第5話 レストラン
ホテルにチェックインした後、日が暮れてから向かったのは、リブステーキが有名な店だった。
ほとんどがテラス席で野外ステージでは、火のついた棒を器用に操りながら男性が激しいリズムに合わせて踊っていた。
旅番組で見たことがある光景だと思いながら、ビールジョッキを傾け、のどを潤す。
しばらくすると、この店名物のリブステーキが運ばれてきた。
キミエは骨を掴み、肉を引きちぎる。
とても豪快な食べ方で、なんというか、それはとてもキミエらしいと思った、のだけれど。
音楽が鳴り響き、給仕係がせわしなく動き、周りの客は大声でしゃべりながらビールをあおったり、手掴みで肉を食べたり。
なんというか、ぽくない。
「どうしたの難しい顔して」
と口の周りにソースをベタベタにつけたキミエが聞いてくる。
「いや、この店本当に兄貴と来たのかなって」
「なんでそんなにお兄さんのことばかり気にするわけ?」
となぜかキミエは怒ったように言った。
「だってこの旅行は――」
「うるさい。美術館でもあの人の解釈なんか気にしちゃってさ。なに、アキラってブラコンなの?」
「私、そんなに変なこと聞いた?」
キミエの機嫌が目にわかるくらいに悪くなっている。
滅茶苦茶なことを言いだすくらいには。
「あの人と行った店なら、とっくに潰れたわよ。高い割には見た目だけ豪華で、味はいまひとつって理由で」
本当にセンスないんだから、と彼女は言葉を続ける。
キミエは……兄貴のこと好きなんだよね?
と聞きかけてやめる。
自ら自分が落ち込むことを聞くなんてナンセンスだ。今だけはこの二人の時間を楽しませてもらおう。
「アキラは海老を頼んだのかぁ」
と口の周りに着いたソースを拭ってから、彼女が言った。
「せっかく海辺の町に来たんだから、海の幸、食べておかないと」
という私の言葉にキミエが顔をしかめる。
なんとなく理由は推測できそう。
きっと兄貴も私と同じことを言ったのだ、と。
だが兄貴の話題で顔をしかめるのかはわからないが。
それに。
「無理だよ」
というと、キミエは指についたソースを舐めとってから、
「何が?」
と返してきた。
一本一本丁寧にソースを取り、綺麗になった手でビールグラスを掴む。
「兄貴の影を消すのは」
妹である私からも、この旅からも。
「何を言い出すのかと思えば、別にそんなこと求めてないよ。大体アキラがあの人の妹じゃないと困るし」
「さすがに兄貴も許さないか」
「どういう意味?」
「今回の旅行のこと」
私がキミエと二人で旅行できるのは、兄貴の妹だからなのかもしれない、と。
「さあ、どうだろうね」
とキミエはどうでもよさそうに言ってから再び肉にかぶりついた。
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