第5話「そこの団体さん、おかしいですよ!」



***


**第5話:客観的現実**


「エヴええ!!!」


友人たちの絶叫がこだまし、ファミレス内は一時騒然となっていた。

他のお客さんが何事かと箸を止め、ヒソヒソと噂話をする。

まさに、ざわつくファミレス内。


そんなカオスな客席を遠巻きに見つめる、二つの影があった。

ホールのアルバイト店員(女性)と、店長だ。


「……店長」

女性店員が、お盆を胸に抱きながら引きつった顔で言った。


「そこの団体さん、おかしいですよ!」


店長は伝票を整理しながら、めんどくさそうに答える。

「あー、若いからな。盛り上がってるんだろ? 水でも持ってってやれ」

「違います! 会話の内容が狂ってるんです!」


店員は声を潜め、震える指で彼らのテーブルを指差した。


「さっきから、『うわぁ美少女だ!』とか『アイドルかよ!』とか叫んでるんです」

「男なんてそんなもんだろ」

「いえ、だから……見てくださいよ!」


店員に促され、店長は渋々視線を上げた。

そこには、幸せそうにニコニコしている男(主人公)と、何かに目覚めて感動している友人一同。

そして、その中心に座っている一人の女性客。


店員は真顔で言った。


「美少女ですって! ……どこに?」


店長の目にも、彼女の姿はハッキリと映っていた。

個性的すぎる顔立ち。奇抜なファッションセンス。どう好意的に解釈しても「ブサ……いや、ファニー」な彼女。

少なくとも、友人たちが騒いでいるような「絶世の美女」は、そのテーブルのどこにも存在しなかった。


「……幻覚でも見てんのか? あいつら」

「集団催眠ですよ、きっと……怖っ」


店員たちは、「関わらないでおこう」という無言の合意を交わし、そっと目を逸らした。


ファミレスの一角だけ、現実が歪んでいる。

あるいは、この世界で「正気」なのは、もう店員たちだけなのかもしれない。


(つづく)


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