第6話(……どう見ても、体重100キロはあるぞ)



***


**第6話:真実の鏡!!**


店長は、ドリンクバーに向かって歩いてくる「彼女」を直視していた。

いや、直視したくなくても、その質量が視界を埋め尽くすのだ。


(……どう見ても、体重100キロはあるぞ)


店長の冷静な分析は止まらない。

鋭い一重まぶた。

揺れる二重あご。

Tシャツの生地が悲鳴を上げている、見事な三段腹。


主人公たちが「アイドル」「美少女」と崇めていたのは、この重量級の戦車だったのか。


「ちょ! 店長! ドリンクバーに彼女来ましたよ! こっち来ます!」

女性店員がパニック状態で囁く。

「しっ! 目を合わせるな。知らんぷりしろ。関わったら俺たちまで頭がおかしくなるぞ」


店長と店員は、必死に伝票を整理するフリをして、彼女の存在を無視しようと試みた。

ズシン、ズシン、と床がきしむ音が近づいてくる。

そして、その足音は二人の目の前で止まった。


彼女が口を開く。


「あのぉ? ……ストローが、切れてますよぉ?」


店長はビクッとして顔を上げた。

罵倒されるか、あるいは「肉を持ってこい」とでも言われるかと身構えた瞬間、鼓膜を震わせたのは――。


(え? ……なに?)


それは、鈴を転がすような、透明感あふれるソプラノボイス。

一流の声優か、あるいは天界の住人かと思うほどの「美声」だった。


「えー? ……なにその、美しい声!」


店長の心のガードが、ガラガラと崩れ去った。

目の前にあるのは「三段腹の巨体」。

しかし耳から入ってくる情報は「可憐な美少女」。


脳がバグる。

店長は呆然と彼女を見つめ、頬を染めた。


「は、はい! ただいまお持ちします! ……お嬢さん!」


「て、店長!? しっかりしてください!」


女性店員の叫びも虚しく、店長もまた、不思議の国(ワンダーランド)への入り口に立ってしまったようだった。


(つづく)

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