第14話:学園祭とハンバーグとたまごサンドと

「おーし、お前ら席につけ! 今からホームルームをやっぞ! 早く決めたら自習時間だ。すぐに決めろ! あとは司会に任せる。日向たのむ」


 ロングホームルームの議題は黒板に書かれているみたいに「学園祭」らしい。日向はクラス委員でもあるので、みんなのまとめ役として教壇でみんなの意見を聞いて出し物を決めるらしい。


 多分、早く決まったら国東先生は屋上でタバコを吸うんだろうし、決まらなかったら「俺は席を外すわ」とか言って屋上でタバコを吸うんだろう。


 教室の前のほうで職員用の椅子にドスンと座って顔に教科書を広げて載せ、腕を組んで寝ているような姿勢になってしまった。多分、本当に寝てるんだろうな……。


「じゃあ、司会を任されたので司会をやるけど、黒板を書く書記を誰かに頼みたい。誰か頼めないか?」


 クラスのほとんどのやつが一斉に明後日の方向を向いた。日本の「学校あるある」じゃないだろうか。


「じゃあ、はい!」


 背筋がまっすぐでその延長上に伸びた右手の主は天宮華恋さんだった。

 なるほど、憧れのやつのすぐ横で共同作業をすることで好感度を引き出し告白オーケーの確率を上げる作戦か。完璧だ。リア充はみんなの前でも意見をズバズバいえるし、日向と天宮さんなら司会進行に最適な人選ともいえる。


「じゃあ、意見がある人は手をあげて言ってください。手が上がらない場合はレディーファーストで……坂本からね」

「俺、女子じゃねーしっ!」

「「「わははははは」」」


 うまい! 先に教室を温めることで意見を出しやすくしたのか。坂本はクラスのお調子者だ。日向が少々いじっても笑いに変える力があるやつ。教室中が笑いに包まれた。


 日向って学校の成績がいいだけじゃなくて、人をコントロールする能力にも長けている。僕の周りにはこんなのばっかりだと思うってことは、僕は相当他人のことが分かってないってことでもあるな。


 こんな場では僕は存在をできるだけ消して、空気と同等になり、なにも意見を言わず、そのために当てられないようにしているようにしている。


 これが意外と難しい。黒板のほうを見ていたら、興味があるように見えるし。明後日の方向を見ていたら、興味がないと思われて逆に当てられてしまう。僕の最適解は2つくらい前の人の背中を見たり、意見を出している人のほうを首を5度くらい動かして「聞いてますよ」みたいなリアクションをすることだった。


「はい!」

「はい。じゃあ、佐藤さん」


 天宮さんの取り巻きの一人、天宮さん大好きな子が手をあげた。さすがリア充。僕にはこんな場で発表とかとてもできないのですごいと思った。


「天宮さんのかわいさを最大限に活かしたコンカフェが良いと思いまーす! 天宮さんはメイドさんでー」

「ちょ! やめてよー」


わははは、とクラスメイト達も笑っている。笑っているけど、それはいいアイデアだと賛成色が強いように見えた。あの佐藤さんとかいう子、本当に天宮さん大好きだなぁ……。


 さてと、クラスの出し物はなんだろう。しばらくどこでもないところに視線を送って時間をつぶしていたけど、出し物には興味がある。


 当然、僕は空気のように参加せず傍観するつもりだけど、「展示」になると何か作らないといけなくなる。それはそれで面倒なのだ。


 —

 コンカフェ

 純喫茶

 お化け屋敷

 ミスコン

 映えスポット

 手芸品の展示

 盆栽の展示

 —


 色々出たな。


 天宮さんのきれいな字で黒板は埋められていった。字がうまい人って印象が良いのはなぜだろう。ギャル文字じゃなくて、習字のお手本みたいなきれいな字だった。


 コンカフェはメイドカフェとか、妹カフェとかコスプレカフェの総称だったな。


 お化け屋敷とか定番だけど、準備が大変そうだ。


 ミスコンは今どきコンプラ的にどうなんだろう。


 映えスポットってのは新しいな。その名の通り、写真を撮るのに映える小物を置く部屋なのだろう。


 手芸品の展示はたしかクラスに手芸部が何人かいるはずだからその人たちが自分たちの作品を披露したいのだろう。


 盆栽の展示は「盆栽部」なんてないから誰かの趣味なのかもしれない。


 ……要するに、みんな好き放題って何かを目指している訳じゃないってことだな。こういうときっていよいよ意見がまとまらないんだ。どれかに決めるとその対局みたいな意見を出した人ともめる。


 ただひたすらに時間を浪費して、最終的に決まらないって最悪パターンが想像できた。


 さてさて、日向のお手並み拝見といこうか。僕は密かに高みの見物を決め込んだ。


「じゃあ、それぞれの案を出してくれた人の意見も聞いたし、コーヒーにこだわってる人もいたし、お化け屋敷のお化けメイクに興味がある人の意見も面白かった。ミスコンも悪くないし、映えスポットは最近のSNSを考えたら良いアイデアだと思う。手芸部の手芸品を中心に展示できたらクオリティが高いものになりそうだし、盆栽も僕はこれまで触れてこなかったから興味はある」


