第14話 ドクター・メディウム

 四十六

​ 南栗橋駅前。ウルトラマソの光のバリアが、戦場を二分していた。バリアの外側で、本郷 猛は、再び激痛に顔を歪ませ始めた大西 誠を抱え上げた。

​「大西君、持ちこたえろ!薬効が切れたんだ!ここで再変身すれば、我々の負けだ!」

​「ムリ、です……ホンゴウさん……あの……あの痛みが、また……座れない!」

​ 大西の皮膚が再び黒ずみ始め、僅かに装甲の突起が浮き出ようとしていた。彼の体内の変異システムは、**「肛門の痛み」**という最強のトリガーに逆らえない。

​ 本郷は即座に決断した。この場で再変身させれば、二体の怪物の波動でゲートが開く。

​「協力者!すぐに病院へ!とにかく大西君の痛みのトリガーを排除するんだ!」

​ 本郷は、大西を車に押し込み、自身はウルトラマソのバリアの内側へと駆け込む準備をした。

​「大西君、生きろ!お前たちの苦痛を無駄にはしない!」

 四十七

​ 大西を乗せた車が、緊急で最寄りの病院へと向かった。痛みに朦朧とする大西が、ハンドルを握る協力者に、かすれた声で訴える。

​「あ、アソコだ……あそこに、イケ……」

​ 大西が指差したのは、南栗橋から少し離れた、郊外の寂れた私立病院だった。そこは、数年前に閉院したという噂もある、古びた建物だ。彼の変異システムが、本能的に**「根本的な治療」、あるいは「変異の源」**を感知したのかもしれない。

​ 車がその病院の裏口に滑り込んだ瞬間、大西の意識は限界を迎えた。

​「グアアァ……」

​ 彼の体が、最後の抵抗を見せるように、再び痔ガンタムの姿へと変貌し始めた。しかし、その変異は、**「痛みを抱えたままの半完成形」**で止まった。

 四十八

​ 病院裏口の非常階段で、痔ガンタム(大西)は、青い光を放つローブを纏った、細身の男と遭遇した。男の顔は、仮面ではなく、無数の配線と機器で覆われており、まるで生きた医療機器のようだった。

​ 男は、痔ガンタムの半完成形の姿を一瞥し、合成音声のような無感情な声で言った。

​「遂に来たか、『苦痛の連鎖反応炉(チェイン・リアクター)』。お前たちの苦痛は、我々の**『システム』**にとって、最高の燃料だ」

​「お、オマエハ……!?」

​ 痔ガンタムの喉から、苦痛に満ちた声が漏れる。

​「私は、『ドクター・メディウム(Doctor Medium)』。ダーク・システムの**『苦痛増幅装置(ペイン・アンプリファイア)』**を司る者だ」

​ ドクター・メディウムは、静かにローブの下から、注射器のような形状の巨大な銃を取り出した。その銃口からは、緑色の粘液が光っている。

​「安心しろ。お前の**『痔』は、私が治療してやる。だが、『変異のエネルギー』**は、全て頂く」

​ 彼は、この寂れた病院こそが、ダーク・システムがこの地域に仕掛けた「苦痛のトリガー」を遠隔操作し、増幅させるための拠点であることを示した。五霞、南栗橋、古河、諸川の事件は、全てこの場所から仕組まれていたのだ。

 四十九

​ ドクター・メディウムの狙いは、痔ガンタムを再び人間に戻すことではない。彼の**「生理的な痛み」から解放された瞬間に放出される「解放のエネルギー」**を回収することだった。

​「地獄ノ、番犬……ノ、ツギハ……**医者(ドクター)**カヨ……!」

​ 痔ガンタムは、もはや怒りも法もなかった。あるのは、**「絶望的な、人間に戻りたいという願い」**だけだった。

​ ドクター・メディウムが注射器型の銃を構えた、その時。

​ 南栗橋駅前で、ウルトラマソが最大の光の出力でバリアを破砕した。彼の目的は、この「苦痛増幅装置」の場所を、クリハシ・クラッシャーを救う前に、『力の源』を断つことへと切り替わったのだ。

​ウルトラマソの光の波動が、南栗橋からこの私立病院へと向かっている。

​ 痔ガンタム(大西)とドクター・メディウムは、ダーク・システムの最終拠点で、対峙することになった。そして、その背後から、ウルトラマソと、クリハシ・クラッシャーを救ったであろう本郷 猛が、急接近している。

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