【カクヨムコン11参加中】学校で一番人気のギャルが一番目立たない陰キャボッチの僕に恋愛相談を仕掛けてきた

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

第1話:屋上とギャルとボッチな僕と

 コンクリートの灼熱と、吹き抜ける乾いた風。そして、僕が僕であるための静寂。眼下のグラウンドでは生徒たちがサッカーをしたり、バスケをしたり、それぞれの昼休みを楽しんでいる。


 ここが、僕――御厨みくりや ゆうの聖域だ。


 昼休み、教室の喧騒を避けて僕はいつもの場所にいる。立ち入り禁止のはずのこの屋上は、僕の秘密の場所だ。僕はポケットに手を入れ、冷たい感触の鍵を確かめた。この鍵のおかげで、僕は誰にも邪魔されないこの空間で、休憩できる。


 そもそも、高校で普通に屋上に行けるようになっているところがあったら教えてほしい。事故とか、事故じゃなくても思春期をこじらせて自ら飛び降りるようなやつらがうようよいるのが高校だ。そんな彼らにカギなんか持たせたらいつ飛び降りるかも分からない。


「さてと……」


 僕はおもむろにそこらの適当な段差に座って弁当の包みを膝の上に載せる。


 今日の弁当は、昨日の夕ご飯のおかずの残りを中心に、玉子焼きと大根の皮のきんぴらを追加したもの。あとは、サケの塩焼きも追加した。我ながらいい出来だ。


「んー、今日の塩加減も絶妙だな」


 自分で焼いたサケを自画自賛しながら一口頬張った、その時だった。


「ねえ!」


 背後から、あまりにも明るい声が鼓膜を突き破った。


「うわあああ!? な、ななな、なんで!?」


 僕は持っていた弁当を危うく落としそうになり、慌てて振り返った。誰もいないと思っていたから余計に驚いた。


「余計に」っていうのは、そこに立っていたのは教室ではまばゆすぎる光を放つ存在だったから。


 クラスで一番人気のギャル、天宮あまみや 華恋かれんだった。


 人の名前とか顔とかを覚えるのが苦手な僕でも知っている。


 長い茶色の髪を軽やかに揺らし、きゅっと上がった目元は自信に満ちている。短いスカートからは細く長い足が生えている。


 彼女の声は甘く、博多弁がとても似合ってるんだ。


 そのいつも誰かに囲まれているはずの彼女が、なぜか僕の、この隔離された屋上スペースにいる。


「くっくっくっ、そんなに驚かんでもいいやーん」


 天宮さんは楽しそうに笑いながら、僕の正面に回り込み、ストンと座り込んだ。地面にお尻を付ける訳じゃなくて、しゃがんだみたいな座り方。両手は彼女の頬に当てられ僕を見上げるみたいに微笑んでいる。


 直視したら足と足の隙間から見えてはいけない布地が見えるのかもしれないけれど、それができるほど僕の精神は強くなかった。


「ま、待って! なんで天宮さんがここに? ここ、立ち入り禁止の、はず……じゃっ……」

「えー? そうなんー? そんなん知らんかったー。そもそも、御厨くんもおるし」


 天宮さんはあっさりとした調子で、僕の弁当箱を覗き込んだ。彼女が僕の名前を知ってることにも驚いた。あの天宮華恋だぞ!?


「いつも昼休みには教室におらんねーとは思っとったけど、こんなとこにおったんやねー。まさか御厨くんが屋上でのボッチ飯のプロやったとはねー」


 天宮さんは屋上をきょろきょろと見渡しながら言った。敬礼みたいなポーズで、てのひらで庇を作って日差しを遮る姿がかわいい。


 僕はギャルが苦手だ。コミュ力ゴミクズの僕と真反対の存在だから。言葉を交わすのもしんどい。


 彼女の言葉は、僕が必死にすがってかじりついてきた「普通」を脅かすようなものだった。


「……なんでここを知ってるんですか?」

「んー? ひ・み・つ♪」


 いたずらっぽい笑顔で彼女は言った。その笑顔がめちゃくちゃかわいい。対象が苦手な存在なのに、整った顔と異性の笑顔ってものには好感を示す自分のDNAに驚いた。僕は僕の今の感情が信じられない。