 日向、それじゃみんなに良い顔して最終的に自分が困るんじゃないか? そんなことを思っていたのだけど、日向はやっぱり僕の想像の上を行った。


「じゃあ、これら全部やろう!」

「「「は!?」」」


 クラス中が全員あっけにとられた。


「ベースはコンカフェで担当のグループを作るんだ。『純喫茶』班は家からこだわりのコーヒーセットを持ってきてもらって、コーヒー担当。『映えすポット』は現実的に可能なモニュメントをいくつか作って教室内に展示。集客に使う。手芸部は自分たちの作品を教室の後ろに展示するのとコンカフェの衣装作りとかも手伝って。盆栽は自前の盆栽を持ってきてもらって展示。手芸部同様他も手伝ってね」


 一気にまくし立てた日向だったけど、多くの生徒が思った。「それならできそう」と。


「それでコンカフェだけど、メニューは1つか2つに絞ったらできると思うんだ。予算の範囲内で衣装をレンタルかドンキの安いコスプレ衣装とか使って。誰か簡単にできて美味しいメニュー知らないかな?」


 これまた現実的だ。衣装作りから始めたら文化祭のある1か月後までに間に合わないかもしれない。カフェならいくばくか利益も出る。学校からの予算も多少はあるだろう。そこまで考えたら、衣装を買ったり、レンタルしても投資として十分のバックがあると期待できる。


「はい、はーい! 私、たまご焼き作れるー♪」


 元気よく意見を出したのはチョークを持った天宮さん。そりゃあ、そうだろう。このところ、うちでも自分の家でもたまご焼きとハンバーグを焼く練習ばかりしていたのだから。


「いいな! それ、美味しそう!」


 日向があっさりその意見を採用した。


「天宮さんのたまご焼きとかめちゃくちゃ食べたい!」

「俺テンション上がってきた!」

「俺は課金したい! お金を払わせてください!」


 あー……、既にクラスメイト達だけで商売として成り立ってるよ……。そりゃあ、そんなお店を出したら繁盛するだろうなぁ。今から成功が想像できる。


「たまご焼きだけだとカフェと合いにくいから『たまごサンド』にするのはどうだろう?」

「「「さんせー!」」」


 ここで沈黙していた国東先生が口を開いた。


「たまごサンドだけじゃ少し物足りないから、ハンバーグを挟んだハンバーグサンドもあったらいいんじゃないか?」

「「「さんせー!」」」


 たまご焼きにハンバーグ? 僕はどこかでその組み合わせを目にした気がした。


「あ、私 ハンバーグも作れるよ!」


 ここで再び天宮さんが手をあげて声高らかに宣言した。


「やったー!」

「俺 絶対食べる! 買う! 課金する!」

「天宮さんのハンバーグが食べられる日が来るとは!」


 さらに盛り上がってしまった。


 みんなから出た意見をより現実的なものに昇華させた日向。やつは本物だった。相当頭の回転が速いうえに、みんなの心もしっかりつかんでいる。やる気がなかったホームルーム当初のクラスの雰囲気とはまるで違う状態になっていた。


 僕は当日どうやって姿を消そうか考えていた時だった。


「じゃあ、食材の調達は御厨頼むよ。僕も一緒に行くから商店街で安く仕入れられるように顔をつないでよ」

「え?」


 やられた。日向は僕と家が近い。僕がよく商店街に行くことを知っている。当日僕が何もしないこともよく知っているので、準備の時に十分働かせようって魂胆か。


「できれば、パンとかたまご焼きを焼くホットプレートとか機材も貸してもらえたら助かるんだけど、心当たりある?」


 ちくしょう。あるんだ。商店街には中古の厨房機器を扱う店もある。話をしたらレンタルもしてくれるはずだ。たしか、あそこの主人はうちの高校出身だって言ってたことがあったから、日向が行ったらタダで貸してもらえる可能性だってある。


「じゃあ、私もいこーっと」


 天宮さんまで乗っかってしまった。これで僕は断れない。策士だ。策士がここにいる。孔明なのか!? 日向はなにを狙っているんだよ。


 あーーーー! そういえば、この間 屋上で国東先生が「天宮のハンバーグが食べたい」って言ってた! しかも、天宮さんのハンバーグの話をしているときに「頭脳勝負をしよう」とか言ってた! まさかこれか!?


 国東先生のほうを見たら、椅子にドカリと座って、顔に教科書を広げて載せている隙間から、僕のほうをこれでもかってくらいのドヤ顔で見ていた。


 やられた……。僕の物語は「頭脳バトル」だったのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る