幼年期編 第3話 3歳児初めての読書が刺激的?

 幼児教育は三歳からと聞いた事がある。でも、この離れには一冊の本すらない。魔法含め知識がもっと欲しい。


 賢者さん、なんとかしてと願うが、あれ以降賢者さんの夢は見ない。本当にあれはただの夢だったのかもしれない。


「テレス〜、お本が読みた〜い」


「ルシア坊ちゃんにはまだ早いですよ」


「やだやだ〜、お本が読みたいぃぃぃ!」


 二十八歳児、堂々の駄々こね中。


 いや、理性ではわかってるんだ。でも体が三歳児だから、つい反応がそっち寄りになるんだよね。


「はぁ〜、旦那様に伺ってみますね」





「ふん、やはり来るべきでは無かったな」



 中庭の土に魔法陣を描いていたら、かっぷくのいいおデブなおじさんがきた。慌てて両手で掻き消す。


「男爵家の三男が砂遊びとは、なんと醜い」


 醜い? 


 初めて会う人に使う言葉か?


「だ、旦那様」


 男の後ろにいたテレスが青い顔で慌てている。


「本を読みたいと言うから我が男爵家に相応しく育っているかと思えば――」


 キッと僕は睨まれた。あの目付き、蘇る前世のクソ上司の顔。あいつも最低の人間だったが、コイツもか。


「見ていたら下賤な女の顔を思い出して不愉快だ! やはりここで暮らしていろ」


 男は手に持っていた物を地面に叩きつけると、踵を返して離れから出ていった。 


 アイツは……父親なんだろうな。


 僕が母と重なるから隔離? 僕も前世の上司を思い出すから隔離上等だよ!


「テレス、塩持ってきてッ!」


 僕はプンプン怒りながら、地面に叩きつけられた物に目をむけた。本のタイトルは――


「……『エロティカ伯爵の情事』」


 クソ親父、三歳の子供になにを読ませようとしてるんだ。





「ぺっ、エロティカのヘタレが!」


 クソ親父が地面に叩きつけた本を僕も叩きつけたい衝動にかられた。


 父親はクソだが本に罪はない。そう思い(少し鼻の穴を大きくして)僕は本を読み始めたのだが……思っていた程の官能小説じゃなかったのだ。


 ヘタレ伯爵の押しの弱さにはがっかりだよ!


 三歳児の僕をもってしても一度も興奮する事なく読み終えてしまった。


 とはいえ、内容はともかく収穫はあった。


 最初、本を見開いて吃驚した。


 何の知識もない僕が本を読めたのだ。あの時は、


「マジで? 本の文字が読めちゃってるよ! これって転生特典!?」


 深く悩んでもしかたないのでそういう事にしておいた。


 次に魔法陣についてだ。


 エロティカ伯爵が女性に良からぬ魔法を使う場面で魔法陣の簡単な解説があった。


 魔法陣カードは第一位階から第三位階まであるとの事。第四位階以上の魔法にはカードが無い事が分かった。


「クリーンの魔法方程式は、CΨ&Ⅴ&Ⅲで、CΨはクリーン、Ⅴは使用魔力量、最後のⅢは対象範囲だったな」


 今までもクリーンの魔法は使えたが、それは見よう見まね。今回は理屈を踏まえた魔法の行使。この違いは大きい。


「クリーン!」


 魔法陣から青白い光が溢れ、土で汚れた僕の手が綺麗になった。


「しかし、この世界の数字がローマ数字って、使い慣れてないからやりにくいよ」


 数字の事は一先ず置いといて、本に出てくる単語は覚えていこう。


 勉強は大切。ちょっと卑猥語に偏っている感じはするけれど……。





 単語を学ぶのに紙とペンが欲しくてテレスにねだってみたが――


「紙は高価なんですよ。ルシア坊ちゃんにはまだ早いですよ」


 子供がおいそれと使えるような物ではないと却下されてしまった。


 仕方なく中庭の地面に棒切れで書いては消してを繰り返し単語を覚えていった。


「ルシア坊ちゃん、私は本邸に行ってまいりますね」


「は〜い」


 中庭にいる僕に声をかけてテレスは離れから出ていった。テレスは終日この離れにいるわけではなく、僕の食事や洗濯、掃除などが終われば本邸へ行ってしまう。


「さて、魔法の検証を始めましょうかね」


 離れには遊ぶ玩具もなければ、友達が遊びに来る事もない。孤独なボッチ生活の楽しみの一つが魔法陣の検証だった。


 フフフ、今日は限界チャレンジ、なんなら限界突破だ。


 地面に描いたクリーンの魔法陣。魔術式をCΨ&∞&∞にしてみる。


「魔力注入、魔力注入、魔力注入!」


 魔法陣が輝き、輝き、輝き……アレ


 魔法陣がめちゃめちゃ光り輝いている。


 ば、ば、爆発する!?


 ピカァァァァァッ


 や、ヤバいぃぃッ!


 中庭はまるで太陽のように輝き、ほどなくして光は消えた。


「……お、おさまった、のか?」


 ドキドキした心臓を押さえながら辺りを見渡すと――


「な、何か、めちゃめちゃ綺麗になってるね」


 建屋の壁、窓ガラス、離れを囲む壁が、キラキラ光るエフェクトが見えるような綺麗さだった。


「い、今の爆光、誰かに見られて……ないよな」


 僕は冷や汗をかきながら周囲を見渡す。


「……∞記号は禁止だ。封印しよう」





 この時の僕は、楽しさの方が勝っていて、その異常さに気づけなかった。


 僕が三歳で魔法が使えた事、そして魔力量が三歳児のそれではない事に……。

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