第十三話『青年と新たな場所』
ダンジョンを出ると、太陽が真上で輝いていた。
新しいマントは風を受けてひらひら揺れ、そのたび胸の奥がくすぐったくなるくらい嬉しい。
こんなの、調子に乗るなってほうが無理だ。
「ちょっとだけ……寄り道してみよっかな!」
帰る気持ちなんてどこかに吹き飛んで、ひたすら突き進む。
森の景色もいつもより明るく見えて、つい鼻歌まで出てしまいそうだった。
────
しばらく歩くと、森の空気がふっと変わった。
木々の密度は変わらないのに、音だけがすっと消えている。
鳥も、虫も、小動物の足音さえ聞こえない。
「……あれ?」
気づけば、自分の息の音だけがやけに大きく響いていた。
奥へ進むほど静けさは重くなり、やがて森が不自然に途切れる。
ひらけたところへ現れた、岩肌の壁とぽっかり空いた黒い影。
──洞窟だった。
入口は昼でも闇が沈んだように真っ黒で、
そこから湿った風が吹き出してくる。
ほんのわずかに、生臭い。
「……やば……」
心臓がどくん、と跳ねる。
「新しいダンジョン、見つけちゃった……!」
心が躍るのも束の間、
空を見上げると、もう日が傾きはじめていた。
「……あ、いや。さすがに今から入るのは……」
今入ったら、ダンジョンの中で夜を迎えることになる。
胸の奥がすっと冷えて、思わず足が止まった。
……やだな。
外で夜を過ごすのだって、まだ慣れてないのに。
洞窟から離れ、周りを探索する。
「近くに村とか町があればなぁ……」
けれど、道を辿っても辿っても踏み固められた土が続くだけ。
日がどんどん落ちていく。
茜色が濃くなり、森の影がじわ〜っと伸びていく。
……やばい。本当に何もない……
胸のざわつきを押し隠すように足を速める。
そして、ようやく視界の先に“影”が浮かび上がった。
建物だ。でも──
近づいてみると、それは半壊した家々だった。
折れた柵、崩れかけの屋根、ひび割れた井戸。
ウソでしょ……?
……誰も、いない……?
風の音と、自分の呼吸だけ。
なのに、人が“いた跡”だけは、はっきり残っている。
洗濯物が揺れていたような干し場の木枠、
誰かが最近まで使っていたような土間の形……。
ぽつりと、声が漏れた。
「……僕の村と……すっごく、似てる……」
村の大きさとかが、特に。
別に、僕の村がこんなに荒れてるというわけではない。大体この規模の村なら、何人くらい居るかなって予想ができる。
胸の奥がきゅっと縮む。
なんで誰もいないんだろう。
こんなに“生活の跡”だけ残ってるのに。
考えるほど、不安がじわじわ広がってくる。
太陽はもう地平に沈み切ろうとしていた。
……ここで寝るしか、ないよね。
夜の森で魔物に会うよりは……まだマシ。
うん、マシ!
かろうじて形を保っている、大きめの家が一軒だけある。屋根も残っている。
そこに入ると、空気がひゅう、と抜けていき、
風の音が家の奥で反響した。
体を小さくしながら、息を整える。
今日だけ……ほんとに今日だけ。
ちょっとだけ、お借りします。
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