第25話:屋上の住人と決められていた結末

「天宮のハンバーグうまかったなぁ」


 僕は弁当を食べ終わった後、屋上に来ていた。かなり静かに屋上への扉を開けたのに、待ってましたと言わんばかりに 視界の外にいるあの人は話しかけてきた。


 そういえば「頭脳勝負」とやらを勝手に勝負を仕掛けてきたんだったな、この教師。


「僕の負けですよ」


 見えてはいないはずだけど、僕は両手を肩の高さまで上げて「降参」のポーズを取った。


「お! 自分の負けを認めることができるようになったら、人間もう一段階上のランクに昇格するんだよ」


 たしかに、僕はずっと勝ってきた。勝ち続けてきたと言ってもいい。


 味方なんていなかったし、周囲はみんなライバルだった。


 完膚なきまでに敗北させて僕の前から姿を消させる。それが勝負の世界ってもんだった。


 いつまでもゴールはない。


 僕の場合、海外で大学院をでたところで、なんか憑き物が落ちたみたいに我に返ったんだ。もっと上もあったんだけど、もうここでいいやって。


 でも、気づいたときには僕には何もなかった。


 あえて言うなら大学院の卒業証書くらい。


 友だちとの楽しい思い出も、あたたかい家庭も……。女子だって全く目に入ってなかった。


 海外では一方的に虐げられるようなことを言われることくらいしか覚えてない。それに、日本を出たのはまだ小学生の低学年だったから それまでのクラスメイトだって一人も名前を覚えてない。


 アインシュタイン倶楽部に入ってすぐの ほんの一瞬だけ何人かとあそんだ気がするけど、いよいよ名前も顔も全く覚えてない。すぐにライバルになったし、すぐに僕の前から消えていった。


「どうだ、俺のクラスは良いやつばかりだろ?」


 いつもの階段室の上から紫の煙が見える。多分、いつもみたいに寝ころんでタバコを吸っているのだろう。


「そうですね」


 悔しいけれど、国東先生が言うことに同意せざるを得ない。僕がこれまで見てきたどのクラスよりいい人ばかりだ。


「あれどうなんだ?」

「あれってなんですか?」

「ほら、天宮のハンバーグとたまご焼きは十分美味かったろ。もう、弁当が作れるんじゃないか?」


 そうだった。

 僕と天宮さんとの関係は「契約」だった。


 日向の大会の日に弁当を持って行って告白するんだっけ。よく考えたら僕たちの1年生でいられる時間もあとわずか。


 天宮さんの準備はできたってことか。


「まあ、テストもあるんだけど、お前は点数の心配とか要らんだろ」

「まあ……」


 僕と天宮さんの「契約」はギブ・アンド・テイク。


 日向を落とす弁当作りを僕は天宮さんに教え、僕は100点を取るための勉強を天宮さんが教えてくれる。彼女とは何度か図書室には行ったけど、ほとんど勉強とかしてなかったな……。


 僕は弁当作りの日々を思い出していた。


「色々ケリつけるには まずテストだろ? その結果が出るころに ちょうど日向のサッカーの試合が始まる」

「……」


 テストと被らないのは大会も生徒の本業である勉学のことを考えてくれているのだろうか。


「お前はどうすんの?」

「どうすんの……って?」


 ふーっと屋上で息を吐く音と、もう一度 紫の煙が上がるのが見えた。


「70点の男かってこと。あと、今からでも嘘ついたら弁当のクオリティは下がるかもだぞ?」


 そんなことするわけがない。


 僕は当初の通り、天宮さんを応援するんだ。


 相変わらず、日向はすごいやつだ。


 学園祭のときは準備段階からクラス全体をコントロールしていたし、トラブルもスマートに解消させていた。DQNだって、やつがあの場にいたら日向のほうが上手く対処できたはずだ。


 僕の場合は、結局あとで先生たちに注意されたし、僕は殴られてしばらくアザになっていたし。


 天宮さんほどの人だったら、日向のことが好きになるのも十分理解できる。


 そして、あの二人が付き合ったら絶対にうまくいくと思う。


 美男美女だし、二人が並んで立ったら絵になる気がする。


 そういえば、日向が言ってた「ずっと超えられない人」って天宮さんかもしれないと ふと気づいた。彼女は ほとんどいつも学年1位だったし。


 もしかしたら、学年1位を取ったら日向のほうから告白するようなことを考えているのかも。


 すごいぞ、僕。


 他人の言葉から気持ちを推測することができてる!


「おいおい。どうした、どうした。急にしゃがみこんで。ここは俺の特別な場所なんだから辛気臭いのを持ち込むなよ?」

「はーーーーー」


 僕は気づいてしまったんだ。


 日向も天宮さんが好き。


 天宮さんも日向が好き。


 二人は相思相愛。


 ハンバーグもたまご焼きも炊飯器も結局は必要なかったんだ。


 単なる小道具。


 物語の結末は最初から決まっていたんだ。


「おい! 飛び降りるなよ!? 怒られるのは俺なんだからな! おい! 返事しろ! 『振り』じゃないからな!? おいって!」


 僕の物語は最終局面を迎えることになるのだった。


■お知らせ

今日はエンディングまで一挙7話公開します!

次は7時公開です。

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