辺境伯領編 第48話 領都襲来

 僕とマライアさんも直ぐに城の外に出た。城内、城外共に慌ただしく兵士やメイドが走り回っている。


「何が起きているんだ……」


 マライアさんが呟くが、お城からは高い塀のせいで状況が把握できない。


「飛翔で確認します」


「私も連れていけ」


 僕とマライアさんの目があい、互いが頷く。

 

 その時――


「待て、飛ぶなら私を連れていけ!」


 お父さんが僕達のそばにいつの間にか来ていた。


 えっ、と思いマライアさんの顔を伺うと、マライアさんは真剣な目で頷いた。


「『飛翔』」


 お父さんを身体強化の魔法を使い抱きかかえた。僕は城塞よりも高く舞い上がる。


「あれか」


 お父さんが城塞都市から離れた森の中から黒い煙がもうもうと上がっているのが見えた。


「何かいますね」


 その煙の中に空を飛ぶ生き物が三体見える。時折、太陽に反射して深紅の鱗の様なものが見えるが……。


「ああ、報告にあったレッドワイバーンだ」


 レッドワイバーン?


「それってどれくらいヤバいんですか?」


「ヤツのブレスはレッドドラゴン級だ。軽く都市を焼き尽くすレベルだ。しかも三体とは」


 都市を焼き尽くすって……。


 見下ろした城塞都市の中は――怒声を上げる男、泣き叫ぶ子供、膝をついて祈りを捧げる老婆、多くの人達が混沌の中で避難をする姿が見える。


「あそこには村があったはずだ。村人達が気になる。ルシア、飛べるか」


 お父さんが僕をルシアと言った一言が、この非常事態のさなかとはいえ、僕の心に大きく響いた。


「はい、勿論です!」


 僕はお父さんを抱えたまま、あの黒い煙の方、レッドワイバーンが炎を吐く森へと飛んでいった。





 城塞を越え森の上空。木々の間に見える街道に幾人もの人影が見える。


「あれは村の人間か。ルシア、一旦降ろせ。状況を確認したい」


 言われて街道に降り立つ。お父さんは直ぐに近くの村人を捕まえ話しを聞きだした。


「何? 冒険者がどうした」


「ぼ、冒険者達がレッドワイバーンの卵を盗んだんです。そして追いかけてきたワイバーンが村を、村を焼いて……」


 村人の話だと冒険者達がいわゆる魔物のなすりつけを村にしたみたいだった。


 冒険者といえば双翼の夫婦冒険者を思い浮かぶ。あの人達基準でこの世界の冒険者をイメージしていた。


 しかし、村をひいては辺境伯領に多大な被害を引き起こす犯罪まがいの冒険者がいる事に憤慨の気持ちが湧き上がった。


「それで、村人達は全員避難は出来ているのか」


 お父さんの問いに質問を受けた男が返答に窮していると、別の男が全員避難したと回答をした。


「村人は無事か、不幸中の幸いだな。あとはレッドワイバーンか……」


 お父さんは悩んだ末、一旦領都に戻る決断をした。


 空に上がり、再び黒煙が上がる森の方を見た。


「こちらに来てくれるなよ」


 お父さんが祈るように遠くのレッドワイバーンを睨みながら言った。


 しかし、僕とお父さんが城壁にきた頃にはレッドワイバーンもこちらに向かい飛んでくる姿が見えた。


「は、早い。まだ村人も領民も避難が終わっていない」


 お父さんはギリッと歯を噛み締めた。


「僕にやらせて貰えませんか」


「ルシアに? やれる……いや、やってくれるか黒髪の魔術師」


 黒髪の魔術師、僕が二年前に王国に雨を降らせた時についた二つ名。


「お父さんは僕を知っていたんですか?」


「空を飛べる子供など、王国広しといえ黒髪の魔術師以外にはいないだろうが」


 ニヤっと笑ったお父さん。初めて僕に向けてくれた笑顔。僕はその期待に答えたい。


「降ります」


 僕は高い城壁の上に降り立つと、お父さんが僕から離れた。


 空を飛ぶ魔物。相手は竜種の硬い鱗を持っている。


 最大火力なら極大爆焰球。しかしあれはこの辺りの森を吹き飛ばしてしまう。


 ならば雷龍か。雷龍のブレス雷哮。いや、燃えているとはいえ雷哮では村にも被害がでる。


 厳雷……いや距離があるから厳しいか。


 ならばここは、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる作戦だ。



 僕は大きく両手を広げる。


「『音速石弾』」


 選んだ魔法は高速石弾の上位魔法。硬い鱗を撃ち抜くなら打撃力重視!


「✕ 100」


 青白く光る魔法陣が城壁の上に幾つも展開していく。その数、全部で百個。


 光の壁と化した百の魔法陣から百の石弾が現れる。


「打ち抜けぇ!」


 号令斉射。百発の音速石弾による集中砲火。辺りに響くソニックムーブの轟音。


 着弾した石弾が塵となり、三匹のレッドワイバーンが飛んでいた空を灰色の煙が覆う。


「やったか」


 あっ、それ言っちゃだめなやつだ。


 音速石弾が飛び尽くし、辺りに静寂が戻る。


 風で消えていく灰色の煙。


 そしてそこには飛翔していた三匹のレッドワイバーンの姿は見えなかった。城壁の上では、兵士たちがざわめき、やがて小さなどよめきへと変わっていく声が聞こえた。


(やったかフラグの回避は出来たよね。でも何だろう……この不安感は)


 僕は気が付いていなかった。やったかフラグが回避されていない事を……。





【城内】


 ルシアの放った音速石弾のソニックムーブにより、城は大きく揺れ、多くの窓ガラスが砕け散った。


「ルシアのヤツ……、またやったか」


 マライアは埃が舞う城の中で呆然と天井を見つめていた。

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