第12話:屋上の経過報告

「で、最近どうなん?」


 いつも通り、僕は屋上で一人弁当を食べている。天宮さんの失敗作のハンバーグとたまご焼きがメインの弁当だ。


 これまたいつも通り適当な段差に座って食べているのだけど、階段室の屋上からの声に「またか」と思ったところだ。


「国東先生、昼休みはテストの採点とかしなくていいんですか?」

「タバコ吸いはな、食後のタバコまでがセットで食事なんだよ」


 知らんがな。未成年にタバコの話をされても……。


 食事を素早く終えた生徒たちはグラウンドでバスケとかをして遊んでいる。その喧騒はこの屋上までは届かない。


「なんか いーもん食ってんじゃねーか」


 なんだろう。国東先生は屋上のさらに上、階段室の屋根の上で寝そべってタバコを吸っているはず。どこで僕の弁当の内容を見ているのか。


「クラスの人気者、スーパーギャルのお手製の弁当とか、そこら辺のやつが知ったら嫉妬で悶え死ぬぞ」

「そんなんじゃないです。失敗作の消費ですよ」


 僕のレシピなのだから、味は大体想像がつく。失敗作とはいえ、普通のハンバーグ、普通のたまご焼きより美味しいし、弁当用のレシピだから冷えても美味しさは損なわれにくい。


「その青春ザツワチャドゥをおっさんにも恵んでくれよ」


 だから、その「青春ザツワチャドゥ」ってなんなのさ!


「味の確認も兼ねているのでお断りします」

「実際、どうなの? 天宮の料理は」


 全然抵抗せず試食の話をスルーしたことから、先生は本気で食べたかったわけじゃないらしい。あ、僕を揶揄ったのか。やっぱり僕は察しが悪い。


「僕のレシピだし、現状でもそこらの店のハンバーグとか たまご焼きに負けないレベルで美味しいですよ」

「お前のレシピ!? あの科学でバチバチに理詰めの料理!?」


 失礼だな。他人の料理を「理詰めの料理」とか……。まあ、否定はできないけど。


「天宮が作ったお前のレシピの料理を今度おにいさんにも食べさせてくれよ」

「そんな未来は永遠に来ません」


 なぜだろう。僕は天宮さんの料理を他の人に食べてほしくないと思っている。


「またお前んちに行くから~」

「お断りします」


 あの空間も僕と天宮さんだけの物にしたいと思ってる自分がいた。


「まあ、良いか。じゃあ、俺と頭脳勝負しよう。アインシュタインクラブの元エースの力 見せてくれよ」

「やめてください。そんなの小学生の頃の話じゃないですか」

「その頃はまだ楽しかったんだろ? 友達もいたし」


 僕は随分 昔のことを思い出していた。それもあまりいい思い出じゃない。


 生まれてから3歳までに僕はひらがな、カタカナ、漢字の一部を書けるようになっていた。遊びで暗算も得意だったし、母さんが準備してくれた問題集も楽しんで解いていた。


 幼稚園に上がるころには中学生レベルの計算問題はほぼ解けるようになっていて、高校の問題集をせびったのを覚えている。


 あるとき、知能テストみたいなのを受けることがあった。僕のIQは160と判断された。IQ130以上は「ギフテッド(神からの贈り物?)」と呼ばれ、人口の上位2パーセントと言われている。これなら50人に一人なので、2クラスに1人くらいはいる計算になるので それほどすごいということはない。まあ、すごいけど。


 僕の場合は、IQ160という判定が出たので、これは人口の約0.003パーセント。つまり、3万人に一人という計算になる。


 でも、日本人の平均IQは112くらいと言われていて、世界ランキング1位だ。そう考えたら、いわゆる「天才」は日本ではそこかしこにいるのかもしれない。


 それでも、僕のIQに両親は大喜びして 僕を特別な会に入れた。それが地元の高IQの人たちだけが入会できる「アインシュタイン俱楽部」だった。メンサなどが有名だけど、アインシュタイン俱楽部は県の団体だった。近くに住んでいる人が多いので実際に会えるメリットがあった。


 巷の噂では「IQが20違うと会話が成立しない」なんて言われているけど、僕は幼稚園では周囲の子どもと全然話が合わなかった。騒ぐし、暴れるし、汚すし、乱暴だし。彼らは全然 論理的な会話や行動をしないのだ。


 アインシュタイン俱楽部には大人が多くて ビジネスの話などが多かったけど、子どもも男女含めて数人はいた。最初は仲良くできていたのだけど、段々 競争というか張り合うことが多くなり、いわゆるマウント合戦になっていったから僕の興味はどんどん会から離れて行ったんだ。


 世間一般かどうかは知らないけど「ギフテッド」なんて言われたらすごく頭がよくて良いことばかりだと思われがちだ。でも、物覚えが良かったり、数学の問題を解ける代わりに、僕は他人の気持ちが分からない。人が何を考え、どう感じるのか分からないみたいだ。これはどうでもいいことのように思えるかもしれないけれど、他人とかかわらずには生きていけないのだから、必ずどこかで痛い目を見るんだ。


 その最初が小学校だった。


 当然と言えば当然なのかもしれないけど、僕はいじめられた。成績は1番だし、運動もできる。でも、他人とのコミュニケーションが絶望的にゴミクズだった。両親はちょくちょく学校に来たり、呼び出されたりしていたみたいだった。


 僕も学校が嫌になっていたころ、僕のIQの高さに頭がお花畑になった両親が海外に移住すると言い始めた。海外では高IQの特別な学校があるとか、飛び級制度があるとか、色々なことを言っていたけど、僕は興味がなかったのであまり覚えてない。


 海外ではたしかに飛び級制度があり、試験を合格したら能力に合わせた学年のクラスに入ることができた。僕は日本でいう中学生からのスタートだったけど、このとき僕はまだ7歳、クラスメイトは15歳。


 それなのに、成績は僕が一番で面白くないと感じた生徒たちの格好のいじめの対象になった。僕は運動もそこそこできたけど、小1と中3では身体の仕上がり具合が全然違う。見上げるような背の高さの連中とケンカになっても勝てることなどなかった。僕は益々周囲とのかかわりに臆病になって行った。


 僕の対策としては、更に難しいテストに合格して更に上のクラスに行くこと。このころから僕は勉強に集中した。上のクラスの問題を手に入れて解き始めた。クラスメイトが追いつけないくらい飛び級で上に行けばいいと思っていたのだ。


「お前が海外に行った時は期待半分、俺が良いバイトを失ったという残念な気持ち半分だったけど、まさか あんなことになるとはな……」


 ふいに僕の思考は学校の屋上に戻ってきた。国東先生が言うように僕の海外生活は順風満帆じゅんぷうまんぱんとは言いがたかった。まあ、「勉強のやり方」みたいなものは、屋根の上の国東先生が当時アルバイトとして僕の家庭教師をしてくれていたからマスターしていたと言っていいだろう。ある意味、恩師で彼がいなかったら僕はまた違った人生を歩んでいたのかもしれない。


「家庭内のことだし、実のところ俺もあんまり詳しく知らないんだけど、海外でお前に何があったんだ?」


 国東先生の言葉で僕はまた嫌な記憶を思い出していた。


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