第18話 それじゃ、体験してみる?

 白が偉そうに講義をしている間に、私は少なくなった呪符を作っておく。

 白い紙はいっぱいあるから、それに虫どもの苦手な火の呪を書いて行く。


 本当に、ここは虫が多すぎる。


 あと疫鬼がいたから、疫鬼を退治するための呪を書いて呪符を作っていく。


 ここまでくると、あれも必要だろうか。

 一応作っておこう。


 いくつかの呪符を作って一息ついたところで、何か視線を感じると顔を上げる。

 すると、私と同じ金色の瞳が目の前にあった。


「なに?」

「何をしているのかと思って」

「虫が多すぎたから、呪符を追加で作ったんだよ」

「確かに、あれは黎明が虫嫌いになるのもわかるよ」


 ……私の虫嫌いは琅宋ろうそうの所為だよ。


琅宋ろうそう。休めるときは休んだ方がいいよ」


 おっさんを見習えば良い。おっさんなんか槍を持ったまま座って寝ているよ。


「それは黎明も言えるだろう?」

「私は慣れているよ」

「それなら、俺も慣れている」


 皇帝が慣れているって、ヤバくない?

 琅宋ろうそうの周りって、どうなっているわけ?


「それでも、早く寝るといいよ。慣れているといっても、疫鬼に取り憑かれたんだ。おっさんのように目を瞑るだけでもいい」


 あのおっさん。周りに警戒をしているのに、身体を休めるという器用な技を使っている。

 流石に普通はあんな事できないよ。


「次の四階への階段を見つけたら、そのまま五階に行くからね。そこにたぶんこの現象を起こしている原因がいるはず」

「四階はいいのか? あ、黎明が壊したからないという意味か」


 ん? ああ、確かに私が壊したけど。


「それはすぐに直っていると思うよ」

「直るのか?」

「直るというか、これ幻覚だから」

「幻覚! これまでの全てが幻覚なのか!」

「妖魔は本物だよ」


 うーん。説明が難しいなぁ。

 本物と思えば本物だし。幻覚と思えば幻覚。


「妖魔のテリトリー内には変わらない。どこまでが幻覚か、どこまでが本物かと言われると、明確な境界はないんだよね」


 私は仙嚢から器を出す。平らな器だ。


「鮒売りって知っている?」

「言葉そのまま鮒を売っている者のことだろう」


 まぁ、そうなんだけど。私は苦笑いを浮かべる。

 すると白が私の肩に乗ってきた。


「さぁ、お客さん。来てらっしゃい! 見てらっしゃい! ここにいるのは鮒売りの娘でございます」


 町の中で客寄せをするように声を上げる白。面白がっているよね。


「おや? お客さん。鮒が欲しいのかい? 残念だったね。今最後の鮒が売れてしまったんだよ。しかし、大丈夫。今から鮒を釣ろう」

「ここに水盆がある」


 私は琅宋ろうそうに見えるように水盆を見せる。丸い器だ。


「ん? 水がないが?」

「さぁ。水が湧きでるよ」

「「おお! 水が出てきた」」


 あれ? 客が増えた。

 おっさんも気になって起きてきたらしい。


「釣り糸を垂らそう。見てごらん。糸が引っ張られるよ」

「針などない糸が何に引っ張られているんだ? そもそも鮒などいないが?」


 その言葉に、私はますます苦笑いを浮かべてしまう。


「いや、鮒はいる。よく見るといい」

「「おお! 泳いでいる」」

「糸に食いついた鮒が跳ねるから気をつけるといい」

「「おお! 水盆から飛び出てきた!」」

「さて血抜きをしよう。白。刃物をおくれ」

「はいよ」


 そして私はサクサクと切っていく。


「さぁ、これがお客さんの鮒の切り身だよ。今、仕留めたばかりだから新鮮だよ」

「凄い! 本当に鮒が水盆から出てきた」

「凄いでありますな」


 驚いている二人の前で両手をパチンと叩く。

 琅宋ろうそうと王離が、一瞬私が目の前で両手を叩いたことで気を取られた。


「もう一度、よく見て」

「え?」


 そして、琅宋ろうそうは目の前にあるものに目を移す。


「仙桃? あれ? 鮒の切り身は?」


 琅宋ろうそうの前には、器の中に仙桃を四等分切ったものがある。


「これが『鮒売り』。本当は本物の鮒を用意するんだけど、私は仙桃しか今持っていないからね」

「『鮒売り』は術を売っているんだ。貧乏道士の金を稼ぐ、仕事の一つだな」

「うるさいな。いつも討伐の仕事があるわけじゃないんだから、仕方がないよね」


 私は琅宋ろうそうに四等分に切った仙桃の一つを差し出した。


「どうぞ。疫鬼に憑かれて回復していないよね。食べるといいよ」

「いや、その前に今のはどうなっているんだ?」

「はれあ〜ははのへんはく」

「うん。食べてからでいいよ」


 ああ、仙桃が私の虫のストレスを癒やしてくれる。

 全部食べたいけど我慢。

 白にも一つ差し出すと、器用に前足で掴んで食べている。


 こういうのを見ると猫らしくないんだよね。窮奇だけどね。


「あれは幻覚だね。この器は本物だよ。あと、本当なら最後も本物の鮒を出すんだよ」


 竹の串に刺さった仙桃を持ったまま固まってしまった琅宋ろうそうと王離を前にして説明する。

 因みに竹の串は竹筒飯の蓋で作った。


 早く食べないと、ぼとりと落ちてしまうよ。仙桃を床に落とすと落ちたものを口に突っ込むからね。


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