組織幹部が勢ぞろいするやつ

 【革袋商会】広報部? 聞き覚えがあるな。

 そう思って記憶メモリを探ってみると……わかった。


「革袋商会。クロススパイクが属しているクランか?」


 赤フードの少女がウィンクした。


「正解なのです! うちの者が世話になったようで……」


「話はあとよ! 前方注視!」


 青年の怒号に振り向く。怪盗の残骸が視界に入ったとき、違和感に気づいた。


 ……変だ。


 さっき少女に斬られて床に散らばったときとは……骨の配置が違う。


 怪盗の骨が、動いている。


 『正解!』とでも答えるかのように、髑髏ドクロがゴロンと転がり、こちらを向いて正立した。


「んっんー。手練れだねぇ」


 そうしゃべる頭蓋骨には、頸椎けいついがつながっている。

 そこに鎖骨が連結し、肋骨、胸骨、腕の骨があわさって、上半身ができあがった。


 左腕で体を起こし、こちらを強くにらみながら、床をずるずると這い回って残りの骨を回収している。

 

「すっご! 再生しかけてますね!!」


「チートの影響で、怪盗は【死者蘇生】を常時発動させる。だから不死身。殺しきる手段は、今の私たちは持っていないのよ。だから!」


 金髪の青年の後ろで、ゆらりと動いた獣人が、大きなハンマーを取り出し、怪盗に向かって躊躇ちゅうちょなく振り下ろす。


 再生の途中だった怪盗は、あわれにも再度バラバラになって骨をぶちまけた。


「もしもーし! 死んでますか? 死んでますか? 死んでますか? 死んでますか?」


「ご覧、新人ちゃん。 こういう風に、殺し続けるのよ」


「すっごーい! 勉強になるんのです!」


「……でも、これキリがなくないか?」


 疑問を呈した僕に、青年は愛嬌たっぷりのウインクを放つ。


「だァいじょうぶ。今回は、ほんのちょっと時間さえ稼げればいいの」


 そう言ってしゃがみ込み、怪盗の方に向き直って、彼はひそひそ声でささやいた。


「だって怪盗さん、もうそろそろ夜勤の時間でしょ?」


「んー、きっしょいね。なんで把握してんだよ」


 怪盗がゲンナリした声を放った、次の瞬間。


『バンッッッッ!!!!!!』


 会場のドアが蹴破られた。

 外から押し寄せてきたのは、大量のコウモリの群れ。


 耳障りな鳴き声をあげながら、黒い波のようにザッと床をさらい……気づけば、怪盗の残骸は跡形もなく消滅していた。


「わ! 逃げられちゃいました! コウモリに自分の骨を運ばせてるんですねェ」


「いや、違う。コウモリに人間を持ち運びする力はない。やつは移動したかにみせかけて、ただ単純にログアウトしただけよ。仕事が終わった……だいたい12時間後かしら、そのくらいにログインして、に出現するはず」


「明日は土曜日、オークションは朝から開かれます! 12時間っていったら、ちょうどオークションの真っ最中……まあ、怪盗がでるのが分かってるんだから、普通に中止ですかね!」


「それはないわ。【闇オークション統括委員会】はオークションの実施をすべてに優先させる狂気の組織。オークションは必ず開かれるし、確実にやっかいなことになるわ!」


 青年はそこで一拍おいて、僕に振り向く。


「それじゃ、我々は対怪盗の作戦会議を始めるけれど、クローバー君もきてくれるかしら? なんたって今一番狙われているのは君だし……あのクロススパイクのお友達なんでしょう?」


 /


 数分後、僕は着席していた。

 革袋商会のクランハウスの大広間。


 王宮か? ってくらい豪奢ごうしゃな部屋の中で。

 

 白い壁。そいつを縁取る、凝ったデザインの金フレーム。

 高い天井にはステンドグラスがはめこまれており、色とりどりの光を投げかけている。

 

 そして目の前には――でっかい円卓が鎮座していた。


 円卓にはプレイヤーがずらりと座っている。

 【革袋商会 広報部】のメンバーだろう。

 

 全員知らない顔か、さっきオークション会場でチラ見した程度の関係なので、なんだか居心地が悪い。


「おぉ~? あなたは先刻ぶりですね!」


 話しかけてくれたのは、なんともころころした声だった。


 声の主を探すと、ひもつきの赤いパーカーを着た小柄な少女――先ほど怪盗を斬っていた少女が、健康的な素足をぶらぶらさせていた。


 ……なぜか、天井にかかったシャンデリアの上で。


「【革袋商会 広報部】へようこそなのです!」


 少女はシャンデリアから飛び降りる。

 

