【短編】給食デスゲーム
紅藍
本編
たぶん、小学三年生のころの給食だったと思います。夏か冬かは忘れました。覚えていないということは、暑くも寒くもなかったのかもしれません。春か秋だったのかも。
え? ああすみません。ふたつ前の質問です。
「どうしてあなたはデスゲーム作家になったのですか」という質問です。
ちなみにさっきの答えはチコリータです。私は最初に選ぶポケモンをくさタイプにするという宗派なので。
まず大前提として……もちろんチコリータの件ではなくデスゲーム作家の件ですが……私はなろうとしてデスゲーム作家になったわけではありません。ライトノベル作家になりたいと思ったのであればライトノベルレーベルの新人賞に投稿するでしょう? ミステリであればミステリ関係の……。でも私は、デスゲーム関係の新人賞に応募したわけではないので、そのつもりがあったわけではありません。ですから質問に答えるには、いくつかの段階を踏む必要があります。
どうして私は作家になったのか。
どうしてデスゲームを題材に作品を書こうと思ったのか。
どうしてデスゲームを題材に書き続けようと思ったのか。
最初の疑問は、さほど興味はないでしょう? さきほどの質問の意図として、私が作家になったきっかけそのものはあまり重要ではないはずです。作家になる上でデスゲームというジャンルを選んだ理由が知りたいのだと思います。
そのジャンルが好きで、親しんでいるうちに自分でも書きたくなったから……と言えれば一番簡単だったんですけれどね。はい、つまりそういう理由ではありませんでした。簡単に説明できることではなかったので、これまで語ることはありませんでした。聞かれることもなかったですし。
むしろ私は物語の中でも人が死ぬのを見るのは、あまり好きではないです。現実世界でも毎日どこかで人が死ぬのに、フィクションの中でまで殺し始めていたら収支が合わなくなるなあと思うので。デスゲーム作品を多く執筆する前はミステリを書いていましたが、それも大半はいわゆる「人の死なないミステリ」でした。唯一映像化した『サイゼリヤの殺人』が、タイトル通り人死にを扱うミステリなのであんまりそういう印象はないかもしれませんが……。
ともあれそんな私がデスゲーム作品を書き続け、それが私という作家の代表的なジャンルになるとは、私自身が思ってもみないことでした。人が死ぬのを好まない私が人の死ぬ作品を嫌々書いて、それが受けるなんて想像できるはずもありませんからね。仕事なら嫌いなジャンルでも書けると豪語する人はたまにいますけど、私はあれ、照れ隠しか余裕ぶっているかのどちらかだと思います。テスト勉強全然してないぜ、と同じやつです。
話が逸れました。
きっかけというのは当然、出版社側から「こういうのを書いたらどうだ」と打診されたのが始まりです。私くらいの零細作家では、自分から「こういう作品を書きたい」と売り込んでも無視を決め込まれるのが常ですから。ちょうど『サイゼリヤの殺人』の映画化が決まったことで、今までのほほんとした人の死なない作品を書いていた私に、もう少し命の軽い作品を書かせてみようとなったのだと思います。
そうして生まれたのが『大混雑ファミレスデスゲーム』でした。……なるほど。私自身、執筆の経緯を確認するのは初めてですが、こうして並べるとどうしてそこに至ったのか分かりやすいですね。ファミレスを舞台にした作品を書いた作家の次回作として、映画公開中にプッシュするならそりゃあ、ファミレスを舞台にした作品の方がいいに決まってますね。トリックが思いつかず悩んでいた私に、当時の編集者さんが「ファミレスを舞台にした他の話はないか?」と言ってきたのも理解できます。重要なのは「殺人」ではなく「ファミレス」の方だったと。
