第6話:ご飯の結果
「なにこれ! 簡単! 美味しい! 欲しい欲しい! 『炊飯器』欲しい!」
ご飯が炊けただけで天宮さんが大歓喜。その様子から冗談とか、お芝居とかではないみたいだ。
僕はなぜか天宮さんとテーブルを挟んでご飯を食べている。「食事」って意味じゃなくて、本当に「ご飯」だけだ。「一食」って意味のご飯じゃなくて、お米を炊いた「ご飯」のご飯。……日本語って難しいな。
白米だけではあんまりだと思ったので、ふりかけと海苔くらいは出したけど……。
「炊飯器はきっと天宮さんの家にもあるよ。なんならうちのより数ランク良いやつが。『IH』とか『真空』とか、色々枕詞が付いたやつ……」
「なんそれ!?」
IHは電磁加熱方式のこと。別に電磁加熱が良いってわけじゃないけど、釜の広い範囲に大火力で加熱すると昔ながらの釜で炊いたみたいに美味しいご飯に炊き上がる。
真空にしたら米が美味しくなるわけじゃない。真空にすると、圧力鍋の中の様に通常水が100度で沸騰するところ、120度で沸騰するようになる。つまり、高い温度で調理できるので先の理由でご飯が美味しくなるのだ。僕は天宮さんに炊飯器について熱く語った。
まあ、うちのはIHでも真空でもない普通の炊飯器なのだけど……。
僕は気になったらとことん調べないと気が済まない性格だ。そして、その理由も調べ尽くす。そんな僕の話は母さんが聞いても「全く面白くない」と一蹴するほど。それなのに、天宮さんは真剣に聞いてくれた。きっとかなり良い人なんだな。
「美味しい! ご飯だけでこんなに美味しいっちゃね! びっくり!」
「それはよかったですね」
ご飯だけでこんなに満面な笑顔で喜ぶなんて、彼女の人気の理由が少し分かった気がする。
「あとね、このふりかけ! どこで売っとーと!? ほしい! 課金したい! 常備したい!」
「ああ……これは……」
答えるのが恥ずかしかった。このふりかけは、僕が先日 鮭を捌いたときに出た切れ端を炒めて、海苔とかゴマとか足して適当に味付けしたもの。レシピとかないからもう一度全く同じものを作ることは僕にもできないだろう。
とりあえず、説明したら目を丸くして驚いていた。
「ミック! 私がお弁当を作れるようになるまで先生をお願いね!」
これなんてラブコメ? 僕的には友達ができるのは嬉しいけど、僕と釣り合う人でないとまた辛い思いをするだろう。もう、あんな思いをするのは嫌で僕はここにいるのに……。
「じゃあ、今日は帰るね。ミック、ごめんけど、途中まで送ってくれん?」
「? ……はい」
なんとなく天宮さんは自分から他人に手がかかるようなことを頼まないと思っていたのだけど……。まあ、他人の心が分からない僕のことだ。それは、勝手な思い込みだろう。
「ほら、私かわいいけん、帰りがけに誘拐されたらいかんやん?」
「そうだね」
「つまらん!」
僕のリアクションに天宮さんはご満足いただけなかったみたいだ。
✳✳✳
天宮さんとうちでご飯を炊いたた翌日。僕は気づいた。昨日のあれは夢だったということを。いや、夢に違いないと僕は思うようにしていることに気がついた。
今日の天宮さんは教室内で普通通りに色々なクラスメイトと楽しそうに話している。それがあまりにもいつもと同じで、昨日のことが現実とは思えなかったほどだった。
特に休み時間には女子4人、男子6人の大きなグループでワイワイ。話の内容は聞こうと思わなくても聞こえてくる。彼らの声は教室中に響き渡るほど大きいから。
そうかぁ、僕の中にも「天宮さんと一緒に過ごしてみたい」って願望が存在してたかぁ。それにしても、妄想では一緒にご飯を炊くって……。もっと色々あったろうに。僕はバカだなぁ。
「華恋ー。放課後ひまー?」
聞くとなしに天宮さん達のグループの会話が聞こえてくる。天宮さんはいつも3人の女子とつるんでる。いや、グループ全体の人数自体はいつも まちまちなのだけど、コアメンバーというか、特に仲が良い女子が三人いる。残念ながら僕はその彼女らの名前を覚えられない。何回覚えようと思っても、まったく興味がないらしい。
イメージで言えば、毒舌な子とゆるふわ系の子、そして、天宮さん大好きな子……そのくらいの認識しかない。全員ギャルだし、あまり僕とは交流も接点もないからかもしれない。
「ごめーん、パスーーー」
結構離れてるし、みんなそれぞれワイワイやってるのに、天宮さんの声がよく聞こえるのは、たしか「カクテルパーティー効果」だったかな。意識している人の声だけが聞こえる現象の名前だ。
「マ!? 西高の子がイケメンの友達連れてくるから合コンしようってー」
毒舌の子が合コンの提案らしい。
「んー、パスー。私、いま作戦実行中やけーん」
天宮さんは乗っからなかった。そりゃあ、日向を落とす作戦遂行中だしな。あれ?
「なんそれー。あやしー」
ゆるふわ系の子。のんびりしている感じだ。
「華恋は合コンとか行かんでよくない? うちらいるし! たのしいやん!」
天宮さん大好きな子も合コンにはネガティブらしい。
彼女たちは、持ち物をお揃いにしたりして、仲の良さはいちいち言わなくても周囲から見ただけで分かる感じだった。中には髪型とか、制服の着崩し方とかも合わせている子もいる。そういう見た目で分かりやすいのは僕だって理解できた。
女3人で
「あ、ところで。私のシャーペン知らん? あのピンクのやつ」
「この間 買ったって言いよったやつ? もう失くしたと!? 華恋ちょいちょい物を失くすよね!」
「小人! 小人さんが隠したとっ!」
天宮さんのおっちょこちょいは友達の間では隠しきれていないらしい。
あれ? 天宮さんが1人座っている僕の席にやってきた。何人かのクラスメイトは天宮華恋の行動を目で追っている。そして、僕の机の前に来てピタリと止まった。
え? あれ? 天宮さん? あれは夢? 夢じゃなかった? 夢じゃなかったと思わせてやっぱり夢だったパターン?
「昼休み、例のところで!」
親指でクイッと上(多分、屋上)を指差して天宮さんがキメ顔で言った。
「……」
僕はポカーン顔だっただろう。
(キーンコーンカーンコーン)
みんな僕達の方を見ていた気がするけど、次の授業の始まりを知らせるチャイムで教室の空気は一気に霧散した。
「おーし! 全員席につけー! 言うこと聞かないやつは、そいつのSNS炎上させるぞ!」
「先生! めちゃくちゃ怖いこと言わないでください! それパワハラです!」
担任の国東先生の物騒な言葉で朝のホームルームは始まった。
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