辺境伯領編 第50話 国家レベルの大発明? いや、それはないでしょ

「ガハハ、賢者の継承者とは、得心がいったわ! あの百連撃魔法陣だけでも有り得ん事であったが、新魔法陣カードとはな」


 僕が新しい魔法陣カードを出した事で応接間は騒然となった。


 魔法陣カードは百年近く新しい物が作成されていない、言わば研究され尽くされた製品であった。


 そこに僕の新魔法陣カードとなれば、その経緯を話した方がよい。と言うかマライアさんとは鉱山村での打ち合わせでご両親には話す事を決めていた。


「囚人送りなんて、ルシア君、苦労したのね」


「いえ、その御蔭でマライアさんと出会えたので、僥倖だったと思います」


 僕は男爵家の生い立ちから今に至るまでを話した。


「それで父上、母上、ルシアとの婚約の件は……」


「ガハハ、勿論オッケーだ。ルシアは辺境領を守った英雄だぞ」


 お父さんの快諾。


「良かったわねマライア。幸せになりなさい」


 お母さんの優しい微笑み。


「はい」


 マライアさんは小さな声で嬉しそうに答えた。





「さて、それではコピーカードの説明をします」


 応接間には僕、マライアさん、ご両親、メイドさんの五人がいる。


 このメイドさん、誰かに似てるんだよな。


 まじまじと見ていたせいか、メイドさんと目があってしまった。


「自己紹介が遅れました。私、メイドのアンナと申します。ルシア様、今後とも宜しくお願い存じます」


「あ、僕はルシアです。宜しくお願いします」


「ふふ、存じております」


 そりゃそうだ。行き成りの事でテンパってしまった。


 ゴホン、と咳払い。


「先ずは準備として、文字の書かれた紙と、同サイズの無地の書を貸して貰えますか」


 僕が言うとアンナさんが二枚の紙をテーブルに置いてくれた。先ほどの被害状況報告書の一枚……ではなく、紙には『裸で廊下を歩かないで下さい』と書かれた紙だった。


「あ、あの……これは?」


 僕の質問に答えてくれたのはアンナさん。


「城内風紀の為の貼り紙でございます」


 僕はアレかと思いお父さんを見るとあらぬ方を見てヒューヒューと口笛を空かしている。


「アハハ、お母さんも大変ですね」


 そう言ってお母さんを見ると、アレ、赤い顔で目線を反らされた。


 えっ? まさか、そうなの? 確認したくてマライアさんを見ると……。


 あ〜、この家族、裸族一家だ……。


 ヨシ、今の件はリセットしよう。うん、僕は何も見ていない。見ていない。


「ゴホン、では始めます。アンナさん、二枚の紙の上にこのカードを翳して『コピー』と唱えて下さい。カードに注ぐ魔力量はクリーンと同程度です」


 僕は魔法陣のカードをアンナさんに手渡す。近くで見るアンナさんの顔。うん、ホントに誰かの面影がある。誰だろう。


「コピー」


 魔法陣が光り輝き、二枚の紙も淡い光を出した。


「うん、成功だね」


 光が消え、無地だった紙を見ると「裸で歩かないで下さい」としっかりコピーされていた。


「この様に……あれ? 皆さん、説明しますよ」


 ご両親とアンナさんが目を点にして固まっている。


「ククク、アハハ、初めて父上と母上を出し抜けた」


 隣のマライアさんが腹を抱えて笑っている。


 あの……僕の説明は?