ふむ。
はい、この『大混雑ファミレスデスゲーム』、世間ではよく『ファミデ』と略されている作品が、どういう因果か大うけしたのがきっかけでした。デスゲームで売れたなら、当然その作家には次もデスゲームで書かせる。その繰り返しで、いつの間にやら私はデスゲーム作家になっていたわけです。
どうしてデスゲームを題材に作品を書こうと思ったのか。どうして書き続けようと思ったのか。私がデスゲーム作家になったきっかけはそんなところです。
…………いや、少し違うか。
はい。さっき口走った話と全然つながりませんでしたね。すみません。考えながら喋るのは苦手で。…………少なくとも、大きな要因のひとつとしてさっき説明したものは間違いなくあると思います。ただ、さっきの話なら……デスゲームでなくてもいいわけですよね? 要するに編集者さんはファミレスを舞台にした話を書かせたかった。人の命がある程度軽ければ。ミステリでもデスゲームでもなく、サスペンスでもいいわけです。ファミレスに入った強盗との問答を続ける作品とかでもいい。そうした選択肢……というより一定の幅の中から、私がデスゲームを選んだ理由こそが聞きたい部分だろうと思います。
とかなんとかいって。
インタビューとしてはさっきの部分で足りていますよね? 聞く理由あります? ないよりは断然マシ? 分かりますよ、私も大学生のころ雑誌作りでインタビューしたことありますから。でも文字起こし大変じゃないですか? あと適度にまとめるのも。他の面倒な仕事を断る口実になる、と。そっかあ……。
では話すだけ話しますね。使うかどうかはそちらにお任せします。たぶん使えるような内容ではないと思いますが。ちょっと水を一口……。
はい。ではきっかけの話です。つまりファミレスを舞台にした命の軽い作品を書こうとなって、デスゲームを思いついた理由。さきほど口走ったように、あれがあったのは小学校三年生のころだったと思います。季節は覚えていませんが、三年生だったのは間違いないでしょう。『ポケットモンスターエメラルド』が発売された年で、私は学校にいても家にいてもそれが欲しいなあとぼんやり思っていたのを覚えていますから。
最初のポケモンはキモリにしました。もちろん。
当時の私は友達のいない子どもでした。今も友達はいませんが、「友達がいない」という状態は、子どもと大人でその意味が違います。友達のいない大人はただの一個人以上の意味を持ちませんが、友達のいない子どもは透明人間です。その存在を学校やクラスという場から認識されない人間です。
ポケモンを通信交換で進化させられないのが悲しくなかったか? それ、よくネタにされますけど、本当に悲しい思いをした人っています? だって通信ケーブル持ってないとどのみち通信できないじゃないですか。そしてゲーム機本体とソフトの他に、そんな周辺機器を買ってもらえる子どもって多くないですよ。『エメラルド』にはワイヤレスアダプタが付属してただろうって? ちっ、バレたか。さては同年代だな? まあいずれにせよそこは問題にならなかったんですよ。だって『エメラルド』ってマイナーチェンジでしょう。大抵の子は『ルビサファ』持っていたんで、『エメラルド』まで欲しがる子はいかなったんです。『ファイアレッド・リーフグリーン』の話はするなよ?
何の話でしたっけ?
