掲示板(下)

 掲示板の裏面の投稿はこんな感じだった。

 

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【デロス同盟参加者募集】

〔差出人:~デロス同盟~〕 

 ついに来ましたね、アドベントゥラ・インフィニタの最終イベント。

 

 ・でも自分のクランは少人数だから、ついていけなさそうだな……。

 ・僕はクランに所属してないけど、ソロプレイでイベント攻略は無理だろ……。

 

 なんて考えている、そこのあなた!

 デロス同盟に入って、ホウライの玉の枝をみんなで探しませんか?

 

 デロス同盟は、様々な中小クランや、クラン無所属のプレイヤーが集まった連合です。どんな方でも大歓迎!


 ただし以下に注意です☆

 ・見つかった枝の所有権はデロス同盟の盟主に移ります。

 ・枝で移転させるオブジェクトはデロス同盟内で行う投票により決定します。

 ・無言参加禁止。入ったときには同盟チャットに一言挨拶を書き込んでください。


 

 

【マルガリータの救済に向けて】

〔差出人:~TAKA~〕

 常識ではあるが、今一度高唱しよう!

 

 マルガリータは女神である。彼女の太腿ふともも煩悩ぼんのうにまみれた我々をも、温もりをもって挟み込んでくださる。


 それは何人をも受け入れる浄土であり、謹厳実直きんげんじっちょくの堅物をも引き摺り込む地獄である。

 

 故に、マルガリータはサービス終了などで消滅すべき存在ではない。私は、2年前に解散した伝説のクラン、マルガリータにこにこ観察隊の再結成をここに宣言する。


 ホウライの玉の枝は我々のものだ。マルガリータは我々が救う。

 

 元マルガリータにこにこ観察隊の諸君。この掲示板を見ているか。見ていたならば連絡をくれ。


 あとSNSのブロックも解除してくれ。



 

【指名手配:どんな小さな情報でもお寄せください】

〔差出人:~LBombs, SQS, 発狂人の宴~〕

 LBombs, SQS, 発狂人の宴の3クランは、元マルガリータにこにこ観察隊のクランマスター、TAKAを指名手配いたします。

 

 罪状はプライベート領地への不法侵入、太ももがデカいプレイヤーの拉致および監禁など。


 有力な情報を提供いただいた方には謝礼をお渡しします。




【イキリこどおじキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!】

〔差出人:名無しさん〕

 †指名手配†だっておwww


 m9 (^Д^)プギャー


 自分で捕まえられんからって警察ごっこでイキリ始めるwww


 受験に負けて、就活で負けて、社会に負けて、逃げ込んだ先のゲームですら負け続ける人生www


 悔しいのうwwww

 悔しいのうwwww




【通報にご協力を】

〔差出人:sacksocks〕

 ↑悪質な煽り行為です。皆さん、通報にご協力ください。通報画面で「差別を助長する言動」にチェックをつけると垢バンに追い込める確率が上がります。




【一緒に金策しましょう】

〔差出人:ニセモノ聖者〕

 4年ぶりにログインした復帰勢です!ホウライの玉の枝入手に向け、まずはがっつり金策やります!ゴールデンゴーレム狩り、誰か一緒にやろー!


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 ……なんだかとてつもなく荒れている気もするが、大半はホウライの枝探しに関する投稿のようだ。このイベント、それなりに盛り上がっているらしい。


 ただ、やはり……僕自身を転生させてくれるプレイヤーを探すのは、それなりに大変そう。


 まず、マルガリータにこにこ観察隊などは論外。彼らみたいに枝を使う対象を明確に決めている人たちは 【B) 枝を僕に使うよう交渉】が成り立たないだろう。


 投票で対象を決めるっていうデロイ同盟は希望はないわけじゃないけど、難易度が高い。


 同盟の構成員がどれだけいるかは知らないけど、多数決で僕が選ばれるようにするには大規模な選挙活動が必要そうだ。


 しかも、自分の正体を大人数にバラす必要があるので、【C)運営にバレずに行動】の上で危険。誰か一人でも報告したら終わりだからな。


 ニセモノ聖者さんは、なんとなくゆるそうなので【B) 枝を僕に使うよう交渉】は可能かもしれないけど、4年のブランクがある復帰勢。【A)最強のプレイヤーか】的に厳しいだろうなぁ。


 悩みながら掲示板の続きを読んでいると、ある小さな貼り紙に目が吸い寄せられた。


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 【相棒募集】

 差出人:ミネラルウォーター


 ホウライイベントに本気で挑むことにした。枝を使う対象はこれから探す予定。

 とにかく、今は仲間を募集中。

 興味を持った人はマルドゥク村のブラックマーケットに来て。

 そこで見定める。


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 僕は目を疑った。

 常軌じょうきを逸しているレベルに無愛想な文に――じゃない。


 その貼り紙からは、微かに血のにおいがした。


 突然だが、僕の血は何色だと思う?


