辺境伯領編 第47話 荒熊と戦慄姫どっちが強い?
ゴフっ
お母さんが持つ細身の木刀が、目にも留まらぬ速さの平打ちでお父さんの腹を打つ。
お父さんがくの字になって腹を押さえて苦渋の顔になる。
「あらあら、あらあら」
銀髪の麗人、マライアさん似のお母さんが細身の木刀を脇に差し、長い髪を揺らしてルンルンという感じでこちらにきた。
「素敵な男の子をあなたが連れて来るなんて、お母さん嬉しすぎるわ」
「ご無沙汰してます、母上」
お母さんはめちゃくちゃ明るい笑顔で僕と抱きかかえたままだったマライアさんを見た。
「それでマライアをお姫様抱っこしている君は誰君かな?」
マライアさんを降ろす間が取れず、そのままの体勢で慌てて挨拶をする。
「は、はじめまして。ルシアと申します」
「ルシア君ね。私はマライアの母よ。宜しくね大魔法使い君」
陽だまりのような笑顔を向けられ僕は顔が赤くなった。
「ぼ、僕は大魔法使いとかでは……」
「あらあら、お空を飛べる魔法使いは、みんな大魔法使いよ」
確かにマライアさんから飛翔魔法は高位魔法だと聞いている。
「それで大魔法使い君とマライアとはどういう関係かしら。マライアの指輪も素敵だし、お母さん期待しちゃうわぁ」
「は、母上、それはこの様な場では……」
頬を赤らめて言うマライアさん。僕の首に回していた腕に力が入り、僕の頬近くまでマライアさんの顔が接近した。
(ち、近いよ、マライアさん)
「あら、まぁ、お母さん早く聞きたいわぁ」
その時、太陽を遮る巨大な影が僕を覆った。
「ああ、詳しく聞かせて貰おうか!」
身の丈2メートルを超える巨大な熊、もといお父さんが鬼の形相で僕を見下ろしている。
ゴフっ
居合抜きよろしく、お母さんの細身の木刀が脇から抜かれ神速の平打ちがお父さんの腹を強打する。
鋼鉄を思わせる屈強なお父さんが、地面を揺らし一撃で沈んだ。
「あなた、私がルシア君とお話してるのよ」
お母さんの引き攣った笑顔に戦慄が走る。
……ゾクっと背中に冷たいものを感じた。
(戦慄姫の二つ名、半端ないです)
◇
「婚約だとッ! 絶対に許さん!」
訓練場での一幕から僕達はお城の応接間に移動した。
その場にいた兵士達の興味津々の視線が凄い事になっていたから、お城の中に入れてめちゃくちゃホッとした。
応接間に入りメイドがお茶を出す間もなく、本題を打ち明けたマライアさん。
「なぜですか父上!」
僕の隣に座るマライアさんが焦り声を上げる。
「なんでですか、あ・な・た」
お父さんの隣に座るお母さんが、お父さんの頬を顔が歪むほどつねり上げる。
「あの指輪を見て、わ・か・ら・な・い・のッ!」
更に捻りが入った。あれは痛い。
「ひたい、ひたいよ、お母さん」
怒声を上げた荒熊ことお父さんが、今は涙声になっている。
僕はもうこの家のパワーバランスを理解したよ。
「だってねお母さん、マライアは二年前に大きな傷をおったんだよ。あんな事がまた起きるようなら、お父さんこの国滅ぼしちゃうよ」
お父さんの婚約反対はマライアさんを思っての事だった。見かけによらず優しいお父さんだ。国家転覆とかはヤバいけど。
「あなた、そのマライアが連れてきた男の子よ」
「し、しかし」
お父さんが恨めしい顔で僕を見た。
「彼はまだ子供だよ。マライアとは歳が離れすぎている」
「あら、あなたと私の年の差は気になさらないのに? まさか男はよくて、女はだめとか言いませんよね」
「そ、それは」
「よね」
お母さんの凍りの笑み。応接間が真冬の雪原の様に冷たい空気がみたす。
「よね?」
「はい。でも……」
巨木の様な太い両腿に腕を挟んで小さくなるお父さん。ある意味、見てて可哀想になる。
「でもぉ?」
般若の様な顔になったお母さん。
その時――
カン、カン、カン、カン、カン
城内に響き渡る大きな鐘の音。
お父さん、お母さん、マライアさんまでもが緊張した面持ちで立ち上った。
「鐘、五つだとッ! 何が起きた!」
慌てて応接間を飛び出したお父さん。お母さんもそれに続いて部屋を出る。
「マライアさん、鐘五つって何ですか?」
「鐘の回数で警戒レベルを決めてあるんだ。鐘五つは――」
怖い目付きになるマライアさん。
「領都消失級だ」
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