ええ、まあ、そんなわけで友達のいない私は、学校では透明人間のように生活していました。いじめ……ではなかったでしょうね。「無視」とはその人を認識した上で起こす行動なので、そもそも認識されないと始まらないんですよ。掃除当番や給食当番もサボれればよかったんですけど、当時はそういう小狡い発想ができるほど器用な子どもではありませんでした。
そんないつも通りの生活を送っていたある日のことです。給食の時間です。つまり子どもたちにとって一番楽しみな時間に、あれは起きました。
その日の給食当番に私も入っていたので、献立はよく覚えています。カレーとサラダ、牛乳。そしてなによりデザートの……プリン。その神々しい存在にクラスメイト達は狂気的な熱を帯びていました。
狂気的……そうですね、あれは狂気的でした。
大人になって外に出ると、子どもの声がとにかく耳に入ります。人の気を引くための大きな泣き声。そうでなくとも妙にテンションが高い支離滅裂な発声。それが子どもという生き物の性質だと分かっていても、あの声はどうも苦手です。私の生活を妨害するために適宜差し挟んでいるのではないかと疑いたくなるつんざくような悲鳴。あれも一種の狂気的なものだと表現したくなります。しかし当時、給食の時間にクラスメイト達を包んだ狂気はそれとはまた違うものでした。「狂気的」と同じ言葉で表しても、その内実はまったく異なるのです。
大人の私が子どもの声を「狂気的」と認識するのは、そこに理屈と理解を付与することができないからです。おそらく何らかの明確な理屈で発せられるだろう声。しかしその理屈はあるらしいという以上のことが分からない。ゆえに私は「狂気的」と表現するほかなくなります。
一方、当時のクラスメイトの狂気は私の理解できるものでした。だってプリンですからね。小学生が給食の時間にプリンを目にして狂気的にならなかったら、いつ狂気を帯びるんだって話です。
しかも悪いことに……当時の彼らには良いことに……そのプリンはひとつ余っていました。
その余ったプリンは私のだったのではないかって? 心配してくださってありがとうございます。実際透明人間のように生きていた私なので、当時はそういう「配り忘れ」は時折ありました。ただ今回に関しては違います。なにせ私自身が給食当番のひとりだったので、自分の分を確保するのは容易でした。
ここからがどうにもおかしいことなんです。
プリンが余ったということは、誰かひとり、クラスの児童が欠席しているはずなんです。給食は人数分しかありませんから、それ以外考えられない。でも誰も欠席していないんです。それは確実です。自分の分を確保する都合上、プリンの配膳を行ったのは私ですから。
しかしプリンが余る。何度確かめても全員に行き渡っているのに。プリン以外にも、スプーンと牛乳も私が配膳しましたが、そちらは余っていない。プリンだけがひとつ多いんです。他の献立はカレーとサラダなので余っているかの確認は不可能でした。ソフトめんとかなら……たぶんそうだったとしても、余らなかったと思いますが。
デザートのプリンが余っているという事実は劇物でした。そんなもの、小学生にとってはニトログリセリンみたいなもんですよ。なんというか、教室の温度が五度は上がったと思います。
ことがことだけに、担任の先生はすぐに他の教室へ向かいました。他のクラスの分が間違って入り込んでいる可能性がありましたから。私の通っていた小学校は各学年二クラスしかない小さいところだったので、確認に時間はかかりません。
担任が出発する前にいただきますをして、各々が給食を食べ始めました。カレーにプリンなんて黄金の献立を前にしても、誰一人喋りませんでした。黙々とカレーとサラダをかっこんで、「次」に備えている。サラダはキャベツをざく切りにして、キュウリと、レッドキドニーとひよこ豆をドレッシングで和えた子どもからすれば苦手寄りなものだったろうに、誰も残しませんでした。
来るべき「次」……。はい。そうですね……。
やがてそのときは来ました。
担任の先生が戻ってきました。ご想像の通り、どこのクラスもプリンはきちんと人数分ありました。不思議なことに、わたしたちのクラスのプリンだけ一個多かったんです。
