第17話:学園祭はじまる
特に大きなトラブルなく僕たちは学園祭当日を迎えた。
多分、日向がいなかったらたくさんのトラブルとか、意見のぶつかり合いとかあったと思う。彼はぶつかりそうな意見を上手い具合に調整していく上に、誰も敵を作らない。
意見を変えられた人も 自分でも気づかずに進んで本来の自分の意見と違う行動をとっていた。僕はあんな人が社会に出たら成功するのだろうと漠然と思っていた。
『(こそっ)ミック、ぼんやりしとーやろ! あと10分で開店やけん、なんかあったら指示出してよ!』
「あ、はい」
そうなのだ。パン生地も届いている。朝から みんなでパンを焼いているので問題はない。たまご焼きもハンバーグもそれぞれ作り方をマスターした人が作っている。当然、材料も100人分ちゃんとある。
料理の作り方は分単位で工程を作ったので、同じ行動を繰り返すだけで問題なく次々できていく算段だ。
天宮さんと言えば、メイド服で接客担当になった。彼女の人気を考えれば当然だ。
しかし、開店前の仕込みには参加するみたいで朝からハンバーグとたまご焼き作りの一員となっている。ひらひらのフリルがたくさん付いたメイド服でハンバーグをひたすら焼く姿はとてもシュールな絵面になっている。
表は日向と天宮さんが仕切る。天宮さんは不器用でおっちょこちょいなところがあるから、裏では僕がサポートする形だ。そうは言っても、十分練習もしていたし、僕は ぼんやり天宮さんを見ているのが仕事になりそうだった。
ただ、今日は忙しくなるのは分かっていた。
それというのも、看板のキャッチコピーに「学校で一番のスーパーギャルが焼くハンバーグサンドと たまごサンドが食べられる店」みたいに描いてしまっているのだ。そのキャッチコピーの後ろにはクラスの数人の女子のコスプレ姿の写真がデカデカとあるし、数日前にA3サイズのこのポスターを廊下などに貼ったら すぐになくなるという事件も起きたほどだった。
多分……いや、この店のサンド100食はすぐになくなると思う。
「みんな! 開店5分前になった! 色々忙しいと思うけど、開店前にみんなで円陣組んで気合い入れよう!」
あと数分で10時のオープンの時間。日向がみんなを集めた。効率を考えたら、時間ギリギリまで準備に取り掛かったほうが良いのだろうけど、こういうところがみんなに好かれるところなのだろう。
「いーね!」
「なんかエモい」
「なんか青春 感じちゃってるぜ、俺!」
みんななんとかかんとか言いながら集まってきた。
僕は教室の端っこのほうで目立たないようにしていたのだけど、天宮さんに腕を引かれて円陣に加わることになってしまった。横には天宮さん。その表情は喜々としていて、単純に美しいと思ってしまった。
「(こそっ)ミック、よろしくね」
円陣のために彼女の腕が僕の肩に載っている。そして、僕の腕も彼女の背中に触れている。変な感じだ。実に変な感じだ。
僕は周囲に気づかれないように無言でコクリと頷いた。
「じゃあ、チーム・コンカフェ。100食売り切りましょう!」
「「「おう!」」」
日向の掛け声でみんなの心が1つになった。僕も見てるだけとはいえ、なんとなくそこの一員になった気がして くすぐったい気持ちになった。
(キーンコーンカーンコーン)
10時のチャイムが鳴った。学園祭のスタートの合図だ。校外からも来客を招くのでかなりの人数が学校内に流入する。
(ドドドドドドドドド)
どこかから地響きのような音が聞こえてきた。
「なんだ!? 地震か!? 地割れか!? 土砂崩れか!?」
冗談抜きでそれくらいの音だった。
(バーーーン!)
「天宮さんのハンバーグサンドとたまごサンドくれーーー!」
「こっちも!」
「俺もーーー!」
予想外に天宮さん狙いの男子生徒がダッシュでサンドを買いに来たらしい。カフェもなにもあったもんじゃない。
「こちらの席にどうぞー♪」
メイド姿の天宮さんをはじめ、魔女の子、ゾンビナースの子、猫娘の子などが接客を始めた。天宮さん以外の女子の名前は……魔女の子が結城さんだったか。いつも天宮さんと一緒だから段々覚えてきた。ゾンビナースが桜井さん、いつもゆるふわの子。猫娘はノリがいい佐藤さんだったかな。メイド服なのか、猫娘なのか……。
「おかえりなさいませ、ご主人様♪」
「「「おーーーーー!」」」
天宮さんの笑顔とお決まりのセリフで男子生徒大興奮。
「美味しくなる魔法は魔女の私にお任せあれー!」
結城さんは天宮さんと一番仲が良い子。ノリもいいみたいだ。
「ゾンビナースがきたぞー!」
結城さんはゾンビ化したナースっぽいのだけど、しゃべりがゆっくりだし、声もゆるふわ系だ。全然怖くない。
「にゃー!」
佐藤さんは猫娘なのだけど、「にゃー」しか言わなくて接客は成り立つのだろうか!?