「てか、おにぎりめっちゃ美味しそー。お母さん料理上手的な? うらやまー」

「あ、いや……その……」


 コミュ障って損だと思う。こんなときに思っていることがあっても、それを言語化することができないのだから。


 僕は何も感じていない訳じゃないし、考えていない訳でもない。むしろ、他の人よりたくさん考えているのかもしれない。もっとも見えないものを他人と比較することはできないのだけれど。


 この言葉が出ない理由を医学論文にまとめて学会で発表してやりたい。きっと病名は「思春期」になってしまうんじゃないだろうか。


「じ、自分で……」

「じぶんで? え? ミック、料理とかできる系? いがーい」


 誰だよ「ミック」って……。もしかして、僕のあだ名!? そんな風に呼ばれたのなんかこれまで一度もない。リア充の心の距離の詰め方がエグいと思った。僕の一歩と彼女の一歩は果てしなく距離が違うんだろう。


「ま、まあ、そうだけど……。それで、こんなところに何の用?」

「あーね、ちょっちねー……」


 そういいながら、天宮さんのすっくと立ち上がって視線はグラウンドのほうに落ちた。僕も無意識に視線の方向を見てみると、そこにはクラスメイトたちがバスケットをしていた。


 天宮さんを見ると、こちらを振り返りニッコリ笑顔。ああ……そうか。好きなやつがいるのか。それを密かに見るために、よく見える場所を探していたら屋上に……なるほど。僕は全てを理解した。


「……今日はたまたま開いてたんだ」


 僕の自分の楽園を守るために、すぐさま防御線を張った。僕は必然ではなく、偶然ここにいることを装うことにした。


「へー……、でも、誰かさんはカギ持っとるみたいやったー」

「どこから見てたんだよ」

「ふふーん」


 天宮さんのドヤ顔は本当にドヤってた。天下の天宮華恋には僕の目先の嘘なんて通じないのだとすぐさま悟った。


 僕としては困ったことになった。ここは僕だけの空間、僕だけの世界なのだ。そこに、よりによって騒がしい生き物選手権優勝みたいなギャルがギャルギャルして来たら全ては崩壊してしまう。ナーバスな僕の心のお花畑にダンプカーとショベルカーがコンビでやってきて、好き放題に徳川埋蔵金を掘り返していくようなものだ。


「黙っててほしかったらぁ……」


 悪代官かなにかだ。天宮さんの顔は悪い人のそれだった。僕はすぐに諦めた。


「まあ、悪いようにはせんけん」


 そういうと、天宮さんは僕の真正面に立って、座っている僕の肩をぽんぽんと叩いた。


「……」


 若干 うつむいて下気味を見ている僕からしたら、目の前に彼女の短いスカートと太ももが見えてる。


 彼女は普段からこの格好なのだけど、こうしてまっすぐに近くで見るとやたらとエロい。僕の心臓が16ビートを刻み始めた。この鼓動を彼女に悟られてはいけない。さらに弱みを掴まれてしまうだけだから。


「実はねー、ちょっと聞いてほしいっちゃけどー……」


 天宮さんは、少し声を潜めて言った。


 この切り出しは嫌な予感しかしない。次に彼女の口からどんな言葉が紡がれたとしても、僕にとっては悪いこと以外はありえないと思う。


「恋・愛・相・談♪」


 僕の目の前に立っている彼女が少しかがんで僕の目の前に彼女の顔を持ってきて、そして僕の目を見ながら言った。


「れんあい……そうだん? て、あの恋愛相談?」

「恋愛相談に種類があるんやったら教えてほしいっちゃけど」


 まあ、そうか。多分僕が知っている恋愛相談と彼女が言っている恋愛相談は同じものだろう。他人に恋愛について相談するあの恋愛相談だ。


 ああ……僕は今 相当 頭が悪いことを考えている。予想外のことが起こりすぎると人の思考はどんどんおかしくなっていくことを実感した。


「クラスで一番人気のギャルの天宮さんが、クラスで一番目立たない陰キャボッチの僕に……?」


 僕が訊くと、天宮さんはにまりと笑って言葉を続けた。


「自虐ーwww。違う違う、御厨くんはボッチていうか、んー……、孤独のプロって感じ? わざと誰も近づけないようにしとるやろー」


 いきなりズバズバと自分の心の中を言い当てられて僕が止まってしまった。彼女は相手の心が読める超能力者か何かなのか。天宮華恋クラスになるとそんな能力すら持ち合わせているというのか!?