まあ、足りないならともかく多い分にはそう問題ではありません。不思議は不思議ですが、困ったことではない。「人の死なないミステリ」なら解決すべき事件になるかもしれませんが、誰も困っていないなら素人探偵の出番はありません。単に発注の個数が間違ったのだろうとか、そういう適当な理解で済まされました。
結局…………どうしてプリンが一個多かったのか、今になっても分かりませんね。あの後、警察も来て捜査をしたはずなんですけど。
さて、余った給食を前に子どもたちがすることと言ったらひとつしかありません。
ジャンケンです。
先生が戻ってきて、やはりプリンは一個余っていると確定したときの空気は壮絶でしたよ。大騒ぎだった? 違います。水を打ったように静かだったんです。教卓の前に立った先生の心臓の音が、一番後ろの席に座っていた私でも聞き取れるんじゃないかってくらいに。
念のため言っておきますけど、いつもはこうじゃなかったんですよ? 余ったデザート一個の取り合いで張り詰めるほど、真剣になれるような殊勝なガキなんてあの中にはいませんでした。田舎の小学校ですから。知能なら動物園の猿とトントンですよ、本当に。だからこそ私はその空気が異様だと気づけました。本は読めるのに空気は読めないでお馴染みだった私が気づいたのでよっぽどです。いえ、これは私自身がそう表現したかったのではなく、後で事態を知った当時の校長先生がそう言っていたそうです。……校長先生に知られているくらい空気の読めない子どもだったんですかね、私って。
既に述べたように、先生が戻ってきた頃には誰もが給食を食べ終えていました。男子ならともかく、女子もですからやはりあの時は異様だったと考えるほかありません。そこで、ことをさっさと済ませようと考えたらしい先生は、すぐにジャンケンで余った一個のプリンを誰が食べるか決めることにしました。
「プリンが食べたい人は手を挙げて」
先生がそう言おうとして口を開いた瞬間には、みんな立ち上がっていました。挙手でいいのに。先生もさすがにこの様子にはたじろいでいましたね。その前から異様さには気づいていたのかもしれませんが、その瞬間までは動揺を出さないよう努めていたのかもしれません。
そこからジャンケンが始まりました。
通常、当時のクラスで余った給食の争奪戦が起きるときは、食べたい人たちでジャンケンをすることになっていました。普通なら食べたいと思う人はそう多くないからです。
ただ今回はクラスの全員です。そういう、クラス全員でじゃんけんをする必要があるときは、先生はクラスの児童たちを自分とジャンケンさせました。教卓の前に立った先生が出した手に、勝った児童だけが残っていく方式ですね。大勢が一斉にジャンケンすると、いつまで経ってもあいこで勝負がつかないことがありますから、正しい判断だと思います。
しかし今回は児童たちの様子がおかしい。どうも剣呑ではない。教師としての判断なのか、生物としての本能なのかは分かりませんが、先生は自分が事態に加わるのを避けました。児童だけでジャンケンさせて雌雄を決することにしたのです。その判断も、正しいと思います。というか正しくないと困ります。
私もそのジャンケンに参加するのは止めましたから。
止めたというのは少し格好つけすぎですね。実際には参加できなかったんです。わたしも参加しようとして立ち上がったんですよ。ただ……いざジャンケンだとなって、クラスメイト達が教室の中で輪を作った時、私はそこから弾かれてしまいました。輪の中に入ろうとしたのに、輪を作る中で自然と私の立つ場所がなくなって、気づけば輪の外側に押し出されていました。透明人間みたいなものですから、たまにそういうことはあります。
さすがにことがプリンなのでもう少し粘ったのではないかと思われるかもしれませんが、こういうとき、当時の私は割合簡単に諦めていました。ああいうの、繰り返されると億劫になるんですよ。だからそのときも私はさっさと諦めて、食べ終わった食器を片づけました。そのまま教室を出て図書室にでも向かおうかと思ったんです。
外に出て扉を閉めた時でした。すぐそこの階段を降りようとする私の背中に……教室の中から大きな声で聞こえてきました。
「さいしょはぐー! じゃんけん――」
爆発しました。
はい。
本当に最初、何が起きたか分かりませんでした。
