第10話:初対面と たまご焼きパーティー
「あらー? 見慣れない靴があるー。悠、お友達ー?」
声の主は母さんだ。
「誰!?」
「あ、母さんです」
天宮さんの問いに僕は普通に答えた。隠す必要すらないのだから。
「そう言って、年下のギャルが出てきたりしてー」
「あら、いらっしゃい……んまーーーっ! 女の子!? まあまあ、よく来たわねーーーっ!」
「なになになになにーーー!」
何のひねりもないけど、普通に母さんが帰ってきた。そして、天宮さんを見ると絶叫しながら抱き着いた。
困惑する天宮さん。 僕は何を見せられているのだろう。
***
「改めまして、悠の母の
畳で土下座のようなお辞儀で頭を下げる母さん。
「ミック……じゃなかった。御厨くんのクラスメイトでギャルをやっている天宮でございます」
そんな自己紹介があるのか!? ギャルを職業みたいに紹介した!?
天宮さんも母さんのノリに飲まれて畳に正座で頭を下げている。こっちも土下座みたいで僕はどうしたらいいんだろう。
実母とクラスメイトのギャルの土下座(?)を見せられる日が来るとは……。
「それで今日は……結婚の報告よね。分かりました。許可します!」
顔を上げたら開口一番 母さんが言った。しかも、真顔で。冗談に聞こえないんだが……。
「きゃー、ありがとうございます!」
ぶりっ子のポーズみたいにして、身をくねくねと
「天宮さん! 母さんのノリに乗っからないで!」
慌てて止める僕。他人の気持ちが分からない僕に笑いのセンスなんてないのに、気づけば、いつの間にかツッコミ役に起用されていた。
「母さん、冗談はやめてよ。天宮さんに失礼だろ。それに、この部屋の様子を見たら分かるだろう」
僕と天宮さんで、天宮さんでも かっこよく作れる たまご焼きを試作していたので、色々な たまご焼きがそこかしこに置かれている。
「ああ、たまご焼きパーティーだったのね。それは失礼したわね」
「ちょっと待った! その『たまご焼きパーティー』ってなんだよ! そんな珍妙な集会開いてないから!」
たこ焼きパーティーなら まだしも、たまご焼きパーティーって……。
「じゃあ、なんのパーティーなの?」
「パーティーから離れて!」
そういう思考なのか、僕には全く理解できない。
「天宮さん、そこで恥じらいの表情を浮かべないで!」
変な誤解を生むわ!
「お義母様が許可をしてくださらなかったら、私は悠くんと駆け落ちします!」
突然、突拍子もないボケをねじ込む天宮さん。
「ぐぬぬ……しょうがないわね。それなら私と同居を条件に許可しましょう。毎日、御厨家の嫁としての心得を叩きこんであげるわ!」
「母さん、それめっちゃ嫁いびりする気 満々のやつじゃないか! 天宮さんもさらにお笑いを重ねないで!」
できの悪いコントみたいにしばらく僕はツッコミ役をやらされているのだった。二人とも笑っているのだから、冗談でやっていることに僕が気付いたのはずいぶん後のほうだった。
いっぱい騒いでいっぱい突っ込んでしまった……。疲れて肩で息をしているし、喉だって枯れた。
「それで、今日の我が家のご飯は たまご焼きだけなの?」
キッチンやテーブルに所狭しと置かれた たまご焼きを見ながら母さんが僕に訊いた。
たしかに、天宮さんが作れる たまご焼きを試行錯誤していたから、そのあとのことまで考えてなかった。
「えっと、我が家の夕飯と僕の明日の弁当のおかずということで……」
言ってるそばから それくらいでは収まらないくらいの量のたまご焼きがあった。僕は嘘をつくセンスもないなと、誰かに言われる前にすでに自覚した。
「あの、私も持って帰ったりしますので……あ、材料費はちゃんとお支払いしますので!」
天宮さんが本当に慌てるみたいに答えていた。あれ? 天宮さん母さんの前だと博多弁が出ない。そういえば、商店街でも博多弁はなりを潜めていた。もしかしたら、年上の人がいたら博多弁が出ない……? 僕の思考はどうでもいい方に逃避気味だった。
「いーの、いーの。私もたまご焼き大好きだから。悠がお友達を連れてくるなんて これまで一度もなかったから……。それがこんな かわいい女の子なんて……」
そう言って、母さんがおもむろに近くにあった たまご焼きを1つつまんで食べた。
「あら美味しい。で、いつお嫁にくるのかしら?」
「よろしいんですか? 私で」
「母さん! コントがループしてるから! 天宮さんも、もじもじしないで!」
二人ともエンドレスか!
「あー、そうだ。今夜は たまご焼きで一杯やるから。悠、ビール買ってきて! そうねぇ、シメイのゴールドとグリーンを1本ずつね! はい、お金!」
急に母さんにお使いを頼まれてしまった。
「後じゃダメなの?」
「たまご焼きで飲むんだから、すぐにほしいの! あの商店街のお酒屋さんに行けば売ってるから!」
なんとか かんとか言いながら、僕は家を追い出されてしまった。天宮さんはまだ僕の家に取り残されているのに。
どうせなら、天宮さんが帰るタイミングでついでに買い物に行こうと思ったのに、急に飲みたくなったとかって……。
天宮さん、うちに来てくれたのに、居心地が悪い思いをしていないだろうか。
ぶつぶつと文句を言いながら僕は商店街に戻るのだった。確か、「シメイ」とかって言ってたな。そんなビールの銘柄 聞いたことないし。「ゴールド」と「グリーン」か。ラベルの色だろうか。
とりあえず、僕はそれらを買って早く家に帰ることにしよう。
「ミックー」
10分くらいして商店街に差し掛かったところだろうか、後ろからポンと肩を叩かれた。そんな変なあだ名で僕のことを呼ぶのは1人しか思いつかない。
「天宮さん……?」
そこにはカバンも持って帰り支度を済ませて帰宅中の天宮さんがいた。天宮さんのドッペルゲンガー……ではないよな。後ろから走って追いかけてきたみたいだ。
「とりま、たまご焼きはできたから、帰って練習するねー」
「あ、はい」
天宮さんはそれだけ言ったら上機嫌で帰ってしまった。何が起きたのか僕には想像もつかない。ビールを買って帰るまで待てなかったってことかな? まあ、そりゃあそうだろうなぁ。面識のない中年女性と二人きりとか間が持たなかったことだろう。
いまいち腑に落ちないところはあるものの、母さんに言われたビールを買って帰るかぁと思ったところにスマホが鳴った。母さんからだった。
『あ、やっぱビールいいわ。そんな商店街にシメイのゴールドやグリーンは売ってないから。天宮さんを家まで送ったら帰っておいで』
「はあ? ……分かった」
益々 腑に落ちないけど、帰って来いと言われれば帰るか……。
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