 三つ編みの栗色の髪が、着地と同時にふわりと揺れた。

 水気の豊かな黒い瞳が、僕をまっすぐに見据える。


「どうも、初めまして! 私は【革袋商会 広報部】の【第五席クイント】、イモムシと申します!」


「僕はクローバー。どうぞよろしく」


「クローバーさん! あなたのことは【第一席プリモ】クロススパイクさんから聞いていたのです! たいへん有望な方だとうかがってます!」


 そういえば、クロススパイクの姿は見えない。

 まだ来ていないだけなのか、今日は都合が悪くなったのか。


 そのことを尋ねると、イモムシはニシシと笑みを浮かべた。

 

「クロススパイクさんは謹慎中なのです! 【ホウライの玉の枝】偽造品出品事件の主犯ですから! 他組織に迷惑かけた罪があるので!」


「その件は……僕もすみません……」


「キシシ! その件はまた話し合いましょう! それより!」


 イモムシの目が好奇に歪む。


「そういやクロススパイクさんは、この前、『アイツにどんな顔をすればいいかわかんねェ……』なんて寝言を言いながら、お布団にもぐってました! うーん、なんですかねぇ。ひょっとすると……恋!?」


 小さな手で口を抑える仕草をすると、円卓の上を素足で歩き、僕に向かって顔をぐっと寄せる。


「最近のクロススパイクさんは……乙女の匂いがするのです……やっぱり恋……恋を……しちゃったのか……。だ、大事件なのです! 相手はあなた? ひょっとしなくてもあなたなのですね??」


「え……ち、違うと思うけど……」


 どうもクロススパイクは……僕がペットみたいに撫で回したとき、結構な精神的ダメージを負ってしまったらしい。しかも変な噂まで立ってられている。


 さすがに申し訳がない。

 また会ったら謝らないと……。


 なんて考えていた僕は、遅れてイモムシの発言の違和感に気づく。


 ……寝言?

 なんでクロススパイクの寝言を知ってるんだこの子?


「は! 今、なんで私がクロススパイクさんの寝言を知ってるんだって思いましたね?」


 思考を読まれた。コワッ……。

 

「なにを隠そう、私は、私こそは、【第一席】クロススパイクの実の妹なのです! イーモイモイモイモwwww! お姉ちゃんの性の目覚めの瞬間をこの目で見られるなんて、役得イモねェ!」


「ええ……」


「もしもし? どういう笑い方だよシスコン」


 そう罵倒して後ろから【第五席】の首根っこをつかんだ人がいる。


 オークション会場では受話器を手にしていた、眼光の鋭い獣人だ。


 ……なぜか今も、受話器を抱えてしゃべっている。


「【第六席セスト】サボテンサンバだ。あたしはいっつもカメラを担当している。みんなが戦ってるところを撮影する係だな。ま、非戦闘員だ。他のやつらと比べりゃ戦闘力に劣るが、よろしくな」


「あぁ、こちらこそ」


「サボテンサンバさん! 首つかんで持ち上げるのはやめてなのです! こんなの子猫の運び方じゃないですか!」


「もしもし? なにが悪い。テメェはドラ猫だろうが」


 二人が火花を散らすと同時に、ひとつ、拍手が起こった。


「フッフッフ……ハオ。実にハオ。もっと争ってください!」

 

 拍手の主は、痩身そうしんのプレイヤー。


 タキシードに身を包み、胸ポケットには赤いバラが一輪。微笑んだ髭面の白仮面ガイ・フォークス・マスクで素顔を隠した、いかにも怪しい男だ。


「なんだこいつ? ウチにこんなやつ、いなかったよな?」


 怪訝けげんな顔をするサボテンサンバに、仮面の男は胸に手を当てて一礼する。


「どうも、初めまして。デスゲームクラン【死にすぎ本舗】より出向して参りました、デスゲーム斉藤と申します。以後お見知りおきを」


 デスゲーム斉藤は一枚ずつ名刺を配り始める。

 僕も貰った。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 【死にすぎ本舗】

 ~決闘から大量殺戮まで~

 