「しかし、アレだな。百年ぶりの発明ってのには吃驚したが、紙を写すだけの魔法じゃ全く役には立たな――ゴフッ」


 話し途中のお父さんの顎に隣に座っていたお母さんのアッパーカットが突き刺さった。


「あなたは、本当に脳みそが筋肉ですね! この発明は事務仕事をしている全ての人にとって神のアイテムなのですよ!」


 キレるお母さん。


「そうです、お館様! 兵士の当番表を人数分作るのがどれだけ手間か。このコピーカードがあればどれほど私共の手間が減るか。まさに神のアイテムです!」


 今まで会話には参加せず静かに控えていたアンナさんが吠えた。


「そ、そうか、それは良かったな……あはは」


 どうやらお父さんは事務方の仕事とは無縁らしく、コピーカードの便利さは分かって貰えなかった。しかし――


「ルシア君、これを私達にと言っていたけど、こんな凄いものは頂けないわ」


「いえ、是非受け取って下さい」


「だ、駄目よ、受け取れないわ」


「お母さん」


「奥方様ぁ〜」


 アンナさんも僕サイドになってプッシュしてくれたよ。


「わ、分かりました。アンナ達が夜な夜な書類整理をしているのを知っていますからね。これで少しでも楽になるなら、有り難く頂いておきましょう」


「ありがとうございます、奥方様」


 アンナさんは飛び跳ねんばかりに喜んでいた。


「お母さん、実務で使うのは勿論ですが、僕としてはコピーカードを販売して、復興支援の支援金に充てて欲しいのです」


「だ、駄目です! う、売るなんてとんでもございません」


 少し涙目になってしまったアンナさん。残務がよほど大変なようだ。


 うん、うん、だよね。元ブラック企業社員としては痛いほど分かるよ。


「説明不足でした。このカードを売るわけではないんです。もう一枚、無地の紙を貰えますか」


 アンナさんが無地の紙を一枚、そして僕も鞄からもう一枚のコピーカードを取り出しテーブルの上に置いた。


 興味深げにお母さんとアンナさんが覗き込んでいる。


「コピー」


 魔法陣カードを発動させるとテーブルの上の無地の紙にコピーカード複製版が出来上がった。


「この様にして出来上がった、こちらの複製版を販売するのです。複製版は使用回数30回、また複製カードで再コピーは出来ません」


「面白いですね」


 お母さんが話に乗ってきた。


「後は価格ですが、僕としては薄利多売で多くの事務方の人に使用して欲しいです」


「ルシア様のご意見、私も賛成致します」


「そうね。このカードは薄利多売でも十分な需要がある事は明白ですから、かなりの利益を見込めると思うわ」


 応接間に入室した時のお母さんの顔は生気がなかったが、今は顔色が復活している。


 少しは活力を取り戻せたようで良かった。さて――


「それともう一つ」


「まだ有るのか!?」


 お父さんが呆れ口調で言う。


「ルシア、私は聞いてないぞ」


 マライアさんも驚いている。


「フフフ、本邦初公開の新魔法陣カードです。無地の紙をもう一枚ください」


 アンナさんから紙を貰い、新魔法陣カードの下に重ねる。


「マライアさん、笑ってみて下さい」


「な、何を急に言い出すんだ」


「いいから笑ってみて下さい」


 戸惑いながらもマライアさんが笑い顔を作る。若干引きつり笑いになっているけど、まぁいいか。


「『はい、チーズ』」


 魔法陣が赤、青、緑の3色の光を放ち、3色の光はやがて7色の輝きとなって紙の中へと溶けていった。


「こちらが、新魔法陣カードでできた【写真】です」


 無地だった紙をテーブルの上に置くと、そこにはカラーでマライアさんの引きつった笑顔が写っていた


「何だ、これはぁぁぁぁッ!」


 コピーカードには無関心だったお父さんが吠えた。


 お母さん、アンナさん、そしてマライアさんも驚いた顔をしている。


 ドッキリ成功って感じがたまらない!


「このカードはカメラカードと言って、立体物を平面に写すカードになります」


「ル、ルシア、あなた、とんでもないものを作ったわね」


「えっ、そうかな?」


 前世ではスマホはみんなが持っていたから、カメラは珍しい物じゃなかったよね。


「これはまさに大発明、国家レベルの大発明だわ」


 国家レベルの大発明? 


「いやいやお母さん、国家レベルは言い過ぎだと思いますよ」


「「「いや、これは国家レベルだからッ!」」」


 ……そうなの?

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