 答えは黒。僕が特殊なんじゃなく、モンスターは基本そうだ。


 本物の血と一緒の色だとレーティングに引っかかるとかで、モンスターの血液はくすんだ黒色に設定されているのだ。


 色のバリエーションは乏しいものの、血液の描写はモンスターごとに様々。


 糸を引くくらい粘ついたものや、空中で蒸発するものなど多種多様だ。


 プレイヤーのなかには、いろんなモンスターの血をコレクションしている変態もいるんだとか。


 僕の血も結構独特で、微かにラメが入っているのがチャームポイントだったりする。


 ……ちょうど、この貼り紙に使われているインクのように。


 何かの間違いか、と思っていろんな角度で貼り紙をみてみたけれど、やはり街灯の光に反射して黒い筆跡の中にキラキラした粒が浮かんでいる。


 この貼り紙、明らかに僕の血液で書かれている。


 コ、コワ~~。

 一体なぜ……? 

 なんかのオシャレ……?


 まぁ、ラメが綺麗ではあるからあり得なくはないけど、たぶん違う。


 だって、手紙の文が適当すぎる。インクなんかにもオシャレを追究する人だったら、文面ももうちょっとこだわるだろう。


 だったらなぜ……。


 僕は考える。考えなければ、気持ち悪いから。


 だってそうだろう?


 わくわくしながら旅に出たら、見知らぬ土地で自分の体液とご対面。そんな異常事態、タネとシカケがわからないと恐怖で夜も寝られない。


 血で書いた意味。僕の血である意味。


 頭を整理し、時間をかけて状況をゆっくりと消化する。いくつもの疑問が浮かび、脳内で漂う。


 僕に備わったニューラルネットワークが仮説の提唱と棄却を繰り返し、やがて一つの答えを導いた。


 恐らくは……これはメッセージなんじゃないだろうか。


 自慢じゃないが、僕はそれなりに強い。


 ダンジョンボスとして、挑んでくるプレイヤーを一方的に蹂躙じゅうりんしてきた。


 それこそ、流血することが稀なくらいに。


 そう、僕はプレイヤー戦で血をほとんど流したことがない。ということは、僕の血はかなりレア。


 光の粒が混じった血は、一度みたらきっと忘れない。だが、見たことがあるプレイヤー自体が極めてまれなはず。


 僕の血を知っているのは血液コレクターの変態か、僕に流血させた相当な強者か、だ。


 貼り紙を書いたプレイヤーも僕から血を奪っているってことで、かなりの実力に違いない。


 そして奴は――誘っているってことか。


 そう考えると、あの過剰にぶっきらぼうな文にも納得がいく。


 要はあの愛想のなさは、『普通の』プレイヤーを追い払うためだったのか。


 雑魚はいらない。あのインクを見て即座にその意味を理解できる、自分と対等な実力のプレイヤーを求めてるんだ。


 ……これだ。この人だ。


 このミネラルウォーターとかいうプレイヤー、【A)最強のプレイヤーか】を満たす可能性がかなり高い。


 それに『枝を使う対象はこれから探す予定』とか、えらく僕に都合の良いことを書いている。


 この人、たぶん、枝の機能自体にはあんまり興味がないんじゃないかな。


 イベントのこと、ワールドでひとつしかない枝を奪い合う、一番強いプレイヤーの決定戦としか見てねえ戦闘狂なんじゃあなかろうか。


 それなら【B) 枝を僕に使うよう交渉】も希望がある。【C)運営にバレずに行動】については評価材料が少なすぎて判断できないけど、3 項目のうち 2 項目も OK なら上等だろ。


 会いに行こう、ミネラルウォーターに。


 場所はどこだ? マルドゥク村のブラックマーケット、か。


 えらく大雑把おおざっぱな気がするが、ま、適当に歩いていたら会えるだろ。


 小さくガッツポーズをとり、僕は掲示板を後にする。

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