 そうだとしたら、ついさっき彼女のミニスカートと太ももを見て欲情したことが既にばれてしまっているってことだろうか。


 急に変な汗が出てきた。


「私くらいになるとね、恋愛相談の相手は誰でもいいってわけにはいかんとよー」


 それはそうかもしれないな。天下の天宮華恋なのだから。


 クラスで一番人気のギャルなんだ。その彼女が好きな相手となると、それが誰であっても大騒ぎになるはずだ。教室の中 限定で言うなら、下手な芸能人のスキャンダルより大きな話題だと言っていいだろう。


「その点、ミックなら相談しても問題ないけんね。誰にも言わんやろ?」


 言わないっていうか、言う相手がいないんだよ。悪かったな。


 その言葉は、僕の「目立たない」という努力を完璧に認めてくれているようで、不思議と嫌な感じはしなかった。クラスで一番目立つ彼女の秘密を、僕だけが知る特権を与えられたような、奇妙な優越感があった。


「......まあ、それもそうか。で、相手は誰?」


 僕は平然を装って続きを促した。


 天宮さんは顔をパッと輝かせ、両手を頬に当てた。


「んふふ。言うねー。日向 壮太くんっったい!」

「あー……。なるほど……」


 そこであらかたを理解した。僕とくだんの日向は比較的仲がいい。僕から言えば親友だと思っているくらい信用している。彼からしてみたら、たくさんの友達の中の一人ってとこだろうけど。それくらいやつは面倒見がいいというか、人がいいというか、とにかくいいやつだ。


 僕と日向が仲がいいのを知っているから、僕からやつの情報を引き出そうって考えか。あまつさえ、橋渡しを狙っている、と。さすがギャル。抜け目がないというか、賢いというか……。


 僕が驚きを隠せずにいると、天宮さんは日向への熱烈な思いを語り始める。


「そうなんよ! 日向くん、誰にでも優しいし、サッカーやっとー時の汗が超かっこいいし、ああいう太陽みたいな男子って最高やけんね! 見てるだけでキュンキュンするー」


 天宮さんの熱烈な日向上げに、僕は少し胸がちくりと痛んだ。


「……日向の人当りの良さと面倒見の良さで話してもらってるだけだよ。僕は転校生だったからアイツが気を使って みんなと交流できるようにしてくれているんだと思う」

「そういうとこ! そういう卑屈なところが、なんかミックらしいねー。でも、日向くんって、きっとミックのそういう変な真面目さが好きっちゃろ?」

「真面目って言われたの久しぶりだよ......。で、どうしたいんだ?」

「びしっ!」


 天宮さんが自分の口で「びしっ」って言いながら僕に人差し指をロックオンした。僕は魂を押さえられたみたいに動けなくなっていた。そこに、彼女の次の言葉が飛んできた。


「ミックを恋の作戦大臣に任命します!」

「は!?」


 なんだ、そのセンスゼロの作戦名は。復唱することすらはばかられるぞ。


「じゃあ、頼んだけーん!」


 彼女は長い髪をなびかせて、右手で大きくバイバイをしながら 今日一番の笑顔で屋上を去って行ってしまった。嵐が過ぎ去った後のような静寂の中、僕の鼻先には、彼女がいた場所の残り香 ―― 甘いバニラのような香りが、場違いに漂っていた。


 これが僕と天宮さんとのまともな会話の始まりだった。


 そして、ここで気づいた。僕の物語は「ラブコメ」だったのか……と。


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