 デスゲーム 斉藤

 Deathgame Saito

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 シンプルなデザインでそう書いてある。


「もしもし? 誰だよこんな変なやつ呼んだの」


「お姉ちゃんです! なんとなく役に立つ気がするって言ってたのです! お姉ちゃんの勘は絶対なのです!」


「なにが勘だよ、無茶苦茶じゃねェか……。大体なんなんだテメェ。さっきから下手なアイドル声優みてぇなあめえ声でお姉ちゃんお姉ちゃん言いやがって……キモいンだよシスコン野郎」

 

「何言ってるんですか? 私の声はカワイイですよ? お姉ちゃんがカワイイって言ってるので」


「もしもし? おい誰かこのシスコン黙らせろ」


「なんですかその目は! あー! ひょっとして私に嫉妬してるんですかァ! サボテンサンバさん、お姉ちゃんのこと大好きですもんねェ!」


「は?? ちょっ、そんなんじゃねぇし……」


「あー! お顔が真っ赤なのです!! イーモイモイモイモwwww」


「いっぺん死にさらせやオラァ!!」


「おっと! 殺し合いですか? ではこのデスゲーム斉藤にお任せを。この【血みどろコース】はどうですか」


「いいですね! サボテンサンバさんが血肉の塊になるの見たいのです!」


「良くねえよお前! 怪しすぎるだろ!」


 イモムシとサボテンサンバが円卓の上で取っ組み合いを始める。


 デスゲーム斉藤がゴソゴソとなにかを設置しはじめる。


 収拾がつかなくなりそうになったそのとき――低い声が凜と響いた。


【――着席。】


 次の瞬間、イモムシもサボテンサンバもデスゲーム斉藤も、お行儀よく自席についている。


「二人とも、客人の前で見苦しいところを見せるんじゃない」

 

 七三分けで銀縁メガネの、ビジネスマン風プレイヤーが口を開く。

 

 灰色のスーツに、オレンジの植物文様ペイズリーのネクタイ。

 それらを映えさせる、まっすぐ伸ばされた背筋。


「それではクローバーさんとデスゲーム斉藤さん――改めて、初めまして。当クラン【革袋商会】はあなた方を歓迎する」

 

 そんな挨拶を述べながら、メガネの奥の三白眼は冷たくこちらを見据えている。


 いかにも堅苦しそうな人だ。


 頭にかぶった白ブリーフを除けば、だが。


 ブリーフの位置を神経質に調整し、窓の部分が額の上にくるようにしながら――男は名乗りを上げる。


「僕は【第七席セッティモ】おぱんつ星人と申します」


 名前までふざけていた。

 真面目そうな人がパンツに異様に執着してるの、面白さより恐怖が勝つな。

 

 それにしても、おぱんつ星人のかけ声とともに、三人が椅子まで瞬間移動した。

 おそらく、転移系の固有スキルだろう。転移系はパーティーを組んだバトルに便利だけど、結構めずらしい。


「あ……どうも……【第三席テルツォ病葉わらくばと言います……」


 消え入りそうな声で言ったのは、ゴスロリ姿の可憐な少女だ。


 ぱっつんと切った前髪に、レースの入った頭飾りボンネット

 フリルの入った黒いワンピースを着ていて、部屋の中だというのに日傘をしている。


 お人形さんみたいだ。


「あの……えっと……どうもよろしく……」

 

 蚊の鳴くような声量でそう言うと、恥ずかしそうに傘を下げ、顔を隠した。


「みんなぁ、おまたせぇ! 遅くなってメンゴ~」


 病葉の隣にあった空席に突如、若い男が出現した。

 金髪、上裸、筋骨隆々。オークション会場でも会った青年だ。


 戦闘したあとなのか、頭と背中に矢が計三本突き刺さっている。


「五分の遅刻だ」


 不機嫌に言い放つおぱんつ星人に、爽やかイケメンは手を合わせて頭を下げる。

 

「ごめんなさいね~。【ホウライの玉の枝】関係で駆け回っていて! さて、新顔の人は初めまして!【第二席セコンド】マコトよ! 仲良くしてちょうだいねえ」


「よろしく」


「フッフッフ。何卒よろしくお願い申し上げます」


「うん! じゃ、おぱんつ星人、司会は頼むわ!」


「あぁ。【第一席】は謹慎中だし、【第四席クワルト】は受験勉強で不在、と。全員そろったようだな。それでは、『怪盗討伐計画』の会議を開始する」

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