異世界転生 囚人落ちからの成り上がり文明開化 ―巻き添え逮捕で辺境送りの男爵家三男、魔法と算数チートで貴族を目指す
花咲一樹
幼年期編 第1話 デスマからの赤ん坊転生?
「……何日ぶりの帰宅だよ」
俺は深夜、140時間デスマーチが終わり久しぶりに帰宅した。二十八歳になってもまだ下っ端扱いで嫌になる。
「ラノベ……無理。読む気力もない」
俺は山積みされたラノベの山、ヤマゾンから届いたお気に入りの小説も未開封。
「あの主人公、王女との仲、どうなったん……だ? ……結婚いいよな。俺もして……え」
俺はそんなうわ言を漏らしながら、ワイシャツ姿でベッドに倒れる様に横になった。
ふと目が覚めた。
……柔らかい? 温かい?
マシュマロみたいに柔らかく、口の中に広がる懐かしい味。
「早く飲みな、手のかかる赤ん坊だよ!」
ツリ目メイド服の見知らぬ女性が、怖い顔で俺を抱きかかえ睨みつけている。
誰?
そして、彼女の腕に乗せられた俺の体が小さく、手足も思うように動かない。
これって……赤ん坊?
違和感は疑惑になり、疑惑は確信に変わった。
転生した、とか?
俺は思考を巡らすも、強烈な眠気に襲われ、思考は深い闇へと落ちていった。
◇
俺は薄っすらと目を開けた。
眩しい……。
ぼやけた視界で、辺りを見る。
天井には明かりなどはなく、窓から差し込む温かい光だけが、木の板がむき出しの壁や床を照らしていた。
俺のアパートの部屋じゃない……よな。
「おや、ルシア坊ちゃんお目覚めですね」
近くで女性の声がした。
メイド服を着たふくよかなおばさん――テレスだ。
テレスは近付いてきて寝ていた俺を抱き上げた。
「あらあら、おねしょして起きちゃったのね。お着替え致しますね」
テレスがカードを取り出し「クリーン」と言うと、カードに描かれていた模様が光り輝いた。
そして俺の尻に手を触れると、俺の股間の湿り気がスッとなくなった。
な、何が起きた?
魔法?
いや、これって魔法だよ! ヤバいなんかワクワクするんだけど!
あのカードどうなってるんだ!? 俺にも使える?
大学の頃、カードゲームにハマった時がある。魔法カードとか作れたら最高に面白い!
着替えが終わるとテレスが俺をベッドの上にそっと下ろす。
ワクワク、ドキドキしていた筈なのに俺は眠気に誘われ目を閉じた。
……残念、これが赤ん坊か。
◇
あれから一ヶ月、未だに俺は赤ん坊のままだ。日々の半分以上を寝て過ごす毎日。
俺の家は田舎にある男爵家で俺は三男らしい。身内には父親と義母、義兄と義姉がいるみたいだった。
(ん〜、今日も一日寝てられる。幸せだなぁ)
会社で残業をして最終電車に乗り、寝不足で始発に乗る毎日とは真逆の生活。
まさに天国! 赤ちゃん最高!
「ほらルシア、おっぱいだよ!」
乳をくれるのは、目つきの悪い乳母ミリンダ。
俺の実母は俺を産んだあと亡くなったらしい。
父の手付きだったメイド──出自のせいで屋敷では疎まれ、離れで暮らしていたという。
(お母さんか……いつか、テレスにお母さんのことを聞いてみよう)
母親がいない事に加えて、前世での優しかった母親を思い出し、寂しさが込み上げてきた。
「ミリンダ、もう少しお坊ちゃんを可愛がってあげなさいな」
「ちっ」
ミリンダの舌打ち姿ももう慣れた。ミリンダはいやいや来ている、そんな感じだ。
ぼ〜っと天井を眺め呟く。
(俺、マジで異世界転生したんだな)
ただ、俺の赤ん坊ライフに違和感を感じている。この一ヶ月、一度たりとも家族の顔を見た事がない。さすがに普通じゃない。
メイド二人、特にテレスが世話をしてくれているが、親が顔を出さないのは何故か?
何故こんなことになったのか?
まあ、それは置いといて、異世界転生赤ん坊ライフで一番感動した出来事。それは魔法だ!
「クリーン」
テレスが魔法カードを使って部屋を綺麗にしている。
(み、見えた、魔法陣だ! めちゃめちゃカッコいい)
魔法カードにチラっと見えた中二心をくすぐる魔法陣の紋様。俺は小さな赤子の手を上にあげ、バタバタさせる。
(その魔法陣、もっとよく見せて! 構成はどうなってる? ルーン文字や記号は?)
「あら、ルシア坊ちゃんは今日も元気ね」
ちげぇよ!
カード、カードを見せてくれぇ!
◇
魔法カードを見たくてバタバタしていたら、疲れてしまったのか、俺はまたお昼寝タイムに入ってしまった。
ん、白い世界……夢の中?
その白い世界に杖を持った老人のような影が揺れる。
『……異世界……の赤子よ』
誰かの声が聞こえた。
『……可能性の赤子……いずれ我が叡智授かり……』
言葉が途切れ途切れに流れ込む。
可能性の赤子、叡智?
『……自由に生きよ……選ばれし赤子よ……』
……誰……?
『……賢者ルド……』
名前の途中で白い世界はガラスの様に砕けた。
◇
夢?
目が覚めると辺りは暗く、窓の外の暗い闇から聞こえる虫の声だけが、俺の耳に届いていた。
(……夢の中の賢者、異世界らしくなってきたぞ。魔法や魔法カードも中二心をめっちゃくすぐるし)
ドキドキと高ぶる胸の音が虫の声を掻き消す。
赤子の小さな手をグッと握りしめると、自然と口角が上がった。
この感情が後の異世界文明開化の第一歩だったことを、今の俺が知る由もなかった。
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