第13話 ボラギノールは諸刃の刃

 四十二

​ 本郷 猛は、ウルトラマソの**「協力」**の意志を受け取ると、大西誠を協力者に託し、南栗橋へ急行した。ウルトラマソは巨大な光の翼を展開し、本郷を乗せた車を上空から追尾する形で向かった。

​ 南栗橋駅前。クリハシ・クラッシャー(田端 孝)は、頭部の肥大化による不協和音を放射し続け、パトカー数台を大破させていた。その混乱の中、バラバのマスクマンとショッカーもどきの怪人たちが、捕獲用の特殊な電流ネットを構え、クリハシ・クラッシャーに迫っていた。

​「クリハシ・クラッシャー!お前の『暴力のエネルギー』は、我々の第二段階の起動に不可欠だ!」バラバのマスクマンが叫んだ。

 四十三

​ その時、上空から赤い閃光と共に、何かが猛スピードで降下してきた。それは、かつて痔ガンタムだった大西誠だ。彼は、ケルベロス・マソから人間の姿に戻された後、ウルトラマソの光のバリアの中で**「ボラギノール坐薬」**を服用していた。

​ ウルトラマソの浄化と、市販薬のダブル作用。彼の体内の変異システムは、一時的に**「痔の痛み」というトリガーを完全に失い、「戦闘に不向きなほど健康な人間」**に戻されていたのだ。

​「うっ、うう……体が、軽い……」

​ 大西は着地と同時に、痛みが消えたことに安堵し、周囲の状況を把握できずに茫然とした。しかし、彼はすぐに状況を理解した。目の前には、自分の仲間であるはずの怪物と、それを狙う敵がいる。

​「田端さん!危ない!」

​ 大西は、かつて同僚だったクリハシ・クラッシャーを守ろうと、丸腰でバラバのマスクマンと怪人たちの間に割って入った。

​ バラバのマスクマンは、この予期せぬ事態に驚愕した。「バカな!大西誠!お前はなぜ人間に戻っている!? 我々の変異体は、簡単にはデチューンされないはずだ!」

​「変異体じゃない!俺は人間だ!もう、二度と、お前たちの道具にはならない!」

​ 大西は叫んだ。彼は武器を持たないが、度重なる変異で鍛えられた**「諦めない意志」**だけは残っていた。

 四十四

​ しかし、人間は怪物には敵わない。

​ バラバのマスクマンはトライデントを構える代わりに、ショッカーもどきの怪人の一体に目配せした。

​「そいつを始末しろ。その余計な人間性は、我々の計算を狂わせる」

​ ショッカーもどきの怪人は、異形の爪を振り上げ、無防備な大西に襲いかかった。

​ ドスッ!

​ 間一髪、現場に到着した本郷 猛が、大西の前に飛び出し、怪人の攻撃を受け止めた。本郷は、若き頃に鍛え上げた武術で怪人の腕を捻り上げ、背後から関節技で地面に叩きつけた。

​「大西君!なぜ戻った!ここは、お前がいる場所じゃない!」

​「ホンゴウ……さん。俺は、田端さんを、助けたい!」

​ 本郷は、大西の強い眼差しを見て、彼の意志が本物であることを理解した。しかし、彼の体は人間であり、戦闘に耐える構造ではない。

 四十五

​ その時、ウルトラマソが光のバリアを張り、戦場を二分した。バリアの内側にはクリハシ・クラッシャーとバラバ、外側には本郷と大西、そしてショッカーもどきが分断された。

​「ウルトラマソ!なぜ妨害する!」

 バラバのマスクマンが叫ぶ。

​ ウルトラマソは、一切の言葉を発さず、バリア越しに本郷へ**「クリハシ・クラッシャーの苦痛の源を探れ」**というメッセージを伝えた。

​ バリアの内側では、バラバのマスクマンが捕獲作戦を再開した。しかし、外側では、大西誠が再び苦しみ始めていた。

​「うっ……まただ……」

​ ボラギノールの薬効が切れ始めたのだ。彼の体内の変異システムは、「肛門の痛み」というトリガーを再認識し、再び痔ガンタムへと変身しようと活性化し始めた。

​「まずい!この場所で痔ガンタムが再変異すれば、二体の怪物の波動でダーク・システムのゲートが強制的に開いてしまう!」

 本郷は焦った。

​ 彼の選択肢は二つ。大西を強制的に現場から離脱させるか、それとも、このまま大西の再変異に賭け、ウルトラマソとの共闘で組織の計画を打ち破るか。

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