オープンセサミ!

「女の種族は人間ヒューマン。対し、男の種族は、妖精族のデュラハンやね。あれは頭部への攻撃が無効どす。急所は心臓だから胸を狙っておくれやす」


 ムラサキババアが歯車付きのレトロな眼鏡を手に、クランメンバーに指示を飛ばす。 

 あの眼鏡は望遠機能がついているのだろうか。

 

 彼女の鑑定は――正解だ。

 僕の種族はデュラハン。首なし騎士と呼ばれたりする妖精だ。


 デュラハンの最大の特徴は、首を取り外すことができること。


 正確に言うと、頭部が武器とか防具とかと同じ所持品パーツ扱いになっている。


 だから首を外して手に持つこともできるし、頭をぶん殴られても本体にダメージが入らない。


「へえ、よくわかったね。デュラハンでプレイしてる人なんて、あんまりいないだろうに」


 そう言うと、ムラサキババアはフンと息をならした。


瞳孔しょうこうの形をみたら大体の種族は見分けられる。デュラハンは十字状や。何遍なんべんも襲撃受けてきたから、こんな知識も自然とつくもんどす」


 ムラサキババアは眼鏡を外してそこらに放ると、背後に立つ気弱そうな老婆――キネシスババアに怒鳴る。


「キネシスババア!モンスターの出撃はまだかえ??」


「い、今、行きますぅ……」


 キネシスババアが叫ぶと同時に、【京都タワー】に巻き付いていたドラゴンが咆吼ほうこうをあげた。


 寺院からはスケルトンがスポーンし、弓を片手にこちらに迫る。


 軍靴ぐんかの音がする。

 見渡すと、そこら中の建物から鎧ゴーストの軍団が湧いて出てくるところだった。


 まさしく百鬼夜行。こんな数のモンスターに囲まれて、僕が取る選択は――


「ミネラルウォーター! モンスターの対処は頼む!」


 人任せ、だ。


 NPC である僕には、プレイヤーを攻撃する能力はあれど、モンスターを倒す力はない。

 その辺のゴブリンを殴ったとて、わずかなダメージしか与えられないのだ。


「うん、任された」


 親指を立てるミネラルウォーター。

 仕事を押しつけるみたいでちょっと気が引けるけど、これで良い。


 なぜなら、僕には僕でやることがあるから。


 自分の仕事に取りかかろうと腰を上げたとき、やたらうるさい罵声ばせいが耳に入ってきた。上終中学校の面々が何やら騒いでいる。

 

「女に戦いを任せるたァ、情けねえ男だ」

 

「キネシスババアの固有スキル【怪物憑依】は、モンスター 50 体の同時操作。一人でさばけるわけないでしょ?」

 

「んん……じゃあ……場の空気的に男の方を優先して攻撃しますぅ……」

 

 ヤイヤイうるさいなぁ、と舌打ちしたとき、【京都タワー】からニュウっと首を伸ばしたドラゴンと目があった。


 すかさず火焔が放出される。攻撃対象は僕。


 避けようとした瞬間、上空から無数の棒が降り注ぐのが見えた。

 スケルトンが射かけた矢だ。


 地上では、その矢に巻き込まれるのも気にかけず、鎧ゴーストの歩兵が突進してきている。


 走って逃げるのは――無理そう。

 自分の武器、アンクラーゲを構え、敵の数と位置を脳に叩き込む。


 そうやって防御をとろうとした瞬間、青空色のレインコートが視界を塞いだ。


 ミネラルウォーターが僕の前に立ったのだ。


 手にしているのは、長さ 50 cm ほどの大きな鍵。


 彼女は浅く息を吸ったかと思うと、高速で鍵を振り回した。


 降り注ぐ矢の全てを叩き落とし、ドラゴンのブレスは防御魔法で防ぐ。


 先走って近づいた鎧ゴーストを数十メートル先に突き飛ばし、息切れもせずに口を開いた。


「大量のモンスターに囲まれ、攻撃を受ける。うん、スリル満点のいいシチュエーションだね」


 話しながら、彼女は鍵を太陽にかざす。

 鍵の側面には、三つの数字が並んだダイヤル。

 陽光に照らされ、銀色に輝いている。


「私はスリルが好き。おびやかされるのが好きで、おびえている顔を見るのも好き。かわいそうはかわいいからね。怯えは人を可愛くするんだ。でも今の私は……」


 ミネラルウォーターは、鏡面のごとく輝いた鍵をみつめた。


 そこに反射した自分の顔を数秒見て、つまらなさそうにこう言った。


「まだ私は、怯えていないかわいくない


 平然とした彼女の声に、激昂げっこうするのは上終中学校の面々。


「ほざけぇえ!!!キネシスババア、出し惜しみはなしどす!持ち駒を全部ぶつけなはれ!!」


 道路の真ん中にあったマンホールが持ち上がる。

 中から湧き出すのは 6 本足の魚型モンスター、【ハイギョ】。


 空から来襲するのは、顔がゴブリンで胴体がコウモリの醜い怪物、【羽鬼】。


 それらが、すでに闊歩かっぽしていたモンスターの行列に加わる。


「グォオオルルルルルッ!!!」

「ケシケシケシ……」

「ギニャーーー!!!!!」

 

 とんでもない数のモンスターは思い思いの叫び声を上げながら、パレードでもやってるみたいに賑やかに、京都の街を練り歩き、僕らに向かって迫ってくる。


「いいね……、そうこなくっちゃ!じゃ、【解錠開始】!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る