直前、妙な寒気がして振り返ったんです。
その直後、私の体は宙を浮いていました。すぐそこは階段です。そのまま吹き飛ばされながら階段を落ちていきました。
階段は踊り場で折り返して下の階に続くものです。わたしは吹き飛んで踊り場まで落下し、踊り場の壁にある赤い扉のようなものにぶつかりました。消火栓と消火器の入っているやつです。火災報知機も取り付けてあって、わたしはそこに頭をぶつけたので報知器が鳴り響きました。
今にして思えばよく死ななかったなと。首の骨が折れてお陀仏でもおかしくない落ち方でしたね。
当時はそんなことは思いませんでした。すぐに自分が報知器を鳴らしてしまったことに気づいて、かなり焦りました。ちょっと前に、報知器を悪戯で鳴らした児童が地獄の責め苦のように怒鳴られていたのを聞いていたので。血の気が引きましたね。
頭がガンガン響いて、首筋のあたりが妙に生温かったのを覚えています。少しして、報知器のことはさほど問題ではないと思い至りました。私が報知器を鳴らしたのは事故ですし、そんなことより教室が爆発している方が問題ですから。たぶん爆発させた児童は退学させられるだろうと思いましたよ。
生きていたら。
教室の扉は爆発で吹き飛ばされ、私と同様、階段へ転がり落ちました。これにぶつかっても私は死んでいましたから、だいぶ運が良かったですねあのときは。ともあれ、扉が消え去り入口からは白い煙がもうもうと立ち込めていました。中の様子は見えません。なんにせよ、中を確認しないといけないと考え、私は起きて階段を上りました。
火薬の臭い……当時なら花火の臭いと思っていたものは感じませんでした。熱もなく、ただ煙が上がっているだけ。爆発したのに爆発の痕跡にしてはおかしい。爆発で窓ガラスも割れたので、やがて風が流れてきて煙は晴れました。
私が教室を出たあの瞬間に、何があったのでしょうか。
教卓は教室の中央にありました。移動させられていたんです。その教卓の上には捧げもののようにプリンが鎮座していました。しかしそれ以外が滅茶苦茶でした。教卓とプリンを中心に放射状に爆破の痕跡が残されていて、机も椅子も、そして児童たちも吹き飛ばされていました。
たぶんあいこだったんだろうと思いました。考えられる結果はそれしかありません。誰かが勝っていたなら、勝った児童も吹き飛ばされているのはおかしいでしょう? だってジャンケンなんですから。
問題はこの場合、ジャンケンは続行されるのかということです。見た感じ吹き飛ばされたクラスメイトは半死半生という有様でした。首の骨があらぬ方向へ曲がって倒れている児童もいれば、今にも立ち上がりそうな子もいます。
その中のひとりが慌てたように立ち上がりました。名前は覚えていません。いつもつまらない屁理屈をこねていた男子とだけ記憶しています。そいつは立ち上がりながらこう唱えました。
「さいしょはグー! じゃんけんぽん!」
彼はパーを出しましたが、それは重要ではありません。他の誰も手を出せなかったからです。彼は爆発の衝撃からいち早く立ち直ると、自分だけジャンケンを続行することで他の児童を不戦敗にしようとしたのです。
わたしは教室の入り口から離れ、壁に身を隠しました。
次の瞬間。
教卓が爆発しました。
プリンを載せた教卓が爆風を発し、それに吹き飛ばされ彼は黒板に叩きつけられました。黒板が割れるほどの威力です。そのまま床に落ちて彼は動かなくなりました。パッと見には分かりませんでしたが、たぶん内臓が何個か駄目になったのでしょう。
ジャンケンはみんなでやるものです。ひとりだけ先走って不戦敗にさせるなんて、そんなことが許されるはずもありません。
そうこうしている間に、また数人が立ち上がりました。さっきの彼の件があるので、その数人はちゃんとジャンケンをしようと考えたようです。しかしまだ立ち上がろうともがいているクラスメイトもいます。
さて困りました。
このジャンケンには果たして、ノックダウンはあるのでしょうか?
先ほどの例では、屁理屈をこねた男子が反則負けになりました。これはいいでしょう? 問題は立ち上がった数人がジャンケンをした場合です。死んだ児童はさておき、まだ生きているが立ち上がれずジャンケンに参加できない児童は敗退扱いでいいのでしょうか?
