第17話 世界は微妙なバランスを保っている
「冬を越し芽吹きの春に目覚めよ」
握り込んだ手の中から木の枝が伸びてくる。
「白桃花を咲かせ」
淡い桃色の花が握り込んだ枝の両側に咲き誇る。そしてなにもない空間に矢を番えるように右手を引く。
軋む枝に花が舞った。だが、弦は存在していない。ただ、かすかに風が頬に触れる。
「二十四番の花信風を纏い、邪を払いたまえ『破邪の花矢』」
何も持っていない右手を放つと、ビンと音が鳴る。淡い桃色の花びらを舞い上がり風が建物を揺らしながら吹き付けてきた。
『ぎゃぁぁぁぁ!』
『あぁぁぁぁぁ!』
叫び声を上げながら消えていく子供。消える瞬間に黄色い鳥の羽をばら撒いていることから、人ではなかったことがわかる。
「本当に子供ではなかった」
驚く
この術はあまり使いたくない。
「それはなんであるか?」
「元は仙桃の種ね。強制的に成長させるから、使い捨てなのが痛い」
そう、私が食べた仙桃の種は大事に洗ってとってある。退魔師の道具としてはめったに使わない。
どちらかと言えば、地仙や天仙が使う術になる。
仙桃がそもそも手にはいらないからね。
普通の桃の種でもできるけど、ここまでの効果はない。
「四階が潰れてしなったね」
妖魔が作り出した空間ごと浄化してしまっている。天井がえぐれ四階だった部分が吹き抜けになってしまった。
「なぁ、黎明。これを初めから使えばよかったのではないのか?」
「それは白が怒ると思う」
「え?」
私の肩に乗っている白い猫に視線が集中する。仙桃の種を使い捨てにするものの、使い勝手のいい術と言っていい。
何せ、邪を祓う力が半端ないのだ。
妖魔が作った空間をえぐる程なんだから。
「仙桃は普通は人の世界に無いものだからな。多様するとバランスが崩れると、言われている。別に俺は怒りはしないが、後で俺が怒られるんだよ」
「バランスって、何のバランスだ?」
「あ? なんで仙界が隔離されていると思っているんだ?」
「人に荒らされるからか?」
「桃源郷という理想郷であるからですかな?」
「違うわ!」
耳元で叫ばないで欲しい。うるさいよ、白。
「ちょっと休憩する?」
疫鬼に少し取り憑かれたからと言って、すぐに病になるわけじゃない。だけど、生気を吸い取るから、疲れているだろうね。
私は近くの扉を開けてみる。
「虫ども滅殺ぅぅぅぅ!」
倉庫のような部屋の中に、うようよいた虫どもを消滅させる。
くっ。予算の問題上、あまり退魔道具を用意できなかったことが悔やまれる。
虫どもを焼き尽くす札が心もとなくなってきた。
「入ってきていいよ」
重い体を引きずるように
疫鬼に憑かれてしまったとはいえ、慣れないことに身体が悲鳴を上げ始めているのだろうか。
そうだよね。もともと屋敷の中は妖気が満ちているし、慣れない人にとっては、それだけでも苦痛だろう。
二人が入ってきたところで、扉を閉めて何も書かれていない白い札を貼る。そして残りの三方にも貼っていき、中央に立って両手を打ち付ける。
柏手の音が四方八方に響き渡った。音に満たされた空間の邪を払い結界を築く。
「前も思ったが、それで結界になるのか?」
「柏手は邪を祓うからね。それから四角に貼った札は死角となって魔のモノの目を欺くんだよ」
そして王離と言えば、念の為か部屋の中を見て回っている。
それは意味がないと言った。だけど、
ここは妖魔のテリトリーだから、妖魔の気分次第で背景はいくらでも変わるのにね。
「さっきの続きだが、世界は微妙なバランスを保って存在しているんだ」
白は床に降りて、話の続きをしだした。
「陰と陽。このバランスを崩すと世界は崩壊すると言われている」
偉そうに講義をしている白を無視して、私は
一つはご飯が入っており、もう一つは水が入っている。
「人の中でも
一番身近の例えていうとそうだね。陰と陽のバランスを保つことで、人の社会が成り立っている。
男性が多すぎても、女性が多すぎても、人という種族は保っていられない。それと同じだ。
「仙界は陽だ。そして妖界が陰だ」
「ちょっと待ってくれ、妖界とは聞いたことがないぞ」
「人には馴染みがないだろう。先程の疫鬼もずっと人の世界にいるわけじゃない。もしいたら疫病で人は絶滅しているだろうな」
仙人が仙界で暮らしているように、妖魔も普段は妖界で身を潜めていることのほうが多い。そのまま出てこないのが一番いいのだけど、世界はバランスを保つために魔を放つのだ。
増えすぎた陽を駆逐するために妖魔が世界に放たれ、そして増えすぎた魔を駆逐するために、神力を使う退魔師が存在する。
終わりのない陰と陽の戦いだ。
「世界は陰と陽を巡らすことで、バランスを保っているんだよ。わかったか? バカ皇帝」
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