第18話:トラブルと火事場の馬鹿力
「理解できない人」ってのは世の中には一定数いるもんだ。
いかにも
ちなみに、DQNはネットスラングで「非常識で粗暴な人」ってところだろうか。でも、今はそんなことはどうでもいい。
メイド服を来ているのは天宮さんと猫耳を付けた佐藤さんだ。
「え? なん!? なん!? マジ!?」
「きゃーーーーーっ!」
DQNが一瞬、天宮さんと佐藤さんを見比べた。
「お前がアマミヤか!」
背格好などはほとんど同じだし、メイド服も同じなのにオーラなのか一目で天宮さんだと分かったみたい。
「なん!? ヤバっ!」
逃げる天宮さんより男のほうが足が速い。
先頭のDQNが天宮さんに掴みかかろうとした瞬間、男は地面に倒れた。
「おわっ!」
それも顔から。手で受け身を取れずに顔から地面に強打したのだ。あれは痛いだろうなぁ。
まあ、僕が後ろから追いかけて足を引っかけたのだけど。
「なんか、きさん!」
早速、DQN-Bが僕の胸ぐらを掴んだ。DQNの行動はある意味似ているから分かりやすい。
僕はDQN-Bの胸ぐらを掴んでいるほうの腕の肘に手を当てて、反対の手でDQN-Bの顎を横に払った。
「おわっ!」
DQN-Bは派手に転んだ。僕はほとんど力は使っていない。てこの原理だ。護身術ともいう。
「なにやっとるんじゃ! どこ中や、きさま!」
すかさずDQN-Cが殴りかかってきた。
単純なパンチは一歩後ろに飛べば回避できた。
すぐさま僕は両てのひらをDQN-Cのほうに向けた。
当然、DQN-Cは僕の手をよけて その外側から大ぶりのパンチをしてきたので、再度後ろにステップ。
「おら!」
「ぐふっ!」
しまった。前ばかり見てお腹に一発もらってしまった。
「おらあ!」
「ぎゃんっ」
今度は手が下がっていたので、普通に頬にストレートをもらった。
僕は慌てて相手に向けた手のひらを顔の高さに戻した。
さらにもう1発狙ったであろうDQN-Cは一歩前に出てストレートを向けてきたので僕は頭を出してこぶしを受けた。
(ゴッグ!)「いだっ!」
こぶしと頭だったら頭のほうが硬い。ゴギッて音もしたし、骨にヒビくらい入ったかもしれない。
ここでDQN-Aが復活して 僕を後ろから羽交い絞めにしてきた。腕は僕の2倍くらいあるだろうか。力もかなり強い。力比べでは逃げられなさそうだ。
僕は視線を下に向けてDQN-Aの足のつま先を思いっきり踏みつけた。
「痛ったっ!」
腕が離れたすきに股間を思いっきりザクッと蹴り上げた。
「ぎゃーーーーーっ!」
DQN-Aは思いっきり悲鳴を上げてうずくまった。こうなったら大体終わる。複数人いたら1人が鎮圧されたらそれで終わることが多いのだ。
「あ! お巡りさん! こっちです!」
ここで日向が廊下の方に大きく手を振って警察官を呼び寄せるようなジェスチャーをした。
「やべ!」
「逃げろ!」
「覚えてろよ!」
絵にかいたような三下のセリフと共に三人のDQNは逃げて行った。
「ミック! 大丈夫!? 口から血が出てる!」
天宮さんが駆け寄ってきた。少し涙ぐんでいるようにも見えた。
彼女はポケットからハンカチを出して僕の口角のあたりを拭いてくれた。血が出ているのだろう。頬が熱い。
「ありがとう。大丈夫です。それより、天宮さんは掴まれませんでしたか?」
「私なんか大丈夫やけん! ミックすごいね!」
「いえいえ、護身術です。必死だったんで……あれ……」
僕は「すとん」とその場に座り込んでしまった。立てない! 気が抜けたら力が抜けたらしい。
一応、昔から、体格が大きい相手と対峙することが多かったから、護身術は勉強してたんだ。それを襲ってくるクラスメイト相手に使ったこともある。
