第一位階から第三位階までの弱い魔法――生活系魔法は消失していなかった。


 そして後の魔法学者たちがルドルフの魔法陣カードを元にいくつかの魔法陣カードを作った。しかし攻撃系の魔法陣カードは一枚も作ることはできなかった。


 おばあさんは本の最後に、ルドルフの平和への願いが攻撃系魔法陣カードを封印したのではないかと記している。


 僕もそうであって欲しいと願った。




 

「さて、時間があいたぞ」


 感慨にふけてばかりではいけないので、何か体を動かしたくなった。


 と言って、お父さん一緒に体を動かしましょうなどと言ってしまったら一発アウトだ。


 僕は少し悩んだ末、来月からの学院で使う道具作りをする事に決めた。





「こちらで宜しいですか」


 アンナさんに案内されて木材置き場にきた。


「はい。大丈夫です」


 僕は幾つかの板を手に持ち大きさや重さを確認する。


「ルシア様、差し支えなければ見学をしても宜しいでしょうか」


 見学? お目付け役とかじゃないよね。


「はい、いいですよ」


 僕は折角の機会だから気になっていた事を聞いてみた。


「アンナさん」


「はい」


「アンナさんって僕の知る誰かに似ている感じがあるんです」


 クスっとアンナさんが小さく笑った。


「それは妹のニーナですね」


 ニーナさん。鉱山村の領邸で働くメイド三人娘の一人で要注意人物だ。


「あ〜、ニーナさんのお姉さんだったんですね。……ニーナさんの」


 僕は驚いたあとに一歩後ずさんでしまった。


「ルシア様、私はニーナとは違いますのでご安心ください」


「そ、そうですか。安心しました」


「……ルシア様、安心なされたのですね」


 あれ? アンナさん、目付きが少し怖いです。


「はぁ〜、ニーナがご無礼をしているようで大変申し訳ございません」


 ん〜、つまり僕が安心した=ニーナさんが無礼をしている。……誘導尋問? ア、アンナさんも怖い!


「だ、大丈夫ですよ、まだ」


「まだ?」


 ひ〜、何か藪蛇になりそうだ。


「あ、え〜と、さ、作業を始めますね」


 僕は逃げるように作業に取り掛かった。





「出来た!」


 僕は『造形』の魔法を使い木箱を作った。大きさは縦30センチ、横20センチ、高さ30センチぐらいの四角い箱だ。


 組子の様に釘無しで作れた事に感動を覚える。


 アンナさんは終始ポカンと口を開けて見ていた。美人さんのポカン顔、素敵です。


「ル、ルシア様、その木箱は何をする為の物ですか?」


「これはコピー箱といいます」


「コピー箱?」


「はい。まず上段の引き出しに複製したコピーカードを入れます」


 僕は引き出しを開けた。上段の引き出しは枠の様になっている。その枠にはめる様にコピーカードをセットする。


 次に、と言って二段目の引き出しに『裸で廊下を歩かないで下さい』と書かれた紙を入れ、三段目の引き出しに無地の紙を入れた。


 アンナさんは興味深気に黙って見ていた。


「準備は出来たよ」


 箱の上部には四角い窓が付いていて、僕はそこに手を翳す。


「コピー」


 窓から光が溢れ、間もなくして消えた。


「さて、上手く出来たかな」


 三段目の引き出しを開け、無地だった紙を取り出す。


「ヨシ、成功だ!」


 無地だった紙には『裸で――』の文字がコピーされていた。


「ね、成功だよ、アンナさん」


「は、はい、コピーカードが凄い事は承知しておりますが、箱にどの様な意味があるのですか?」


「うん、アンナさんは僕が学院の先生をするのを知っているよね」


「はい、昨日伺っております」


 昨日の応接間での僕の暴露大会で話てある。


「学院には生徒や先生がいて、みんなもコピーカードを使いたいはずだし、使って欲しい」


 まだピンと来ていないアンナさん。


「でも、都度僕が貸し出してたら面倒だし、盗難の危険もある」


 そこでアンナさんが目を見引いた。


「そう、これは設定固定型のコピーカード、名付けてコピー箱さ」


「ぜ、ぜ、是非、お城にも支給して下さい! お願い、お願い致します!」


 アンナさんは深々と頭を下げた。


「え、いや、これただの木箱だし」


「いえ、ただの木箱では有りません。ルシア様の叡智の木箱です。このアンナ、改めてルシア様の入神の技に感服致しました」


 あれ? そんなに凄い? だってこれ、誰でも作れる木箱だよ?


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