辺境伯領編 第52話 えっ、にゃぁぁご?

「あ、あの、マライアさん?」


「し、仕方あるまい」


 僕はマライアさんの寝室にいた。


 なんでこんな事になったのか。それは夕食後のお父さんの一言が発端となった。


【夕食後の食堂】


「ルシア、部屋に行くぞ」


 お父さんの一言。


 何を言ってるんだ、このおっさんは?


「良い酒がある。お前も付き合え」


 ニ十八歳的にはこの世界のお酒には興味あるけど――


「僕、まだ十歳ですよ」


「おっと、そうだったな。まぁ、付き合え。ベッドも一つ余っているしな」


 それってお泊りって事? 


 蘇るクソ上司の部屋でのお泊まり忘年会。あれは最悪だった。


「あ、あの、僕は――」


「駄目よ、あなた」


 止めてくれたお母さん。


 感謝します、お母さん!


「ルシア君はマライアの部屋で寝るのよ。婚約者なんですから」


 方向が違った。


「い、いや、僕は一人が……」


「そうよね、マライア」


 マライアさんを巻き込むお母さん。


「わ、私は、ど、どうなんだ……」


 しかし――


「よね」


 お母さんの会心の微笑みを含んだ「よね」には、その場にいた全員――アンナさんさえ逆らう事が出来なかった。


 というわけで今に至る。


「あは、あはは、王都のホテル以来ですね」


 マライアさんの顔が赤い。僕はベッドの端に座り――


「あの時は僕の膝の上で寝ちゃったんですよね。また寝ます?」


 場を和ませる軽いジョーク。


「なんてね」


 えっ?


 マライアさんが隣にちょこんと座り、コテンって僕の膝の上で横になった。


「マ、マライアさん? 冗談で言ったんですよ」


 僕はマライアさんの頭を撫でながら言った。


「にゃ〜」


 えっ? 今、言った?

 

 僕はもう一度頭を撫でた。


「にゃぁぁん……」


 何これ?


 膝の上からマライアさんの温もりが伝わってくる。それと――


「お酒くさい」


 マライアさん、酔って寝ちゃったのか。夕食中に赤ワインを嗜んでいたのは知っていたけど……。


 久しぶりの里帰りで気が緩んだのかな。僕はマライアさんの頭を優しく撫でた。


「にゃごぉぉぉ」


 何、この可愛い生き物は?


 マライアさんの知られざる可愛いさに僕は暫く夢中になって撫で撫でしてしまった。


「……流石に今日は……色々あったな」


 少し虚ろ虚ろしてきた。


 百連撃魔法陣の疲れ? いや、前話では発生しなかったご両親の挨拶イベント、思っていた以上に緊張していたみたいだ。


 そして、ふと思い出した十年前の事。


「僕の最後の言葉……『結婚したい』とかだった……な……」


 僕は膝で寝るマライアさんの温もりを感じながらそのまま横になる。


「しわ……わせ……だ」


 得も知れぬ幸福感を感じ僕は眠りについた。





「もう見つかったんですか!」


 朝食の食堂でアンナさんが手渡してくれた物――大賢者ルドルフ調査史と書かれた綴りだった。


「はい。メイド一同ルシア様にご恩をお返し致したく、昨夜のうちにお探ししました」


「ありがとう、嬉しいよ!」


「ど、どう致しまして」


 少し恥ずかしそうなアンナさんが可愛い。


「良かったな、ルシア」


 朝から太いハムを鷲掴みにして豪快に食べているお父さん。


「はい、めちゃめちゃ嬉しいです」


 早く読みたい、早く読みたい、早く読みたい。


 僕は忙しなく朝食を食べ終わると席から立ち上った。


「ルシア、今日の予定だが」


 今日の予定? 僕は読書一択だよ。


「私は街の友人に挨拶に行く予定だが、ルシアは……」


 僕はソワソワしながらマライアさんの話を聞いている。


「まあ、留守番で大丈夫そうだな」


 やれやれみたいな顔のマライアさん。


「はい、では失礼します」


 僕はそう言って食堂を退室した。


 大賢者ルドルフ調査史か! 何が書いてあるんだろう!


 僕はウキウキしながら廊下を歩いた。


 

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