でも、今のは全く知らない人だし、完全に襲うつもりで襲ってきていた。
「それより警察は?」
全然 教室に入ってこないのだ。
「あ、ごめん。警察は呼んでない。とっさに……」
これまた日向の機転のおかげでDQN達は逃げて行ってくれたのか。あのまま続けてたら絶対僕の方がやられていた。
どうやら、日向のお芝居だったらしい。お芝居でも効果があったからよかった。
それにしても何だったんだ。他校の生徒だったみたいだし、天宮さんのことを知らないみたいだった。それなのに天宮さん狙いで襲ってきたみたいだったし。
「はーい! すいませんでしたー! お騒がせしましたー!」
日向が静まり返った教室の空気を変えた。
「俺は事情を職員室に報告に行く。天宮さん、御厨を保健室に連れて行ってもらえる?」
「分かった」
恐怖からか泣いていた天宮さんだったけど、日向に言われて必死に泣き止んで返事をした。この短時間で持ち直した。彼女の強さだと感じた。
続けて、他のメンバーにもてきぱきと日向は対処の役割を分担していく。
「他のみんなは引き続き店をよろしく!」
「「「りょーかー!」」」
すごい、あんなに大騒ぎだったのに、ものの数分で元通りの店になった。嵐のような忙しさからは少しトーンダウンしたけど、元々うちのクラスのキャパを超えるくらいのお客さんだったんだ。今くらいがちょうどいいのかもしれない。
「ミック、行こうか。立てる?」
「う、うん……」
僕はゆっくりと立ち上がる。
「おっと」
力が入らないというよりは、急に動いて足首を痛めていたらしく よろけてしまった。
「大丈夫? 肩貸すね?」
僕の脇に入って肩を貸してくれる天宮さん。
「ありがと。いてて……」
できるだけ体重をかけないように、それでいて転ばないように僕は天宮さんに介助されて保健室に向かうことにした。
「私も行こうか? いや、私が行こうか!」
僕たちの前に立ちはだかったのは天宮さん大好きな……佐藤さん、だっけ。
「大丈夫。私のこと助けてくれたけん、私が行ってくる」
「でも……」
食い下がる佐藤さん。僕のことを心配してくれているようにはあまり感じられない。佐藤さんの視線は常に天宮さんのほうだったから。
「いいけん! 結衣は教室で接客お願い」
「……分かった」
すごすごと引き下がるように教室に入っていく佐藤さん。何気なく振り向いたらまだこちらを見ていた。
「佐藤さん……天宮さんのこと大好きだね」
「まーね」
そう答えた天宮さんの表情は少し沈んでいるように見えた。
まさか、先日「絶対ないよね」って思っていた暴漢が乱入するイベントが起こるなんて……。そもそも誰だったんだよ、あの三人のDQN。知らないやつが突然襲ってくるとか意味が分からない。脈絡がなさすぎる。
僕の物語に作者がいるとしたら脈絡がなさすぎるとダメ出ししてやりたい。僕が編集者ならそいつの物語なんて ここで読むのをやめるところだ。
(んーんーんー)「あ、ごめん電話」
天宮さんのスマホが鳴った。
「いいよ、出て」
僕もだいぶ慣れてきて一人で歩けるほどに回復していた。
人は筋肉を動かすとき無意識にリミッターをセットして、それ以上の力を出せないようにしているという。それは自分の身体を自らの激しい動きで壊してしまわないため。
しかし、危機を感じるとそのリミッターを解除して通常以上の力が出せるという。それは「火事場の馬鹿力」とも呼ばれている……。いかにも中二病的な設定だ。そんなことあるのかな。
「え!? どういうこと!?」
天宮さんが電話の話を聞いて驚いたみたいだった。
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