幼年期編 第2話 異世界3年目 初めて魔法をやってみた

「クリーン」


 カードを取り出したテレスが魔法で俺のお粗相を綺麗にしてくれる。


(テレスは優しいなぁ)


 カードをチラ見すると、そこには魔法陣が描かれて、ピカーと光るエフェクトが中二心にはたまらない。


(魔法陣、めっちゃかっけぇッ!)


 何度もクリーンをしてくれた事で、俺も体の中に魔力を感じる事が出来るようになってきた。


(キタッ! 魔力覚醒ッ!)


 赤ん坊の俺にも魔力がある。体の中にポワ〜と温かく感じる時がある。


 いつから魔法が使えるようになるかは分からないけど今から楽しみだ。


 魔法やあのカード、早く使ってみたい!


 そういえば、あの時の夢。賢者なんとかが、力がどうとか言ってたけど、俺の魔力に関係しているのか?





 あれから早三年。


 言葉を喋れるようになった頃から、口調も自然と俺から僕に変わっていた。転生チルドレンあるあるってやつなのかね。


 ミリンダも僕の授乳期が終わると離れに来る事はなくなった。今はテレスだけが僕の世話をしている。


「ねぇ、なんでお父様はおうちに来ないの?」


 一度聞いた事があるが、テレスは答えにくそうな顔をしていた。


 たまたま奇跡的に僕には前世の記憶があったからぼっち生活は苦では無かったけど、普通の子供なら寂しさで毎晩泣いてる案件だ。


 でも僕は今日も元気に中庭を走る。


「ルシア坊ちゃん、そんなに走ると危ないですよ」


 離れの中庭は木の塀があり母屋の方を見ることができない。完全に僕は世間から隔離されていた。


「僕に魔法陣カード貸してよ〜。着火の魔法陣カード貸してくれたら走るのをやめてあげるよ〜」


 最近、魔法カードは魔法陣カードと呼ばれている事を知った。


 テレスはクリーンの魔法陣カード以外で、暖炉などに火を付ける為の火属性の魔法陣カードも持っている。


 火属性のカード、まさに中二心も燃える素敵なカードだ。


「坊ちゃんは十歳になってからですと、何度言えば分かるのですか」


 テレスはいつもの調子でため息をつく。


 魔法陣カードにも年齢制限があるとの事。タバコは二十歳からみたいなやつだね。


「え〜、カード使いたい〜! カード貸してよ〜」


 クリーンのカードは何となく理解した。火のカードはなかなか見れなくてめちゃめちゃ興味深い。


「ダメですよ。そういう決まり事ですから」


「ねぇ、テレスは魔法は使わないの?」


 僕は足を止めて聞いてみた。


「魔法陣カードは使ってますよ?」


「ううん、魔法陣カードじゃなくて魔法だよ」


「魔法ですか。私は魔法は使えませんから」


 魔法が使えない? 


 テレスは魔法陣カードに魔力を流して発動させている。魔力があっても魔法は使えないのか?


 でも僕は……魔法が使える。


 そう、僕はクリーンの魔法の発動に成功していたのだ。



 テレスが持つクリーンのカードに描かれている魔法陣は単純な図形だった。地面に棒切れで魔法陣を描いて魔力を流した。


「クリーン!」


 最初はぼやけた様に魔法陣が光ったが発動しない。それから、色々とやってみた末に魔法陣の形が歪だと駄目な事が分かった。


「今度こそ、クリーン!」


 地面の魔法陣がピカーッ!と光る。


「出来た! 出来た、出来た、僕にも魔法が出来たぁぁぁ!」


 魔法が発動したあの時、両手を上げてめっちゃ喜んだのはつい最近の事だ。


 それからは幾つかの魔法チャレンジを始めた。


 魔法陣に描かれているサークルや記号には意味があるはずだ。魔法陣の一部を消したり書き換えてみたりもした。しかし、クリーン以外の他の魔法は何も発動しなかった。



 やっぱり魔法に関する知識がもっと欲しいな。賢者なんとかの力もよく分からないし。


 着火の魔法陣カード、是非見てみたい。


「テレスのけち〜」


 ちぇっ、と僕は地面を蹴飛ばし不満をぶつけるように、また中庭を走り回りはじめた。





(ん? 頭を抱えてテレスは何をしてるんだろう?)


 離れの食堂にあるテーブルで、テレスは難しい顔をして頭を抱えていた。


 あの紙は?


 テレスはテーブルの上に置かれた紙とにらめっこをしている。

 

 僕はそっと近づいて、その紙を見て驚いた。


 書かれていたのはこんな感じの文字の羅列。


 CXXXⅠⅠ + XLⅠ=CLXⅢ


 ローマ数字? どういう事?


 驚いたのはローマ風数字が普通に読めた事だ。もしかして転生特典ってやつ?


 書かれていたのは計算式。


 132+41=163


 ん?


「テレス、その計算間違ってるよ」


 132+41の答えは173だ。


「ぼ、坊ちゃん、足し算が分かるの!」


 目を見開き驚くテレス。


 三歳児は胸を張る。


 えっへん。


 しかし、何で文字が読めるんだ?


 この離れには本などなく、文字があるのは時計だけ。数字がローマ数字でも別に変じゃないから気にした事はなかった。


 数学が読める? 


 ……なら文字は読めるのか?


 数字以外も確認したいけど離れには何もない。


 しかし、この世界はローマ数字なんだな。読むのはいいけど、書くのはマジ面倒くさそう……。


 誰か、世界の数字をアラビア数字に変えてくれ!




 僕がこぼした愚痴。まさかこれがフラグだったとは、この時の僕は想像すらしていなかった。





 数年後、世界はアラビア数字を知る。


 その数字はグランシル王国から始まり、徐々に世界中へと広がっていった。


 簡素化された数字は、高度な数学に伴う経済成長を呼んだ。


 そして、世界を変えた立役者の名をルシアといった。

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