作戦会議

 【革袋商会】クランハウス。その大きな円卓の上に、地図が広げられる。


 ところどころ朱書しゅがきされているのは、日付や時刻。

 それらの間を結ぶように、矢印がいくつも描かれている。


「これは……怪盗の移動記録……?」


「その通り」


 僕のひとりごとに、【第七席】おぱんつ星人が反応する。

 

「【怪盗】アルセノワールはちょっと有名な荒らしだ。派手なやつでね、ひとたび動くと街がひとつ滅びるもんだから、被害者も多い。それで複数の組織から、対チーター戦の専門家の我々に討伐の要望が来た。で、まず第一歩として、怪盗の行動を把握したというわけだ」


「なるほど」


「そうやって足取りを追っていたら、今日、オークション会場にたどりついたのです!」


 おぱんつ星人の背中から、ひょこっと顔を出した【第五席】イモムシも、そう補足してくれる。

 

「クローバー氏には、オークション会場での怪盗の様子を教えてほしい。どんなことを話していた?」


 おぱんつ星人にうながされ、僕は会場での出来事をかいつまんで話す。

 怪盗の登場の様子から、虐殺の状況まで。


「怪盗も【ホウライの玉の枝】を持っていたのか。そして、『オークションで偽物が出されるって裏情報を聞きつけて、許せなかった』と」


「それだけでそんなに大暴れするかしらぁ?」


 疑問を口にするのは【第二席】マコト。


「プライドの高い奴のことだ。あり得なくはないだろう」


「小さい男ねえ」


「だけど……」


 そこで僕は挙手をする。

 ひとつひっかかることがあった。


 それはイモムシに斬られる直前の発言。


「やつは『その偽物をよこせ!』と言いながら、僕に飛びかかってきたんだ。これ、なんだか変じゃないか?」


「あ、私もそれ聞いていたのです!」


「確かに変ねえ。偽物だとわかっていたら、奪う必要もないわ」


「ふむ」


 おぱんつ星人は口元に手をやって、眉間にしわを寄せる。


「思うに、怪盗は自分が持っている【ホウライの玉の枝】こそ、偽物かもしれないと疑っているのではないか。あの【枝】は現時点で、ステータスもなにも公開されていない。真贋しんがんを判別する手段がないのだよ。やつはプライドが高いから、自分の方が『本物』と口では言い張ったのだろうが」


「疑わしいから、どちらも回収しておこう、ということですかね!」


「そう。そしてこの仮説が正しい場合、やつはまた、クローバー氏所有の【偽ホウライの玉の枝】を奪おうとするだろうな」


 そこで、それまでおとなしくしていた【第三席】病葉が、おずおずと口を挟んだ。


「ところで……怪盗の出現ポイントは闇オークション会場……。あの人今、機嫌悪いから……ログインと同時に火の海と化しそう……とっても……かわいそう……」


「あァ。だが、知っての通り、【闇オークション統括委員会】はオークションの開催をなによりも優先するイカれ組織。先方からこちらに、すでに要請が来ている。明日のオークションは予定通り開催するから、革袋商会の皆様に怪盗の処理をお願いしたい、とな」


(フム)。オークション会場が戦場になりますか。そういえば、【闇オークション統括委員会】は独自に暴力組織を持っているのでは? 彼らとの共闘という線になるのでしょうか」


「ないな。あの殺し屋の専門は暗殺で、徹底した秘密主義のもと動いている。人目のつく場所には出てこない。客が満載のオークション会場では、まず出動しないだろう。……話は変わるが」


 おぱんつ星人は僕の方向に向き直った。


「怪盗との戦闘。クローバー氏は参戦するつもりか?」


「……もちろん!」


 即答。


「相手はチーター。普通のPvPとは訳が違う。すべてを理不尽に奪われる可能性もあるが……クローバー氏には、その覚悟はあるか?」


 正直、心配はある。不安もある。


 だけど……怪盗が、僕が本物の【ホウライの玉の枝】を持っている可能性を疑っているように。

 

 僕は、怪盗が本物を持っている可能性を信じている。


 これがチャンスかもしれないのだ。


 本物の【ホウライの玉の枝】を手に入れるための。

 僕が、サービス終了を乗り越え、生き延びるための。


 だから。


「ワクワクしてんだよ……怪盗と戦うのがッ……!」


「はは! 威勢がいいな」


 僕の発言に、おぱんつ星人は破顔する。


「では、クローバー氏の参戦にあたって何より問題なのがやはり、【闇オークション統括委員会】の連中だな……。氏には偽造品出品の嫌疑がかけられるだろう。疑わしきは罰する。それが彼らのモットーだが……怪盗を討伐するまでは待ってくれるよう、私が交渉してみるよ」

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