え? いえいえ……。何も突拍子のない考えではありません。というのも、隠れていた私の頭にぱらりと落ちてくるものがありました。見上げると、校舎の天井にひびが入っているのに気づいたのです。どうあれこのままジャンケンが続くと、校舎が崩壊する危険がありました。すぐに止める必要があります。
しかしどう止めたものか。今立ちあがったクラスメイトだけでジャンケンをして、一度に決着がつけば助かります。しかしあいこなら再び爆発が起きて、生き残った者が立ち上がってまたジャンケンをしてしまいます。
そもそも今行われようとしているジャンケンは、正式な勝負として受理されるでしょうか? 参加できてはいないが生き残っているクラスメイトがまだいるのです。先ほどの屁理屈くんのように、不戦敗を引き出す手だと判断されたらたまりません。
ジャンケンをさせてはいけないのです。ジャンケンでは無事に終わる保証がありません。せめて生き残った児童は全員参加できるようになるまで待つべきですが、立ち上がっている児童にそんな思いやりはないようでした。
そこで私は、今から考えるととんでもないことをしました。だって、ねえ。一番いいのは、校舎を飛び出して避難することですから。自分からこのバカげた勝負を終わらせる方法を考えて実行するなんて……。なんでそんなことをしたのか分かりません。
何をしたか、ですか。変にもったいぶってしまいましたが、当時小学生の私にできること……思いつくことはそう多くありません。そしてとびきり簡単で、パニックに陥った頭ですぐ思いつくことです。
私はジャンケンが始まるより早く教室に飛び込んで、そのプリンを奪ったのです。
自分が食べられればベストでしたが、スプーンが見当たらなかったので仕方ありません。どうせ今回の件でしばらく入院するだろうし、母も少しは甘いところを見せてプリンくらい買ってくれるだろうと当て込んで……。奪ったプリンを割れた窓から外へ放り投げました。
爆発は起きませんでした。
起きるはずがありませんよね?
だってそうでしょう。爆発はジャンケンのペナルティです。そして私はジャンケンに参加していません。参加していない人間に罰を与える道理などありませんよ。
それに私は当時の給食当番です。そしてプリンはなぜか余っていたもの。給食当番が、プリンをうっかり駄目にしたのと、ことの収支は同じなのです。それでプリンが不足すれば私が相応の対価を支払う羽目になったでしょうけど、余ったプリンが失われても損はしません。誰も得をしなかっただけのこと。
それでもこれは賭けでした。当時の混乱した頭でも、たぶん爆発はしないだろうと予測していました。しかしプリンを駄目にしたことでクラスメイトからリンチされる危険は依然としてありました。捨てたプリンを巡って第二ラウンドという可能性もあります。運のいいことに、命がけで争っていたプリンが消えたことで活力を失ったのか、クラスメイト達はバタバタと倒れていきました。
後はとても簡単です。なにせ爆発ですから警察に消防に救急と大わらわ。私も病院に運ばれ、頭を打っていたので入院することになりました。
しばらくして警察の人が事情聴取に来て、そこで聞いたのですが、クラスメイトは結局私以外全員亡くなったようです。爆発で全員が死んだはずはないのですが、どうも生きる気力を失ったかのようにこと切れたとかなんとか。葬式には怪我を理由に行きませんでした。面倒だったので。
まあそんなわけです。ファミレスで命の軽い話をと考えて、唸った末に思い出したのがこの話です。そのまま書くわけにもいかないので色々捻っていたら、いい塩梅に物語になったので『大混雑ファミレスデスゲーム』が生まれました。
当然この話は嘘ではありませんよ? 当時の新聞を見てもらえれば、爆発事故の一件が書かれているはずです。数年前にアメリカでテロがあったので、その流れからこの一件もテロ事件ではと騒がれたほどです。
ちなみに入院中、プリンは買ってもらえませんでした。両親は私の話を信じてはいなかったはずですが、それでもプリンはトラウマになっているだろうと慮ったらしいです。その代わり『エメラルド』を買ってもらえたので、入院中は一日一時間といわずゲームができて気晴らしにはなりました。
最初に選んだのはもちろんキモリでしたよ。決まっているじゃあないですか。
【短編】給食デスゲーム 紅藍 @akaai5555
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