王都訪問編 第43話 大聖堂に来たら司祭様はクソだった?
「一ヶ月後にお会いできる日を楽しみにしていますわ、オホホホホホ」
気持ちいいほど軽快に笑うレスティーナ様と王立学院で別れ、僕とマライアさんは何故か王都の大聖堂に来ていた。
初めて見る大聖堂。神の権威を知らしめる為なのか、やたら豪華で雅な作りをしている。一言で言えばキラキラな建物だ。
「あの、大聖堂観光ですか?」
「ん、ああ、ち、違う。た、大切な用があるんだ」
いつものマライアさんらしからぬ歯切れの悪さに嫌な気配を感じる。
繋いだ手が汗ばんでいたのは分かっていたが、大聖堂を目の前にしてからは、びしょびしょレベルに汗ばんでいた。
「大丈夫ですか、マライアさん?」
「あ、ああ、私に任せておけ」
耳まで紅潮したマライアさんが僕の手をギュと握りしめた。
いったい何を任せろと?
まさか教会相手に何かやらかすのか!?
不穏な空気を感じながらも、僕達は大聖堂の中へと入っていった。
◇
大聖堂の中は、煌びやかで色とりどりのステンドグラスから差し込む明かりで、荘厳な雰囲気で立ち込めている。
左右に立ち並ぶ白い柱の間に敷かれた赤い絨毯。その上を僕達は歩かず、絨毯の脇を歩いていく。
「マライアさん、絨毯の上を歩かないのは、そういった仕来りですか?」
前世でも神社の鳥居は端を通る習わしがあった。
「ああ、赤い絨毯が敷かれている時は、中央を歩いてはいけない。神が通る道を穢してはならないって事になっている。実際は神の代行者の司祭達が通る為に敷かれているんだがな」
へぇ〜と思いながら赤い絨毯を見た。
「ほら、噂をしたら来たぞ。あの衣は司祭だな」
赤い絨毯の奥から白に赤の絨毯が入った神官服を着た頭の髪の毛が薄い小太りの男性を先頭にした一団が見えた。
「ルシア、あの一団が過ぎるまで、動かずに頭を下げていろ」
「マライアさんもですか?」
「ああ、そうだ。彼奴等には貴族も平民も関係ない独自の身分制度がある」
神を信仰するプライドみたいなものか?
僕は言われるがままに頭を下げ、一団が過ぎるのを待った。
あれ? 足が止まったぞ。
下げた頭から見える司祭の派手な靴。
「女、その指に付けた物を我が神に捧げよ。ならば神より大いなる祝福が授かるだろう」
はっ、何を言い出すんだ?
「失礼ながらこの指輪は大切な方からの贈り物でございます。聡明なる精霊神であれば人心乱す事ないと存じます」
「ふん、精霊神様のお言葉を預かる私の言葉に耳を傾けぬなど、この不信心者め。いいからよこしなさい! これは神への寄進なるぞ」
司祭が言うと慌ただしく一団の神官達が動き、僕達を取り囲んだ。ことここに至っては頭を下げてなどいられない。マライアさんも頭を上げていた。
「司祭様、神聖なる聖堂で荒事とはそれこそ神の御心を乱す行いでは御座いませんか」
言葉ジリは丁寧だが、マライアさんから鬼の殺気が溢れ出ている。僕も腸が煮えくり返る思いだ。
「それこそが戯言だ。その輝く宝石を寄進すれば神は私の行いを称える事間違いない」
司祭が言うと神官服の男達がにじりよってくる。
こんな所で手を出していいのか? マライアさんの顔にも戸惑いの色が見える。
「何を騒いでいるのですか」
物静かで透き通るような声が、聖堂の奥から発せられた。
その声を聞き動きがピタリと止まる神官達。
「き、教皇猊下……。な、何故こちらに」
赤い絨毯をゆったりと歩いてくる長い髪の女性。白い布のベールで姿は見えない。
身に纏う長いガーブは白を基調とした生地に青い柄のデザインがなされ、生地の端は金糸により美しい唐草模様の刺繍がなされている。
「精霊神アスナシア様のざわつきを感じ降りて参りました」
ゆっくりとした物言いだが、その声は何故か心に届く神秘的な響きがあった。
「ガルバン司祭、聖堂で声を荒げるとは精霊神アスナシア様の御心を乱す行いだとは思いませんか」
「ぐっ、この者が神への寄進を拒んだもので、つい」
「ついとはどの様な事でしょうか。寄進とは信者自らが供物を神に捧げる行為です。寄進に拒む拒まないなど御座いません」
「ぐぐっ」
額に青筋を立てて顔が真っ赤になる司祭。
「そして、あなた達」
あなた達とは僕達ではなく神官達に言った言葉だ。
「聖紅の絨毯が何故敷かれているのですか」
ベールで顔は見えないが、司祭を睨んだ、そんな感じがした。
「本日は式典はありません。直ぐに片付けてください」
神官達が青い顔で司祭の顔を伺う。
「ば、馬鹿者ども、私の顔を伺うな。す、直ぐに片付けろ。今日の巡礼は無しだ。私は部屋に戻る!」
頭から湯気を登らせ司祭は聖堂の奥へ歩いていった。
「大変失礼致しました」
けして深くはないが、教会ナンバーワンの教皇様が僕達に頭を下げた。余りにも恐れおおく、先ほどまで怒りのオーラに包まれていたマライアさんも恐縮したようで慌てふためいていた。
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