第12話「新しいエンジン」(最終話)

1

 廻が目を覚ましたのは、三日後の朝だった。


 最初に見えたのは——白い天井。


 病院だと、すぐに分かった。


 そして、視界の端に——五人の顔が見えた。


「——廻?」


 ソラの声。


 廻は、ゆっくりと顔を向けた。


 ソラ、コエ、ヒカリ、ハナ、イタミ——五人全員が、ベッドの周りにいる。


 そして、胸の上には——小さな炎の妖精。


 ゼロだ。


「——みんな」


 廻は、か細い声で言った。


 瞬間、五人が泣き崩れた。


「廻!」


 ヒカリが抱きついてきた。


「起きた! やっと起きた!」


 イタミも泣きながら、廻の手を握る。


「良かった——本当に、良かった——」


 ソラとコエとハナも、涙を流している。


 廻は——笑った。


「お前ら——俺、まだ生きてるって」


「当たり前です」


 ソラが、涙を拭いながら言った。


「あなたがいなくなったら——私たち、困ります」


 ゼロが、廻の頬に触れた。


 温かい。


「——ありがとう」


 ゼロの声は、もう震えていない。


「あなたが、私を救ってくれた」


 廻は、ゼロを手に乗せた。


「俺じゃない。みんなだ」


 彼は、五人を見た。


「お前たちが——世界を、救ったんだ」


2

 数日後、廻は退院した。


 世界は——元に戻っていた。


 技術退行現象は完全に停止し、街は正常に機能している。


 しかし——


「完全に、終わったわけじゃない」


 ソラが、地図を広げた。


 工場跡地——いや、もう工場はない。


 代わりに、廻が新しく借りた小さな工房がある。


「世界には、まだ"歪み"が残ってる」


 ソラは、地図上の複数の地点に印をつけた。


「退行現象の影響で、時空に亀裂ができた」


 コエが続ける。


「そこから——未来の技術が逆流してる」


 ハナが資料を見せた。


「AI暴走体、ナノマシンの怨念、量子コンピュータの残骸——」


 イタミも言った。


「未来で、人類が作ったけど制御できなかった技術が、今の時代に現れてる」


 廻は、資料を見た。


 そして——溜息をついた。


「つまり——まだ、戦いは終わってない」


「ええ」


 ソラが頷いた。


「でも——」


 彼女は微笑んだ。


「当然です。私たちはエンジン。世界を廻し続けるのが、使命ですから」


 廻は、五人を見た。


 そして——笑った。


「なら、やるしかないな」


3

 新しい工房は、小さかった。


 元の工場の十分の一もない。


 でも——温かかった。


 ソラは、学校に通い始めた。人間として。


 コエは、図書館でバイトをしている。静かな環境が好きだから。


 ヒカリは、電気店で働いている。電球の修理が得意だから。


 ハナは、花屋でバイトをしている。白い花を、大切に扱っている。


 イタミは、病院でボランティアをしている。注射は、まだ少し怖いけど。


 そして、ゼロは——工房の暖炉で、いつも火を灯している。


 廻は、工房で機械を修理している。


 持ち込まれる依頼は多い。壊れた家電、古い機械、誰も直せなかったもの。


 廻は——それを、全て直す。


「廻、これ直せる?」


 ヒカリが、壊れた懐中電灯を持ってきた。


「ああ。ちょっと待ってろ」


 廻は、懐中電灯を分解し——十分後には、完璧に動くようにした。


「すごい!」


 ヒカリが、目を輝かせる。


「廻、天才!」


「天才じゃない」


 廻は笑った。


「ただ——機械の声を、聞いてるだけだ」


4

 ある日の夕方。


 工房に、全員が集まっていた。


 ハナが淹れた紅茶を飲みながら、のんびりとした時間を過ごしている。


「なあ、みんな」


 廻が言った。


「俺たち、幸せだな」


 五人は、顔を見合わせた。


 そして——笑った。


「うん」


 ヒカリが頷く。


「幸せ」


 ソラも微笑む。


「こんな日常が、ずっと続けばいいのに」


 コエが言った。


 その時——


 警報が鳴った。


 工房に設置された、ロストテック探知装置だ。


「——来た」


 ソラが立ち上がった。


「街の北東、五キロ地点」


