14・無垢なきみと下劣なおれ
賑やかな場所は嫌いじゃないが、そこへ溶け込むのは苦手だ。皆の輪に入れず、おれはひとり取り残されたように感じるから。
そんなおれがゼミの学生達に、
「先生がいないと盛り上がりません!」
「今回こそ参加してください!」
と強く誘われ断り切れずに渋々顔を出した他学部との合同懇親会──つまりは学生主催の飲み会。
そこでもおれは疎外感を覚えていたが、学生達の余興に巻き込まれることとなった。
その余興でおれは罰ゲーム的な景品として、小さく奇妙な形状をしたアダルトグッズを強引に押し付けられた。
驚いて固まるおれに学生達は、
「奥さんと仲良くして下さいね!」
なんて低俗な言葉を投げかけた。
だがしかしおれの胸には背徳的な熱が燻り始めていた。これを妻に使ったら、彼女はどんな風に乱れるのだろうか? 知りたい、見てみたい──そんな風に思うと同時に、こんなものを彼女に使おうと考えるなんて、おれはやはり汚れた人間だ。おれのこの醜い内面を彼女が知ると、きっと軽蔑しておれの前からいなくなってしまうだろうと不安に苛まれる。
懇親会から帰宅すると、 おれは小さな箱をポケットに隠し持ったままそわそわとしていた。
「
「い、いや、なんでもない。ちょっと、その、研究のコードのバグを思い出して……」
見え見えの嘘。おれが珍しく口を割らないでいると、宵子は不満そうな顔をする。
今回ばかりは彼女に知られるのはまずい。この我が家の平穏を脅かしかねないブツは早急に捨てるべきだとそう自分の中で結論づけた時、宵子は寂しそうにぽつりと呟く。
「……わたしは直央さんに隠し事なんて何もないのに、直央さんはわたしに隠していることがあるんですね」
その震えた声に、宵子が涙を我慢していることを知る。おれなんかが彼女を悲しませている! おれが宵子に隠し事をするのは、彼女を裏切る罪なんだ!
「ち、違う! 違うんだ、宵子!」
おれは恐怖に駆られ、慌ててポケットから箱を取り出した。そして泣きながら白状する。
「ごめん、宵子! ごめん! 実はこれ、飲み会で……おれがこんなものを手に入れて、しかもそれをきみに使いたいだなんて考えて……こんな下劣なものをきみに使おうと思ってしまってごめん!」
おれは顔を覆い、支離滅裂な謝罪の言葉を繰り返した。
だが宵子は目をぱちくりとさせ、不思議そうに箱の中身を見つめていた。
「これはどうやって使うものなんですか? 直央さんが研究で使う機械ですか? それともお料理の便利道具? あ、お掃除とか!」
宵子の問いかけは、まるで未知の道具について訊ねるような純粋な興味に満ちていた。当然だ、彼女は世俗の汚れから守られて育ってきた無垢な箱入り娘なのだから。
その瞬間、おれの中で自己嫌悪が吹き飛び、背徳的な優越感が湧き上がった。
「……じゃあ、使ってみる?」
おれが意地の悪い誘い方をすると、宵子は満面の笑顔で即答する。
「はい! 直央さんが勧めてくれるものなら使ってみたいです!」
おれの下劣な欲望が、彼女の純粋さによって正当化されていく。
ああ、こんなにも無垢だなんて……。だからおれみたいな悪い男に簡単に付け込まれるんだよ。
そんな可哀想で可愛いきみを、おれは逃がしたりなんて絶対にしない。
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