第24話:僕の変わったこと
僕が天宮さんのお見舞いに行った数日後、天宮さんはひょっこり登校した。
「おはおはー♪」
「あ、かれーん。おはおはー」
「もういいの?」
「体調悪かったんでしょー?」
朝、教室に入って挨拶をしただけでクラスメイト達から次々と声をかけられていた。まるでテレビドラマかアニメみたいな反応。でも、これが天宮華恋という人間だ。常に話題の中心だし、女の子たちのファッションの中心になっていた。
「ほら、天宮さん来たぜ! 御厨、お前も行こうぜ」
席に座っている後ろから駆け抜けていったのは坂本。僕の背中を1発叩いて行った。
そうなのだ、僕もあの学園祭の日以来、少しずつクラスメイト達に話しかけられるようになっていた。当然僕だって返していたし、ここ数日で僕の何年分もの会話をした。
別に僕が天宮さんの近くまで行く必要性はないと思っていたのだけど、日本の学校には「同調性」というものが求められていて、そこから外れた行動をとっている人間は「異物」だと判断される傾向にある。
僕が「普通」であるためには、その「同調性の流れ」に身を任せ、飲まれる必要があった。
社会の中で目立たずに「普通」でいることは難しい。
「出る杭は打たれる」し、悪い方に特化すると「悪目立ち」なんてまた目立つ。良すぎても悪すぎても良くないという難解なゲームなのだ。
今なら分かる。僕の「70点」というのは周囲のことがよく分かっていない僕が考えたにしては、なかなか悪くない作戦だったと思う。「ピタリ70点」にしたのはちょっと中二病だったかもしれないけど。
「ミック、おはよ」
天宮さんの席の近くに行くと、彼女が挨拶してくれた。
「おはよう、天宮さん」
先日、彼女のパジャマ姿を見たことを思い出し、少し恥ずかしくなった。
「なんだよ、照れちゃってるのーーー!? 初々しいなぁ!」
坂本が煽ってきた。なんだこの内側からこそばゆいみたいな感情は……。
僕の物語は「ボーイ・ミーツ・ガール」だったのか!?
「元気になったんだね」
元気になって輝いている天宮さんがまぶしくて僕は少し上目遣いになっていたかも。
「まね。プリンとか食べたし!」
「わかるー! 寝込んだらプリンとか、ゼリーとかやたら食いたくなるよな!」
「わかりみがすごい!」
周囲の人たちは天宮さんの話に乗っかって楽しげだった。
もう大丈夫だな、と思って僕は自分の席に戻った。
***
実はあの学園祭の後、僕にはもう一つ変化があった。弁当を教室で食べるようにしたのだ。
正確には、弁当を持って屋上に行こうとしていたら、クラスメイトに捕まったのだ。
「なあ、なあ。御厨、よかったら弁当一緒に食べようぜ。学園祭の日DQN達を撃退した話を聞かせてくれよ!」
こんな感じだった。
僕はちょっと、学園祭の後の昼間のことを思い出していた。
そうだった。僕は三人のDQNと戦って撃退したんだった。
ヒーロー的に祭り上げられているけど、実は過去に練習したことがたまたま役に立っただけだった。
「マジマジ!?」
坂本を含めて数人が集まってきたんだ。
「あ、俺も聞きたい!」
当然のように日向も。
10人くらいで机を近づけて、それぞれ弁当やパンを机の上に出していた。机は長方形に付けたわけでも、円形に付けたわけでもない。なんの規則性もない形で、来たい人が近づいてきただけ。
いつも通り一人で食べてる人もいる。
数学みたいに美しい形にならなくてもこれでいいんだ。これが「普通」なんだ。
「え、格闘技とかやってんの!?」
「いや、昔、ちょっと習って……」
文法とかもめちゃくちゃだ。これが会話。主語も述語も適当でいい。これが「普通」なんだ。
「どこで、どこで?」
「えっと……YouTubeで」
「「「YouTubeかー!」」」
笑いが起きた。別に決まった話の流れなんてなくていい。オチなんてなくていい。これが「普通」なんだ。
「ようつべでどうやるの?」
「あ、動画を見て、ひたすら、こうきたらこう! みたいに何回も練習して……」
「それだけで強くなれるなら才能だよー!」
まあ、僕の場合毎日が戦争だったから、襲ってくるクラスメイト相手に試してたんだけど。
「御厨、部活とかやらんの?」
「僕はダメだよ。あの後、全身痛くなって……。多分、必死だったんだと思う」
「そかそか。イケると思ったのになぁ」
「お前はカラリパヤット部の部員を増やしたいだけやろーが!」
「バレたー?」
「「「わはは」」」
カラリパヤットはたしか、インドの南部に伝わる伝統武術で、世界最古の武術の一つじゃなかっただろうか。めちゃくちゃマイナーな部があるな。一体、部員は何人なんだろう……。
「御厨、学園祭の日は保健室行ったんだろ! 笠嶋ちゃんに診てもらったー?」
「笠嶋!?」
「どった? お前でも保健の笠嶋ちゃん知ってるだろ? なんか若いし、かわいいし~! 俺、一度お願いしたい!」
どうやら、保健医の名前は「笠嶋」というらしかった。天宮家のメイドさんと呼ばれていた あのメイド服の人が「笠嶋」さんだったはず。
あの日、「隣のクラス」とか言ってたのに嘘だった。同級生って言ってたのも嘘だった。そういえば、やけに診断書とかの準備が早かったような……。あれで仕事はできるのか!?
あの人は……。どうにもあの人は苦手だ。
「なんか俺、あんな無表情な女がふいに笑顔になったり、照れたりするのにぐっとくるんだよ~!」
この名前も覚えてないクラスメイトの趣味は特殊だった。
「俺は桜井さん! あのゆるゆるふわふわなのを自分色に染めたい! まっしろな雪を真っ赤に染めるみたいに!」
それは事件現場では!?
「分かるー、桜井さん良いよなぁ」
「俺は結城さんが……。あの魔女に責められたい!」
「おい! 変態がここにおるぞ!」
僕は目の前の会話を追いかけるので精一杯だった。
「御厨はやっぱり、天宮さん?」
「いや、僕なんて……。ボッチだし」
「自分で言っちゃうー?」
「「「わはははは」」」
みんなの会話についていくだけで必死だけど、なんとなく楽しい気がした。
「じゃあ、日向はー?」
「俺は……昔から追いかけてるやつがいて、ずっと超えられなくて……」
「なになにー? 意味深な関係ー? 不倫ー?」
「ばーか、んなわけねーだろ!」
「「「わはははは」」」
僕も彼らの名前と顔を覚えたい。そしたら、もっと彼らのことが分かるし、彼らの考えも分かるかも。そんなことをみんなの輪の中で考えていた。
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