辺境伯領編 第46話 義父様は北方の荒熊。僕、大丈夫?

「ルシア、三日後に父親に会いにいく」


 マライアさんの執務室。ソファーのテーブルで複写カードの改良をしていたら、マライアさんからマライアさんのお父さん、つまり辺境伯領に行くとの話がでた。


 ちなみに僕が行っている改良作業はマライアさんやカテジナさんから指摘を受けた箇所の改良だ。


 複写カードの使用制限、複写カードを使った複写カードコピー品の対策、美術品などの模造品対策などなど。


「気を付けて行って来て下さい」


「お前も行くんだぞ。街道に大穴を開けてくれたのは、どこのどいつだ?」


「そ、そうでした」


 街道の修復はまだ始まったばかりだった。幸いにして鉱山村には囚人の方々がいるので労働力には事欠かない。僕も囚人だけど。


「ルシアの転位魔法で辺境伯領都まで行けるか?」


「無理ですね。転位魔法は行く場所が明確にイメージ出来ないと跳ぶ事が出来ません」


 マライアさんと相談した結果、僕が知っている街まで転位魔法で跳び、そこから飛翔魔法で飛んでいく事になった。


「それで、辺境伯領には何用で行くんですか?」


「そ、それは、ルシアとの婚約の報告に決まっているだろ」


 頬を赤らめて言うマライアさん。


「ゴホッ、ゲホッ」


 思わず咳き込んでしまった。


 お義父さんへの挨拶。世に言う「貴様などに娘はやらん」イベントだ。


 マライアさんとお付き合いするんだから仕方ないけど。


「ち、ちなみに、マライアさんのお父さんってどんな感じの人何ですか?」


 怖い人じゃなきゃいいけど……。


「そうだな。北方の荒熊とか呼ばれているな。世間では怖い人物のイメージが強いみたいだが、私には優しい父親だぞ」


 荒熊って、駄目なやつじゃん! しかもマライアさんには優しいって事は、僕には厳しいって事じゃね? 


「僕も行かないと駄目ですか?」


 荒熊さんに僕、殺されたりしない?


 十五歳でマライアさんに告白するつもりだった僕としては、婚約はめちゃくちゃ嬉しいイベントだった。でも、僕の命も大切だ。


「当たり前だ」


 ですよね〜。





「見えて来たぞ」


 鉱山村から見て北東にある辺境伯領の領都がある。


「このまま飛びますか?」


 マライアさんを両手で抱え、『飛翔』魔法で飛んでいると、前方に王都の城壁に負けないくらい堅牢な壁で囲まれた城塞都市が見えてきた。


「中心に見えるのが辺境伯城だ。そこの中庭に降りるぞ」


「ちょ、直接ですか! み、見つかりませんか?」


「見せつけるのが目的だ。今回はルシアを紹介するのも目的の一つだからな。飛翔魔法が使える子供ってだけで、普通じゃないのが一目瞭然だ。良いアイディアだろ」


 僕の首に手を回し抱きついているマライアさんが、悪そうな笑みをしている。


 相手は荒熊の異名を持つ北方将軍ですよ!


 僕は僕の命を心配しながら重厚な佇まいのお城を目指した。





「中庭、何かやってますよ?」


 お城の中にある広場に人だかりが見えた。


「あそこは訓練場だ。中庭は建物の中央にある」


 確かに良く見ると兵士達が剣を交えていた。


「ルシア、あそこでいい。ちょうど父上と母上がいた」


 あそこにお父さんが?


 あれかな?


 一際大きな体の男性がいる。巨大な木剣をブンブンと振り回して、女性の相手をしていた。


「あの女性の人、やたら強くないですか?」


 上空から観察していると、女性の剣戟の鋭さに、お父さんが防戦一方な感じに見えた。


「あれが母上だ」


 お母さん? 


「剣の腕だけなら父上より勝っている。昔は戦慄姫の異名を持っていたらしいからな」


 お父さんが荒熊、お母さんが戦慄姫。


「マ、マライアさん、お家に帰りませんか?」


「馬鹿を言うな。早く降りろ」


 僕は戦々恐々のていで訓練場に降下した。


 兵士の一人が下降する僕達に気が付き、あっと言う間に全員の視線が集まる。


 う〜、何か胃が痛い。


 そして、ストンと地面に着地した僕を待っていたのは――


「小僧、愛しい私の娘をお姫様抱っことは、ここに死にに来たか」


 巨大な木剣を肩に担ぎ、鬼の形相で殺気を放つ荒熊だった。


 やっぱりお家に帰りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る