王都訪問編最終話 第44話 婚約の誓い
「では、こちらへどうぞ」
腐れ司祭が去ったあと、大聖堂の中を案内してくれているのは、まさかの教皇猊下。
教皇と言えば国家間を超えた、ある意味で国王よりも偉い人だったりする訳で、そんな偉い人に案内とかされちゃっていいのかな。
いつもは強気のマライアさんも借りてきた猫のようになって教皇様の後ろを歩いている。
「あ、あの……」
と教皇様が振り返って僕を見た。
「す、少しだけ宜しいでしょうか?」
何を? と言う前に教皇様は僕の首元近くに顔を寄せて、クンクンと匂いを嗅ぎ出した。
やだ、何この人、怖いんですけど!
少し前にレスティーナ様がマライアさんに抱きつき汗の匂いをかいで光悦な顔をしていたのを思いだす。
まさか教皇猊下も汗の匂いフェチ!?
「良き香りがします」
教皇猊下、変態確定の件。
「精霊神アスナシア様よりも高貴な香り。まさか大精霊神様……」
ん? 大精霊神の香り?
って、ヤバい!
教皇猊下は神気の様なものを感じ取れるから教皇猊下をやってる訳で、僕に大精霊エストリアを感じるとか言われたら厄介だ。
僕は泳ぐ様な目でSOSをマライアさんに求めた。
「げ、猊下、流石にそれは」
マライアさんが教皇猊下の奇行を止めてくれた。
「も、申し訳御座いません。あまりにも精霊神様の強い気配を感じたもので」
白いベール越しに赤い顔で恥じている教皇猊下がいた。意外にも可愛い仕草だったので、ドキドキしてしまった。
◇
「着きました。こちらが【誓いの間】になります」
通された部屋は石の壁が神秘的に青く輝いている霊感あらかたな雰囲気のある部屋だった。
扉正面の奥には女神像が立ち、同じく青い輝きを放っていた。
「では、私が誓いの儀を執り行います」
「き、教皇猊下自らが!!」
もの凄い驚きを見せたマライアさん。
何を誓うのかは知らないけど、教皇猊下の立ち合いで誓いを立てれば、その誓いは鉄板確定、揺るぎない誓いになる。
「では、どの様な誓いを立てられますか」
「あ、あの……」
胸の前で、細い両手の指を絡まさモジモジしているマライアさんが可愛い。
「ル、ルシアとのこ、婚約の、誓いを」
マライアさんの誓い婚約の誓いだった。その誓い、鉄板確定です。良かったですね、マライアさん。
……ん?
ルシアとの婚約の誓い?
ルシアって、僕、だよね?
「マ、マ、マライアさん」
「ル、ルシア」
教皇様の目の前で赤い顔で見つめ合う僕とマライアさん。
マライアさんとの婚約。嬉しくない筈がない。
でも八歳の、しかも未成人の、なんなら囚人身分の僕と婚約って、薔薇色の夢でも見ているんじゃないかと、今を疑う。
「素敵な誓いですね。では誓いの言葉を精霊神アスナシア様に捧げてください」
僕は突然の事で驚き、生唾をゴクリと飲み込んだ。
マライアさんの顔を見ると恥じらいの中に決意を込めた瞳が輝いている。
僕は、意を決して女神像に向けて手を上げた。
「宣誓、僕、ルシアはマライアさんを愛し、楽しみも、悲しみも、共に分かち合い、いついかなる時も愛しあうと、精霊神アスナシア様に誓います!」
感情と勢いに任せて僕は言い切った。
「ル、ルシア、それだと結婚の誓いだぞ」
真っ赤な顔になったマライアさんから指摘をうけ、僕はハッとなった。
「あっ……」
「フフ、まあいいさ。私も続こう」
そう言って女神像の方へ一歩踏み出した。
「私、マライア・ロンズデールは精霊神アスナシアとこの指輪に誓い、ルシアと婚約する事を宣誓します」
その時、薬指にはめられていたダイヤモンドの指輪から光が溢れ、マライアさんと僕は光のベールで包まれた。
「……素敵な誓いに、精霊神アスナシア様がお二人に祝福の光を届けてくれました。おめでとうございます」
最後に優しく包まれた温かい光は精霊神の祝福だった。
僕とマライアさんはその光の中で、優しく優しく、互いの温もりを感じる様に抱きしめあった。
前世では味えなかった幸福感。
転生してから孤独だった日々が掻き消える様な心の安らぎ。
「お母さん、ありがとう……」
僕は知らずのうちに、僕が生まれて直ぐに無くなった母親に感謝の言葉を告げていた。
◇
『あの子供はもう帰った?』
「ア、アスナシア様!」
私が教皇の間に戻るとアナスタシア様が降臨されていました!
アナスタシア様の降臨など一年に有るか無いかの出来事です。
「ご、ご降臨されたいらしたのですね」
先ほどからあった胸のざわつきはこれでしたのでしょうか? でも……。
『あの子は帰ったのよね?』
「はい。彼らは婚約の儀を終えて帰られましたが」
精霊神アスナシア様が気にされたあの少年は……。
『ほっ、なら良かったわ』
「いかがされました? 先ほどは光のベールで二人を祝福されていたかと存じますが」
『光のベール? あれは私じゃないわよ。そう、私じゃ』
「ど、どういう事ですか?」
『あなた、気が付いてなかったのね。胸に手を充てて神力を感じてみなさい』
言われて自らの神力を感じてみました。
「こ、これは……」
私の神力が上がっています。
『あなた、あの子供の神力に触れなかった?』
私が?
「……あの子供から良い香りがしたので、つい匂いを嗅いでしまいました」
『……匂いってあなた。まぁいいわ。多分それよ。あなたは私より強い神格に触れた事で神力が上がったのよ』
「アスナシア様よりも強い神格?」
『あの子、エストリア様の加護を受けているわよ』
余りの驚きに声も出ません。大精霊エストリア様は言うなればアスナシア様達の神様です。なぜあの少年に……。
『あ〜、でも帰ったなら良かったわ。てっきり私を折檻しにあの子を差し向けたんじゃないかとヒヤヒヤしてたのよ』
「……折檻とは何かされたのですか?」
『あ、あなたには関係ない事よ。それじゃ私は帰るわね』
アスナシア様は光の玉になると、その光が弾けてお帰りなりました。
「大精霊様の加護を持つあの少年はいったい」
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