異世界転生 囚人落ちからの成り上がり文明開化 ―巻き添え逮捕で辺境送りの男爵家三男、魔法と算数チートで貴族を目指す

花咲一樹

幼年期編 第1話 デスマからの赤ん坊転生?

「……何日ぶりの帰宅だよ」


 俺は深夜、140時間デスマーチが終わり久しぶりに帰宅した。二十八歳になってもまだ下っ端扱いで嫌になる。


「ラノベ……無理。読む気力もない」


 俺は山積みされたラノベの山、ヤマゾンから届いたお気に入りの小説も未開封。


「あの主人公、王女との仲、どうなったん……だ? ……結婚いいよな。俺もして……え」


 俺はそんなうわ言を漏らしながら、ワイシャツ姿でベッドに倒れる様に横になった。


 ふと目が覚めた。


 ……柔らかい? 温かい?


 マシュマロみたいに柔らかく、口の中に広がる懐かしい味。


「早く飲みな、手のかかる赤ん坊だよ!」


 ツリ目メイド服の見知らぬ女性が、怖い顔で俺を抱きかかえ睨みつけている。


 誰?


 そして、彼女の腕に乗せられた俺の体が小さく、手足も思うように動かない。


 これって……赤ん坊?


 違和感は疑惑になり、疑惑は確信に変わった。


 転生した、とか?


 俺は思考を巡らすも、強烈な眠気に襲われ、思考は深い闇へと落ちていった。





 俺は薄っすらと目を開けた。


 眩しい……。


 ぼやけた視界で、辺りを見る。


 天井には明かりなどはなく、窓から差し込む温かい光だけが、木の板がむき出しの壁や床を照らしていた。


 俺のアパートの部屋じゃない……よな。


「おや、ルシア坊ちゃんお目覚めですね」


 近くで女性の声がした。


 メイド服を着たふくよかなおばさん――テレスだ。


 テレスは近付いてきて寝ていた俺を抱き上げた。


「あらあら、おねしょして起きちゃったのね。お着替え致しますね」


 テレスがカードを取り出し「クリーン」と言うと、カードに描かれていた模様が光り輝いた。


 そして俺の尻に手を触れると、俺の股間の湿り気がスッとなくなった。


 な、何が起きた? 


 魔法?


 いや、これって魔法だよ! ヤバいなんかワクワクするんだけど!


 あのカードどうなってるんだ!? 俺にも使える?


 大学の頃、カードゲームにハマった時がある。魔法カードとか作れたら最高に面白い!


 着替えが終わるとテレスが俺をベッドの上にそっと下ろす。


 ワクワク、ドキドキしていた筈なのに俺は眠気に誘われ目を閉じた。


 ……残念、これが赤ん坊か。





 あれから一ヶ月、未だに俺は赤ん坊のままだ。日々の半分以上を寝て過ごす毎日。


 俺の家は田舎にある男爵家で俺は三男らしい。身内には父親と義母、義兄と義姉がいるみたいだった。


(ん〜、今日も一日寝てられる。幸せだなぁ)


 会社で残業をして最終電車に乗り、寝不足で始発に乗る毎日とは真逆の生活。


 まさに天国! 赤ちゃん最高!


「ほらルシア、おっぱいだよ!」


 乳をくれるのは、目つきの悪い乳母ミリンダ。


 俺の実母は俺を産んだあと亡くなったらしい。

 父の手付きだったメイド──出自のせいで屋敷では疎まれ、離れで暮らしていたという。


(お母さんか……いつか、テレスにお母さんのことを聞いてみよう)


 母親がいない事に加えて、前世での優しかった母親を思い出し、寂しさが込み上げてきた。


「ミリンダ、もう少しお坊ちゃんを可愛がってあげなさいな」


「ちっ」


 ミリンダの舌打ち姿ももう慣れた。ミリンダはいやいや来ている、そんな感じだ。


 ぼ〜っと天井を眺め呟く。


(俺、マジで異世界転生したんだな)

 

 ただ、俺の赤ん坊ライフに違和感を感じている。この一ヶ月、一度たりとも家族の顔を見た事がない。さすがに普通じゃない。


 メイド二人、特にテレスが世話をしてくれているが、親が顔を出さないのは何故か?


 何故こんなことになったのか?


 まあ、それは置いといて、異世界転生赤ん坊ライフで一番感動した出来事。それは魔法だ!


「クリーン」


 テレスが魔法カードを使って部屋を綺麗にしている。


(み、見えた、魔法陣だ! めちゃめちゃカッコいい)


 魔法カードにチラっと見えた中二心をくすぐる魔法陣の紋様。俺は小さな赤子の手を上にあげ、バタバタさせる。


(その魔法陣、もっとよく見せて! 構成はどうなってる? ルーン文字や記号は?)


「あら、ルシア坊ちゃんは今日も元気ね」


 ちげぇよ!


 カード、カードを見せてくれぇ!





 魔法カードを見たくてバタバタしていたら、疲れてしまったのか、俺はまたお昼寝タイムに入ってしまった。


 ん、白い世界……夢の中?


 その白い世界に杖を持った老人のような影が揺れる。


『……異世界……の赤子よ』


 誰かの声が聞こえた。


『……可能性の赤子……いずれ我が叡智授かり……』


 言葉が途切れ途切れに流れ込む。


 可能性の赤子、叡智?


『……自由に生きよ……選ばれし赤子よ……』


 ……誰……?


『……賢者ルド……』


 名前の途中で白い世界はガラスの様に砕けた。





 夢?


 目が覚めると辺りは暗く、窓の外の暗い闇から聞こえる虫の声だけが、俺の耳に届いていた。


(……夢の中の賢者、異世界らしくなってきたぞ。魔法や魔法カードも中二心をめっちゃくすぐるし)


 ドキドキと高ぶる胸の音が虫の声を掻き消す。


 赤子の小さな手をグッと握りしめると、自然と口角が上がった。


 この感情が後の異世界文明開化の第一歩だったことを、今の俺が知る由もなかった。





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