第13話:僕が海外から帰国するまで

 僕が海外で学校に通っているとき、自分の頭のレベルに合わせるとクラスメイトは必然的に年上ばかりになって行った。一番ひどかったのは、海外に移住したころで僕が7歳の時にクラスメイトが15歳だったころ。


 そこから僕は成績を伸ばしてさらに飛び級で進級していった。


 クラスメイトが20歳を超えた頃から僕への対応が変わってきた。これは僕の変化ではなく、周囲のクラスメイト達の心の発達が理由だと思われる。


 周囲は大学生ばかりで20歳前後の人ばかり。そんな中、僕はまだ10歳だったから「ライバル」というよりは「マスコット」的に捉えていた人も多かったかもしれない。このときも全教科成績は1番だったから一部の人には嫌われていたトラブルは無くならなかったけど。


 そんなとき、僕の家には大きな転機を迎えることになる。


 父さんが事業で失敗して大きな借金を抱えることになった。大人の都合で両親は離婚して、僕は母さんと暮らすことになった。元々、父さんと母さんは僕の教育方針や将来について意見が合わずケンカが多かった。


 それから何年かして、僕は奨学金をもらいながら大学院を卒業した。大学の研究で得た特許をいくつか権利放棄することで学費と僕と母さんの生活費を捻出して卒業できた。


 そこから上に行く道もあったけど、一区切りついて僕たちは帰国することにした。あまり良い思い出はなかったけど、やっぱり生まれた国が過ごしやすい。マックとかポテトは「L」より上3の「バスケット」とかあるし、ハンバーガーは種類が少なくて基本的にハンバーガー、チーズバーガー、ベーコンのバーガーくらいしかなくて食べ飽きる。その分、ソースが多い気がするけど。


 帰国して母さんが訊いたんだ。「悠、日本で何がしたい?」って。


 僕は、考えた。そして、答えたんだ。


「学校に行きたい。普通の学校に……。今度は普通の生徒……いや、目立たない生徒として」


 それを聞いて、母さんは色々なツテをたどって母さんの母校である高校に入れてもらえることになった。国東先生がここで先生をしていることももしかしたら、偶然ではなく、必然なのかしれない。


 僕はそこから色々練習して、普通の高校生活が送れるように訓練を受けた。


 そして、僕が今ここにいる。それが、高校1年生、16歳の現在だ。これだけ闇を抱えた人間も少ないだろう。僕の物語はやはり「人間ドラマ」に違いない。でも、自分語りでこんな重要なことを話しちゃうくらいだから、僕が小説家やマンガ家になったとしたら、さぞつまらない物語になるだろうなぁ。この辺りは最後にどんでん返しで出てきてもいい内容だと思う。僕には作家の才能もないらしい。


 僕は回想を終えて、階段室の屋根の上の恩師に簡単に僕のこれまでを話した。


「俺からしたら『ギフテッド』とか中二病みたいでかっこいいから憧れるけどな」


 ギフテッドはIQが高いけれど、なんでもできるオールマイティな天才という訳ではない。テストの点は毎回100点取れるほど良いのだけど、僕の場合は他人の考えが分からない。だから友達を作るとすぐにボロが出て「変なやつ」とレッテルをはられる。


 僕は目立たないことに特化し始めた。友達からも話しかけられない。テストの点も良くもなく、悪くもない70点を取ることにしたのだ。


「僕はIQよりももう少しEQが欲しかったよ」


 EQはEmotional Intelligence Quotientの略で、心の知能指数を指す言葉だ。自分や他者の感情を識別・理解・管理し、適切に利用する能力のことをいう。


「そんで、その高IQ様は何に悩んでるんだ?」


 僕は国東先生のこういうところが嫌いだ。僕が悩んでいることを口にしていないのにしっかり把握しているからだ。


「別に……」


「お、スーパーギャルのことだったか」


 ほら。否定してるのに図星なんだ。僕にはこの能力がないんだ。


 彼は階段室の屋根の上でスナフキンのように寝そべってるだけ。僕の顔すら見ていないのだ。表情から読み取ったりできないはずなのに、声色からなのか、なんなのか、僕の心の中をズバリ当ててくる。


「スマホ……」


「ああ、最近 天宮は誰かと積極的にメッセージのやり取りしてるなぁ。なんだ、やきもちか」


 やきもち……? 僕が天宮さんに? この気持ちはやきもちなのか!? やきもちって嫉妬!?


 彼女はクラスの……いや、学校のアイドル的存在。成績はほぼトップ。それでいて僕みたいに敵はいない。周囲は仲間ばかり。笑顔を絶やさなくて、好きなギャルファッションを突き通していて、好きな男に気に入られれようと弁当を作ろうと頑張っている健気さもある。


 方や学校でで一番人気のギャルの天宮さん、方や一番目立たない陰キャボッチの僕。たしかに僕は彼女に嫉妬心を抱いているのかもしれない。僕はあんな風な学校生活を送りたかったのか。どうにもならない現状から考えればすべてを持っている彼女がうらやましいと言えばうらやましい。


 そうか、そうだったのか。理解ができて僕の心は少し落ち着いた。


「来月は学園祭も始まるし、また面白くなるな。期待してるぜ、ギフテッド♪」

 嫌な言い方をされて僕は少し複雑な気分で教室に戻った。


 ***


「だってよ。大丈夫、あいつはなーんも覚えてないよ。あいつは興味があること以外、一切頭に残らないから」


 御厨悠が立ち去った後、学校の屋上では階段室の上にはいつもの住人のほかにもう一人客がいるのだった。


「うるさいなー。いーとって。それよかタバコ臭い!」


 そこにいたのはくだんのスーパーギャル天宮華恋だった。


「大人の男の匂いだと思ってくれ。今どきタバコが吸える場所がどんどんなくなってて……。結構な高額納税者だと思うぞ?」


「うっさい」


 天宮華恋は既に階段室の屋根から降りようとしていた。


「んで、誰とメッセージのやり取りしてるんだ?」

「ん? 志乃さん」


 タッと屋上に飛び降りた天宮華恋は振り返り何でもないことのように答えた。


「志乃さん……? おい! 悠の母親じゃねーか!」


 国東は慌てて階段室の屋根から顔を出して天宮華恋のほうを見た。


「この間、ミックの家に行ったときアカ交換した」


 天宮華恋は自分のスマホを手に持って振りながら笑顔で答えた。


「俺だってアカウント知らないのに! おい! 教えてくれ! 志乃さんのアカウント!」

「じゃあ、次のホームルームお願い♪」


 謎の言葉を後にして天宮華恋は教室に駆け戻って行ったのだった。



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