辺境伯領編 第45話 ルシア革命パートⅡって何?

「「「お帰りなさいませ」」」


 転位魔法で鉱山村に帰ってきた。出迎えてくれたのはカテジナさんと、メイド三人娘のサリーさん、アリサさん、ニーナさんだった。


「あ、ああ」


 大聖堂での余韻もあり、マライアさんが少しぼお〜っとしている。


 その挙動に気が付いたカテジナさん。


「マライア様、王都での成果は如何でございましたが」


「万事上手くいった」


「万事でございますか。それは宜しゅうございました。カテジナは領主様がヘタレではないかと心配しておりました」


「う、うるさい!」


 クスクスと笑うカテジナさんに、赤い顔で照れ隠しをするマライアさん。


「そ、その事で皆に、ほ、報告がある」


 マライアさんが顔を赤らめて言うとカテジナさんは嬉しそうに微笑んだ。


「マライア様は分かりやすくて助かります。今宵はお祝いの料理と致しましょう」


「そ、そうか、そうだな、そうしてくれ」


 こうして、豪華な料理が並んだ夕食の席で僕とマライアさんの婚約報告が行われ、領主邸で働く方々からお祝いの言葉を沢山頂戴した。


 途中ニーナさんが


「フフ、これで側室ポジはカテジナ様か私か……フフフ」


 と不穏な事を言っていたような気がしたが、きっと空耳だろう。






 鉱山村に戻って僕は来月から王立学院で受け持つ事になった新算数のテキスト作りを始めていた。


「ほわぁ、マライアさんと婚約……」


 思い出すだけで頭がのぼせてくる。


「とと、準備、準備」


 領主邸で僕用に使わせて貰っている一室。机の上にはアラビア数字の対比表や、足し算の練習問題などを書いた紙が置かれている。


「あとは印刷だけど……」


 この世界の印刷技術は木版印刷で、僕も最初は木彫りの版画を作ろうかと思ったけど、そこはそれ、魔法で何とか出来ないか模索を始めた。


「フフフ、今までの僕と思うなよ!」


 異空間収納から新兵器を取り出す。


「じゃ〜ん、王立学院の購買コーナで買った【魔法基礎大全】だ!」


 マライアさんにおねだりして買って貰った魔法基礎大全の本は、大全というほど仰々しくはないが、第一位階から第三位階の生活系魔法を中心に綴ってあり、魔法陣や魔法語等の解説も書かれている。


「これで第二位階、第三位階の魔法陣と漢字の組み合わせの実験が出来るぞ」


 今回使いたい漢字は『複写』の二文字。もちろん右手の魔法陣を使えば可能だけど、僕しか使えず汎用性がない。


 テレスがカードを使ってクリーンの魔法を使っていた様に、カード化が出来れば誰でも『複写』が使える可能性がある。


 これからの授業で必要になる教科書やプリントなど、一人作業だと大変だし、魔法カード作成は小さい頃からの夢だった。


 ヨシ、実験開始だ。


 久々の魔法陣の研究で僕は結構ワクワクしていた。





「マライアさん、お願いがあるんですが」


 僕はマライアさんの執務室にお邪魔した。机で事務仕事をしていたマライアさんが顔を上げて、何故か少し嫌そうな顔をした。


 王都から帰ってきて三日が経ち、『複写』魔法のカードは紆余曲折の上、最終テストを迎えようとしていた。


 使った魔法陣は第三位階の魔法陣で、第二位階の魔法陣は漢字二文字が使える文字と使えない文字があって、『複写』は使えない文字だった。


 そして紆余曲折の中で一番手こずったのは、漢字の隠蔽だった。


 カードに書く魔法陣は誰でも使える用にする為、正確な魔法式の構築が要求される。


 昔、地面に書いた魔法陣が歪だと魔法が発動しなかった経験を踏まえ、出来るだけ丁寧に魔法陣と魔法式を記入した。


 ただ、漢字は言わば僕の転生知識であり、誰彼構わずに見せるのはあらぬリスク――前世で言うと魔女狩り的な危険があったら怖い。


 結果としては、魔法基礎大全に魔法陣の柄で隠蔽する技法が掲載されていたんだけど、それに気が付いたのは結構考えに煮詰まった後の事だった。がっくし。


「……良からぬ事以外なら聞いてやろう」


「何ですか、良からぬ事って? 新しい魔法陣カードを作ってみたので、僕以外でも使えるか確認したいんです」


「ま、魔法陣カードの発明だと!? あれは既に完成された魔法体系で、新種のカードはここ百年近く発見されていないんだぞ!」


「えっ、じゃ、じゃあ、コピーの魔法陣カードってもうあったりします?」


 ただ僕が知らないだけで、コピーカードが既に存在していなら、僕の三日間の努力が徒労に終わる。


「コピー? それはどんな魔法だ? 私は聞いた事はないな」


「では、このカードを使って、こちらのアラビア数字の対比表を、無地の紙に写してください」


「言っている事が分からん。写すとはどういう意味だ? 魔法でもそんなことはできる筈ないだろう」


「ま、まあやってみて下さい。対比表の紙を上、無地の紙をしたにして、スペル『コピー』を唱えてみて下さい」


 僕が半ば強引に魔法カードと紙を渡す。


 マライアさんは言われた通りに紙を重ね――


「コピー」


 と唱えた。


 魔法カードは一瞬輝き、直ぐに輝きは消えた。


「後ろの紙を見て下さい」


 マライアさんが後ろの紙を見ると、バン! と力強く机を叩き立ち上った。


「これは大発明だぞ! こんな魔法が使えたら事務仕事が果てしなく楽になるぞ!」


 前世でもコピー機はオフィスの必需品だった事を思えば、複写の魔法は重宝する事、間違いない。


「カテジナっ、直ぐに執務室に来てくれ!」


 僕が作った魔法カードに慌てふためくマライアさん。直ぐにカテジナさんが来て、更に舘内は騒然とする。


「新算数に続き、ルシア革命パートⅡって事か……」


 マライアさんの不穏な言葉に


「何ですか、それ?」


 と思わず突っ込みを入れてしまった。



【作者より】

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