第16話 バファリン
五十四
南栗橋の廃病院。ワームマンが放つ高周波の絶叫は、ウルトラマソの浄化光線を阻み、ドクター・メディウムの歓喜を煽っていた。病院の床は激しく振動し、ダーク・システムの最終ゲート起動が迫っていた。
病院に到着した**本郷 猛**は、車から降りるなり、その高周波音で全身の神経を突き刺された。彼は耳を覆い、ワームマンの苦痛が極限に達していることを理解した。
「この音波は、変異システムによる究極の防御だ!ドクター・メディウムの増幅装置が、虫歯の痛みを**『絶対的な苦痛』**に変えている!」
本郷は、起爆装置を起動させる前に、一瞬、車内に残された協力者の方を見た。協力者は恐怖で震えながらも、医療キットを抱えていた。
その時、本郷の脳裏に、大西誠が最初に痔ガンタムから人間に戻った時の状況が閃いた。
「薬効が切れたんだ!ボラギノール坐薬を服用していた!」
大西の変異システムは、「痛みのトリガー」を排除されると、強制的に人間の姿に戻るという致命的な弱点を持っていたのだ。
「そうだ!鎮痛剤だ!」
本郷は、高周波の嵐の中、協力者から医療キットを奪い取ると、その中から市販の鎮痛剤の錠剤を掴み出した。それは、ごく一般的な、バファリンだった。
五十五
「ドクター・メディウム!お前の**『苦痛増幅システム』の弱点は、『鎮痛』**だ!」
本郷は叫びながら、ワームマンの元へ向かって突進した。鯰怪人がその行く手を阻もうと粘液を噴射するが、本郷はそれを避け、驚異的な身体能力でワームマンの巨大な頭部(口腔)に飛び乗った。
「馬鹿な!人間の鎮痛剤で、この高次の苦痛が消えるものか!」
ドクター・メディウムが驚愕の声を上げた。
本郷は、ワームマンの巨大な口腔の中、虫歯菌のような黒い針が並ぶ忌まわしい口内に、バファリンの錠剤を文字通りねじ込んだ。
「大西君!人間として、痛みに勝て!」
薬は、ワームマンの唾液のような粘液に触れると、瞬時に溶け始めた。そして、増幅された虫歯の神経に、猛烈な勢いで作用し始めた。
五十六
キィィィィィィィン!!!!
ワームマンの放つ高周波音は、一瞬で最高潮に達した後、まるで糸が切れたかのようにプツリと途絶えた。
虫歯の激痛が、嘘のように消滅した。トリガーが消失したことで、ワームマンの体内システムは、強制的に変身解除へと移行した。
ワームマンの粘液質の肉体が、水のように融解し、地面に崩れ落ちた。その中心から現れたのは、裸で憔悴しきった大西 誠の姿だった。
「あ、あれ……痛みが……消えた……」
大西は、虫歯の痛みが消えたことに、ただ安堵の表情を浮かべた。
ワームマンの消失により、ウルトラマソを縛っていた**「高周波の枷」**が外れた。
シュワァァン!
ウルトラマソは即座に右手を掲げ、浄化のエネルギーをドクター・メディウムに放射した。
「調停者め!邪魔をするな!」
ドクター・メディウムは、注射器型の銃で対抗しようとするが、ウルトラマソの光は、**「苦痛増幅装置」**を核とした彼の肉体を正確に捉えた。
光は、ドクター・メディウムの体から放出される**「苦痛の波動」**だけを切り離し、浄化していった。
五十七
ドクター・メディウムは、凄まじい悲鳴を上げながら、その医療機器のような装甲が剥がれ落ちていった。その剥き出しになった顔は、かつて大西誠を罵倒した鮫島主任によく似ていた。
「バカな!私の**『憎悪の増幅』**が……消える……!」
ドクター・メディウム(正体は鮫島の怨念か、あるいは彼の肉体を利用した組織の幹部)は、自らの憎悪こそが、この苦痛システムを駆動させる最後の核だったことを露呈した。
ウルトラマソの浄化が完了すると、鮫島の姿は灰となり、その場には一台の複雑な機器だけが残された。それが、**「苦痛増幅装置」**だった。
本郷は、間髪入れずに起爆装置を起動させ、その装置に投げつけた。
ドォォォン!!
廃病院は爆音と共に崩壊し、ダーク・システムの**「苦痛のシステム」**は、完全に破壊された。
鯰怪人は、組織の崩壊を悟り、地面に穴を掘って逃走。ウルトラマソは、静かに大西に光を浴びせ、彼が完全に人間の状態を維持できることを確認すると、巨大な光の翼で夜空へと飛び去っていった。
こうして、五霞から始まった**「苦痛の連鎖」は、一錠のバファリンと一人の意志の強い男**によって、終焉を迎えたのだった。
最終的なまとめ
五霞の工場で蹴られた男、大西 誠の苦難の旅は終わりました。この物語をここで完結とさせていただきます。
五霞工場(蹴り) \rightarrow ゴカキック
古河病院裏(痔) \rightarrow 痔ガンタム
諸川(腰痛) \rightarrow ケルベロス・マソ
南栗橋廃病院(虫歯) \rightarrow ワームマン
この連鎖的な悲劇は、鷹山トシキ改め本郷 猛の介入と、ウルトラマソの協力、そして何よりも**「痛み止め」**という、人間的な解決策によって断ち切られました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます