第7話:僕が70点を取る理由
70点……。
それは、テストにおいては、可もなく不可もない点数だった。80点や90点は良い点数だろう。逆に50点以下はあまり良くない点数と言っても、誰も異議を申し立てないと思う。
仮に常に90点を取り続ける人がいたら、それはすごい人と思われてしまう。
逆に常に50点の人がいたら、その人はあんまり勉強ができない人としてレッテルを貼られるだろう。
その点、70点は良い。
高得点とは言えないし、低いとも言われない。場合によっては良い点にもなるし、悪い点にもなる。しかし、特筆するほどではない。
つまり、70点を取っていれば目立たないのだ。
この世の中は出る杭は打たれるし、引っ込んでいる杭も打たれる。
もっとも誰にも目立たないのは70点なのだ。
僕はテストのときは問題数と難易度から配点を予想してピッタリ70点を取るようにしている。69点でもなく、71点でもなく、ピッタリ70点を取るってのはかなり難しい。
しかも、全教科。それも毎回だ。ここにこだわっているのは、少し中二病なところがあるかもしれない。
目立たない僕だから、1人そんなことをしていても誰も気づかない。これは僕の中の「遊び」だとすら思っている。
「じゃあ、この問題を俺様の授業中にぼんやりしてる御厨!」
おっと、授業中に全く違うことを考えていた。国東先生の授業で当てられてしまったらしい。
冷静に僕は黒板を見た。どうやら物理の問題を解かせようとしていたところらしい。数式が書いてあるし、普通なら暗算できないから「分かりません」って言うか、前に出て問題を解かされて恥ずかしい思いをさせられるところだ。
「 E=mc²です」
「……正解。ちっ、ちゃんと答えやがったか」
今、ちゃんと答えたのに舌打ちしたよね!? 舌打ちしたよね!? どんな教師なのか。国東先生が職員室に戻ったら、学年主任にたばこが見つかる呪いを心の中で唱えておこう。
✳✳✳
「昼休み、例のところで!」
……天宮さんが言ったあれはどういう意味だったんだろう。その言葉と天宮さんのキメ顔が忘れられない。
僕は昼休みに屋上で1人弁当を広げている。いつものように適当な段差に腰かけて膝の上に弁当を載せて。
弁当のフタを開けようとしたタイミングだった。
「ねぇ!」
「うわっ! びっくりした!」
後ろから声をかけられて心臓が飛び出るくらい驚いた。慌てて弁当箱を放り出すところだった。危なかった。
振り返ると天宮さんが「にしし」と笑いながら立っていた。
「あ、ミックのお弁当、今日も美味しそ」
無邪気に僕の弁当箱を覗き込む彼女。
「ども……」
コミュ障じゃなきゃ もっと気の利いたことを言えるんだろうなぁ。でも、今はこれが精一杯。 ここで急に指先に小さな花を持っているマジックをしたかった。しかし、その手の能力は僕にはない。色々残念だ。
「ミックさぁ、私の師匠なんやけん 私にお弁当の一つくらい作ってきてくれてもいーとよ?」
「あ、はあ……」
僕はいつから天宮さんの師匠になったんだろう。
「あ、そうそう。うちにも炊飯器あったわー」
でしょうね。大概の家には炊飯器があるよ。それなら自宅の部屋が何部屋あるのか数えたことがないような 天宮さんの家なら必ずあると思ったんだ。
「屋根の上を掃除機かけるって言ってた笠嶋さんの仕事をやめさせて、使い方を教えてもらった」
なにその急な変なやつ。だから誰? 笠嶋さん。
「でも、ミックんちでやったときより美味しくはなかった」
なぜだろう? 僕は自分用にご飯を炊くときは、少しだけ酒を入れることもある。その方が美味しく炊けるからだ。古米とか古古米とかを使うときは 白だしやアジシオを少し入れることもある。ちなみにネットの情報だ。
今回は基本の基本ということで、それもしていないのに……。
「あ、そうだ。私、ミックのとこにシュシュ忘れてなかった?」
「すいません、気づきませんでした」
シュシュは天宮さんが うちでたまご焼きを作ったときに髪を束ねるのに使ったやつだ。普段は手首にハマってるのに。
「ないんですか?」
「ないっちゃんねー。どっかに忘れてきたかもー」
天宮さんは ちょくちょく物を失くすのかな? 朝も友だちとの間で揶揄われていたし。
「まあ、いいや。あったら取っとってー」
「分かりました」
なんだか次の約束みたいで少し嬉しい僕がいた。
「とりま、ご飯は炊けた。次は日向くんを落とすたまご焼きを教えてー!」
日向の好きな たまご焼きの事情までは知らないし! 一口に玉子焼きと言っても奥は深い。まず、甘いのと
「一口に たまごやきと言っても、色々種類があるし、他人の好みまでは分かりませんね。日向にリサーチした方がいいですね。本人に訊くのが一番だと思います」
「そんなん直接 訊けるわけないやん!?」
天宮さんのコミュ力なら、たまご焼きの好みどころか、仲間の人数やアジトの場所、逃走経路まで吐いてしまうだろう。変なところで遠慮しぃだな、天宮さん。
「私が日向くんと付き合えるまで、私がミックの勉強をみてあげるけん、ギブ・アンド・テイクね!」
「え!?」
僕は事情が全く分からない。話に全然付いて行けてなかった。
「やーけーん! ミックって難しい問題は解けるけど、ケアレスミスってか しょぼいとこで間違っとーやん? 私がもう少し良い点 取れるようにコツを教えちゃーけん!」
ああ……そうか。僕は天宮さんにケアレスミスが多いやつだと思われているようだ。
「私は日向くんを落とすお弁当を教えてもらう、ミックはテストで100点を取る! ギブ・アンド・テイク!」
なにこの
「ごめん、僕は……」
「あー、大丈夫! 大丈夫! 私そういうのバカにしないから!」
ぽんぽんと天宮さんが気安く僕の肩を叩く。あなたが無意識にしているその行動で僕の心臓は16ビートを叩き出しているのですからね! そんな僕の気持ちに気づく素振りすら見せない彼女が恨めしい。
「いや、そうじゃなくて……」
「いーって、いーって!」
ダメだ。天宮さん、話を聞かない系のお人だった……。
「じゃあ、それとなく聞いといてね!」
そう言うと爽やかに去って行った。
一方的に僕に不利なお願いばかりをして、一方的に去って行った。
誤解を解くことができない僕のバカ……。
そして、僕は気づいた。僕が天宮さんに料理の先生役を解任してもらうよう話をするのはダメだ。ハードルが高すぎる。
僕は呆然と学校の屋上で空を眺めていた。
「……いるんでしょ?」
階段室の屋根の上にいる全然 期待してない住人(?)に話しかけてみた。もちろん、僕の第二の人格などではない。
あれ? 返事がない。今はサボってなかったか。そうだ、腐っても教師。いつでも屋上でサボってる訳はないのだ。
それでも念の為ジャンプして階段室の屋根の上を覗いてみた。
ワイシャツにスラックス、その上にカーディガンを着ているやつが寝っ転がってるのが見えた。
「いるんじゃないですか!」
「なんか良いもんが見れるかと思ってワクテカしてたのに、思ったより青春ザツワチャドゥでダメージ喰らって失神してた」
ただ腐ってた。既に教師かすら怪しい単なる腐ったおっさんだった。
「……なんか大変なことになった」
「しれっと相談持ちかけてくんな。俺はもうお前のカテキョじゃねぇ。誰も過去のお前のことなんか知らねぇよ。天宮がお前に絡んでくる理由なんて一つしかねぇだろ? お前の賢い頭で考えてみろ」
ちゃんと答えてくれるところが律儀だ。しかし、国東先生の言ってることは分かる。天宮さんが僕みないな根暗ボッチに絡んでくる理由は……日向だ。彼に近づくためには僕経由の方が有利だと判断したのだろう。
そして、日向の胃袋を掴むためには僕に情報収集と料理を教える先生をやらせる……一人で何役も押し付けられる便利なやつがいたってことだ。
「まぁ、間違っても次のテストで100点なんか取るなよ? 色々ややこしくなるからな!?」
「なるほど! そういうことか!」
さすが教師! なるほど僕は理解した。その手があったか!
「いや、お前。ホントに分かってるか!? よーく考えてみろよ!?」
どうしていいか分からなくなりかけていたけど、国東先生のアドバイスで僕の目の前はパアッと霧がはれたようになった気がした。
✳✳✳
「はぁ!? 100点?」
僕はある日の昼休みに天宮さんに100点の小テストの結果を見せた。
「小テストとかダメくさー。ちゃんと定期考査で100点取らせちゃーけんね!」
ダメだったらしい。慌てている感じなのは怒っているのか!?
天宮さんは、彼女に弁当の作リ方を教えるのと、僕が100点取るのを、彼女はギブ・アンド・テイクと言った。
たしかにテストは見てもらったけど、別にアドバイスとかはなかったし。
僕がテストで100点取れば、彼女の言う取引条件から外れると思ったのに……。
「再来週に定期考査で100点取れるように勉強教えちゃーけんね!」
「いや、あの……」
伝えたい言葉は沢山あるのだけど、口から出てこない。これが非リアの陰キャボッチか。
「分かった! 早めにテスト勉強始めたいっちゃね! 分かった。今日から始めよう!」
どうして彼女とは会話が成り立たないのか。僕のコミュ障が悪いのか、彼女のリア充が悪いのか。
「今日もミックんちに行くけんね!」
そうなのだ。毎日天宮さんが放課後に僕のうちに来ているのだ。僕の家は比較的学校から近いからクラスの誰かに見られないか毎日ハラハラしていた。他でもない、あの天宮華恋なのだから。
彼女ほどの人が僕なんかの家に出入りしていることが分かってしまったら、あらぬ誤解をされてしまい 彼女の希望である「日向と付き合う」という目標まで打ち砕かれてしまうかもしれない。僕はなんとしても天宮さんが僕の家に通うのを止めないといけないと思ったのだ。
■お知らせ
おかげさまで好調です。
応援コメントに「読んでるで」だけでも残してもらえたら嬉しいです♪
「ドーナツ」とか^^
@hotyomi38さん
@rippletさん
新たに★評価ありがとうございます!
なべやまさとしさん
レビューコメントありがとうございます!
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