第十四話『青年と廃村と』

 ──朝になった。

……本当に、何も起こらなかった。

ほっとしたような、気が抜けたような、

妙な感覚のまま、そっとドアを開けて外を覗く。


 やっぱり、誰もいない。

鳥の声だけが、ひどく澄んで響き渡る。


 ──それが余計に、不気味だった。


「えっと……つまり、ここって……

 廃村、ってやつ……だよね……?」


 誰も答えないのが当たり前なのに、その言葉を口にした瞬間、現実味が帯びてきて、思わず身震いした。


 廃村なんて、見るのは初めてだ。

人がいるはずの場所に、誰もいないって……こんなに怖いんだ。


 深呼吸をひとつ。

無理にでも気持ちを切り替える。

こんな場所に長居なんてできない。

僕は逃げるように村を離れ、昨日見つけたダンジョンへ向かった。


────


 ダンジョンは、昨日と同じように、ただぽっかりと口を開けて待っていた。

そこから吹いてくる、少し生臭い風も、変わらない。


「一個くらい、宝あればいいな……。あるよね……?」


 自分に言い聞かせるように呟きながら、入り口に足を踏み入れた。


 ダンジョンの中は、思っていたよりずっと広い。石造りの階層のようだ。

そして──ところどころ、松明が灯っている。


「……ってことは、誰か来てるよね、ここ……」


 途端に、お宝への期待がしぼむ。

いや、でも、まだ宝箱の“た”の字も見てないし……!

「まだあるかも」と、自分に言い聞かせて進む。


 しばらく歩いた先、視界の横に黄土色の巨大な壁がどん、と立ちはだかっている。

回りの岩肌とは違う目立つ色。目印には良いかもしれない。

そして、その反対側に──


 宝箱があった。

 しかも、開いてない。


「……えっ、開いてない!? ほんとに!??」


 思わず駆け寄って、ガバッと手をかける。

鍵は……ついてない。押し上げれば──開く。




「…………なんだよ〜!!」


 中は、見事なまでに空っぽ。


 肩から力が抜ける。

いるんだよ、こういう人……!

中身だけ取って、律儀にそっと閉めていく人!!


「はぁぁ……絶対もう探索済みじゃん……。

 帰ろ。今日はもう帰ろ。村探そう……」


 そう呟いてきびすを返した、そのとき──



 目の前で、黄土色の“壁”が……動いた。

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