幕間 息子の去った後

(こうするしかないよな)


 煙草を探し、自然と伸びた手が空を切った。指先が何も掴めずに止まり、そこでようやく気づく。

 いまの自分は冒険者ではない。父だ。それでも身体だけが、勝手にいつもの癖を呼び戻していた。死線の匂いを嗅いだときの、あの切り替えだ。

 

 代わりに――リオニスは宙を仰ぐ。


 マリウスから聞いた話は、〝普通〟なら到底信じられない。

 死が繰り返される。村が滅びる。何度も、何度も。そんなもの、悪趣味な作り話のはずだ。


 それでも、リオニスは息子を疑えなかった。

 自分も同じように、周囲を巻き込んできたからだ。根拠の薄い胸騒ぎで、周囲を巻き込み、危うい橋を渡らせてきた。荒唐無稽な話ほど、なぜか現実の匂いをまとっている。そう知っている。


(マーナはこんな気持ちだったのか)


 半ば呆れた顔で『また?』と言われながらも、それでも必ず隣に立ってくれた。苦楽をともにする覚悟。愛の為せる業だろう。


 親として、子に願うことはひとつ。

 ――ただ、健やかに生きて欲しい。その思いだけ。


(どうなっちまうのかねぇ)

 カミラの報告も気にはなっていた。とはいえ、右回り組にはミゲルとオラルもいる。たかが小鬼が増えた程度で、問題になるはずがない。……いつもなら、そう言い切れた。


 普段と何ら変わりがないように見える星々と、

 ――硝子のように割れた〝空〟。


 今は、昔みたいな〝絶対的な自信〟はもうない。

 ただ、この異常は胸騒ぎと呼ぶには重すぎる。直感が冒険者時代の勘を蘇らせ、警鐘を鳴らし続けている。

加速アクセル

 リオニスは、源素エナを足に込め、村へ翔けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る