 コエが位置を特定する。


「敵は——AI暴走体」


 ハナが資料を確認する。


「行くぞ、みんな」


 廻も立ち上がった。


 五人とゼロが、戦闘態勢に入る。


「——起動(イグニッション)!」


 廻が叫んだ。


 五人の身体が、輝いた。


5

 敵は——巨大な機械の塊だった。


 AI暴走体——未来で制御を失ったAIが、無数のドローンと融合して怪物化している。


「数が多い!」


 ヒカリが叫ぶ。


「でも——」


 ソラが翼を広げた。


「私たちには、完璧な連携がある」


 廻が指示を出す。


「ソラ、上空から敵の配置を確認!」


「了解!」


 ソラが飛ぶ。


「コエ、ソラの情報をみんなに送れ!」


「分かった」


 コエが通信を開始する。


 全員の脳内に、敵の位置が映し出される。


「ヒカリ、敵のセンサーを光で麻痺させろ!」


「任せて!」


 ヒカリが閃光を放つ。


 AI暴走体の動きが鈍る。


「ハナ、中枢部だけを狙って爆破!」


「はい!」


 ハナが精密爆破を実行する。


 敵の中枢が破壊される。


「イタミ、俺たちの傷を治せ!」


「もちろん!」


 イタミが治療を行う。


 全員の疲労が回復する。


 そして——


「ゼロ、最後は任せた!」


 ゼロが、小さな炎を放った。


 それは——敵の残骸を、全て浄化した。


 戦闘終了。


 所要時間——三分。


「——早くなったな」


 廻が笑った。


 ソラも微笑む。


「当然です。私たちには、あなたがいるから」


6

 その夜、工房に戻った六人は、看板を掲げた。


【エンジン工房 Mechanica】


 シンプルな看板。


 でも——そこには、六人の想いが込められていた。


「いい名前だね」


 ヒカリが笑った。


「うん」


 廻も頷く。


 彼は、工房を見回した。


 小さいけど——ここが、俺たちの場所だ。


 廻は、独白した。


(俺は、何も作れない)


 彼は、自分の手を見た。


(設計もできない。プログラムも書けない)


 でも——


(繋げる。活かせる)


 廻は、五人を見た。


(それが、俺の発明だ)


7

 翌朝。


 廻が工房の外に出ると——空から、何かが降ってきた。


 光——


 いや、人の形をした光。


 それは、ゆっくりと地面に降り立った。


 少女だった。


 見たことのない姿。


 でも——確かに、エンジンだ。


「——まだ、仲間が増えるみたいですね」


 ソラが、廻の隣に立った。


 コエ、ヒカリ、ハナ、イタミ、ゼロも現れる。


 廻は——笑った。


「来いよ」


 彼は、少女に手を差し伸べた。


「いくらでも、受け入れてやる」


 少女は——微笑んだ。


 そして、廻の手を取った。


8(エピローグ)

 夕日が、街を赤く染めていた。


 工房の前に、六人とゼロ、そして新しい仲間が並んでいる。


 廻は、みんなを見回した。


 ソラ——空を飛ぶ者。


 コエ——声を繋ぐ者。


 ヒカリ——光を灯す者。


 ハナ——未来を切り開く者。


 イタミ——命を救う者。


 ゼロ——最初の火。


 そして——新しい仲間。


 みんな、ここにいる。


「なあ、みんな」


 廻が言った。


「これから、どんな敵が来ても——大丈夫だよな」


 ソラが微笑んだ。


「当然です」


 コエも頷く。


 ヒカリが笑った。


「私たち、最強だもん」


 ハナとイタミも、微笑む。


 ゼロが、廻の肩で光った。


 新しい仲間も——静かに、頷いた。


 廻は、空を見上げた。


 そして——


ナレーション:


技術は、人を繋ぐ。


人は、技術を活かす。


そして、物語は——廻り続ける。


エンジンたちは、今日も世界を守る。


廻と共に。


これは、終わりではない。


新しい、始まりだ。


【END】

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エンジン少女戦記 ―彼女たちは世界を廻す― ソコニ @mi33x

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