第2話:意外な傍観者登場
「意外だったな」
天宮さんが去ってしまった屋上でまた違う声が聞こえた。もちろん、僕の第2の人格などではない。
屋上に続く階段には当然 屋根があるし壁がある。ここも一つの部屋なのだ。たしか、階段室とかっていうのかな。その高さ約3メートル。だから、その上に人がいたとしても屋上からでは視界に入らないのだ。声はその上から聞こえてきた。
そして、僕はその声に心当たりがあった。
「国東先生……盗み聞きとか行儀悪いですよ」
「人聞き悪いこと言うなって」
国東先生はむくりと上半身を起こした。年の頃なら20代後半から30代前半、少しウエーブがかかった髪の毛に、大騒ぎにはならない程度の無精髭。顔はイケメンと言えなくもない。まあ、僕と比較したら確実にイケメンだ。
多分、彼は小屋状の突起物、階段室の上で横になっていたのだろう。いよいよ屋上にいた僕と天宮さんからは見えなかったはずだ。
「じゃあ、なんでこんなとこにいるんですか?」
「大人には大人の事情があるんだよ」
そう言って、ふぅと空に向かって紫の煙を吐いた。煙は国東先生の存在感の様に昼休みの空に拡散して消えた。
「いや、校内は敷地内でも禁煙でしょ」
「ここは空中だからセーフなんだよ。あれは他人に副流煙を吸わせないためのルールだ。屋上は立入禁止だからそのルール適用外だからな」
国東先生は指を二本立ててピースみたいなポーズを取っている。そこにタバコが挟まれているのだろうけど、僕からは少し離れているのでこちらからは屋上で上半身を起こしたおっさんが裏ピースをしているようにしか見えないのだ。
謎理論で論破した論破王が裏ピースで勝利宣言をしているかの様に見えた。
「その立入禁止の屋上のカギを僕にくれたのは国東先生じゃないですか」
「お前には要るかなって思ってたから……。まさか、そのカギを青春ザツワチャドゥに使うとはな」
先生よ、その「青春ザツワチャドゥ」とは何なのかは説明してくれ。
「そんなんじゃないです」
今言った「そんなん」はどんなのなのかは既に僕自身にも説明することはできない。
「いいんじゃないか? 教科書の勉強ばっかのお坊ちゃんには恋のABCでも教えてくれる同級生女子の一人や二人いても……」
まだ若いのにセリフがオヤジなのはワザとなのか、何かしらの照れ隠しなのか……。他人の考えを慮るのが苦手な僕としては答えに窮する問いかけだ。
「彼女と僕とでは住む世界が違いますよ」
「……かもな。でも、同じかもしれない。そもそもお前はリセットして2回目の高校生だろ。そして、1回目の人生とは違う生き方をしたくてこの学校に来たんだろ?」
それだけ聞いたら僕がラノベ主人公みたいじゃないか。携帯電話と電子レンジを組み合わせたら過去にメールを送ることができるという噂を聞いたけど、それでも人間一人となるとどれだけのエネルギーが必要になるのか……。人間そんな簡単に過去に行ったりはできないのだ。現実世界で人間は過去に戻ったりはしない。
時計台に落ちた雷のエネルギー1.21ジゴワットが時速141.6km/hの有名なアメリカのスポーツカーに落ちたら過去に行けると聞いたけど……。それなら、あるいは……。
「まあ、何かあってもそこから飛び降りないでくれよ。俺の責任が問われるかもしれないからな。お兄さんとの約束だぜっ!」
急におっさんがウインクして舌を出してハニカミ顔でサムズアップして言った。おっさんのウインクなんて全然かわいくない。さっきまでの天宮華恋との会話がキャラメルホイップクリームフラペチーノだとしたら、国東先生との会話はセンブリ茶くらい違う。僕の中では既にフラペチーノの余韻は完全に払しょくされ、センブリ茶の苦みでのたうち回っている状況だった。
僕からしたらこの人は言動が全く予想できない人間だ。こんな時に僕はどんなリアクションを取ったら正解なのか分からないでいた。
「さて、と。アインシュタイン倶楽部のエースは置いといて、俺は下に行って労働してこようかな」
バッタが跳ね上がるみたいに国東先生がきゅうに跳ね上がって階段室から飛び降りてきた。
この時も僕の中では100万
「キスの味がレモン味かどうか分かったらお兄さんに教えてくれ」
そんな変な軽口を言いながら国東先生はぎこちないウインクをして二本指の敬礼をして階段に消えた。
そもそも国東先生は僕の家庭教師だった過去がある。それも相当昔の話。僕は色々の
たった今 話した内容もすぐに忘れることにした。
そして、担任教師とのシュールな会話から僕の物語は「人間ドラマ」だったらしい。早速の方針転換に僕の心は追いつけないでいた。
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