教室は開始10秒で満席となり、みんなコスプレした女子たちをバシャバシャ写真を撮っていく。
「この辺り、大丈夫なのだろうか……。SNSとか……」
つい無意識で僕はつぶやいていた。
『(こそっ)みんなメイクしとーけん。個人の特定は難しいはずよ』
律儀に天宮さんがワイヤレスイヤホンで答えてくれた。急に彼女の声が耳に届いて僕の方がテンパってしまった。
ちなみに、僕はサクラとして、客席に座っていたのだけど、そんなサクラなんて必要ないほどの客の入りだった。
「コーヒー! サイフォンのやつサイフォンの!」
「こっちも!」
「指名ってできるの!?」
サイフォンのコーヒーは客にコーヒーミルを渡して自分で豆を挽いてもらう。その後、目の前で店員がコーヒーを淹れる。
コーヒーが準備できるまでの約10分間 店員は客の前でつきっきりになるので、ゆっくりコスプレ衣装を見ることができるというものだ。なんなら話もできる。
まあ、僕にはできないけど。
慌ただしいけれど、順調なスタートだと思った。急遽、後ろにひっこめていた机とイスを持ってきて席を増やしたくらいだ。教室の外には行列ができている。
「すごいな」
僕は席を空けて、教室の外に出て少し離れて混雑を見ていた。「最後尾」と書かれた立て看板を持って列の最後を無言で案内することくらいはした。
「やばい! ハンバーグサンドがなくなった!」
教室内から聞こえてきた。開始30分のことだった。天宮さんの人気を甘く見ていたところがあったかもしれない。いくらなんでも開始30分でハンバーグサンド50個が完売になるとは思っていなかった。
「たまごサンドも完売!」
教室の中は大変みたいだ。
『ミック、どうしよう。メインの商品がもう売り切れた!』
コーヒーはまだまだあるはず。しかし、それだけではこの人気に応えきれない。
「パン屋に電話して生地を追加してもらおうか。焼いたパンもあったら追加で持ってきてもらのがいいかな」
『分かった。電話してみる』
天宮さんからの相談ごとだった。日向も接客で いっぱいいっぱいみたいでさすがに全体の調整が取れてない。日向は日向で女子生徒たちに囲まれていた。彼の執事服がめちゃくちゃ似合っているからだろう。
「いいよ。こっちで電話してみるから」
『ありがと、任せたけん』
僕がスマホであのパン屋に電話をかけた。
(ガチャ)「はい、こちらあなたのパン屋『風と月』です」
「あ、すいません。今日生地を収めてもらった者ですが、追加で生地を納入ってできますか?」
『大丈夫ですよ。他でたまたまブリオッシュ生地の注文があったんで大量に作ってて。先にそちらに収めることもできますよ』
これはラッキーだった。
「じゃあ、お願いします」
『どのくらい必要ですか?』
「それが、大人気で……」
『それは良かったですね。私も嬉しいです』
(ドンッ!)ここで僕は後ろから来た人にぶつかられてしまった。
「メイドはどこだー!」
見るからに
天宮さんが危ない!
すぐ目の前に坂本がいた。
「ご、ごめん。電話で追加の生地を頼んでおいてください!」
「はぁ!?」
スマホを坂本の胸にドンと渡した。突然言われて驚く坂本。そりゃそうだ。
パン100枚分だから…。2キロだったな。前回と同じだ。
「100枚分で2キロです! 電話あとお願いします!」
「わ、分かった! 任せろ!」
注文は坂本に任せて僕は急いで教室に入った。
見た目も制服を着崩してる。言葉も乱暴。店の列にも並ばない。ついでに「メイドはどこだー」って教室に突っ込んで行った。
メイド服は天宮さんだけじゃないけど、天宮さんも危ないのは間違いない!
僕は後先考えずに教室の後ろのドアから飛び込んだ。
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お陰様でカクヨムコン11のラブコメ部門で100位を獲得できました!
通常のランキングでも、ジャンル日間38位、週間54位になりました!
本音で言うとランキングの順位より、ここに載ってないとアクセスしてもらえないという切実な理由がありました。
今日も頑張って行きます!
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