第七節 あの日見た
──とある街の広場にて、
人の話し声が飛び交う。
音が多い。声も、足音も、笑い声も。
風の音しか知らなかった耳に、それは少しだけ、眩しかった。
青年(元気な声で)
「おっちゃん!!
コカトリスの串焼き一本!!」
屋台のおっちゃん
「おう!!毎度あり!!!」
青年
「モグモグ……ゴクン…」
青年は美味しそうに完食する…。
青年
「ん!?……ここの焼き鳥…美味しいな…。塩が良く効いてる。」
──それは、レオ兄と食べたあの日の味に、少しだけ似ていた。
屋台のおっちゃん
「お前さん…。ここいらじゃあ…あまり見ねぇ面だが…最近来たばかりなのか?」
青年
「ああ。田舎から出てきてな…。ここいらでは、この街…《王都フィロソニア》が一番でけぇって聞いてな?
興味を惹かれて来てみたんだが…」
続けて、辺りを見回しながらこう言う…。
青年
「あまりにも広ぇから、困惑してるとこだよ。」
屋台のおっちゃん
「そうだなぁ…。《ルナヴィータ王国》自体…かなりデケェから、その首都となると……右も左も分かんなくなっちまうよな…。」
「そうだっ!良いことを教えてやる…」
何かを思い付いた様に言い…快活な笑みで青年に話しかける。
屋台のおっちゃん
「この道の先を真っ直ぐいったら、デケェ建物が見えてくる。
そこが"夢追い人"の溜まり場…所謂、ギルドみてぇなもんだ…。
そこに行って、地図でも貰ってきな。あと、他の知りてぇ事も…色々教えてくれるはずさ!」
青年
「そうなのか?ありがとうおっちゃん。このお礼はまた後で…。」
屋台のおっちゃん
「おう!!そういや、お前さん…名前…なんて言うんだ……?」
青年
「俺はアルっ………。」
かつての兄が下町で使っていた、"リオ"と言う仮の名前が思い出される…。
青年(微笑みながら)
「リオ……唯のリオだ。」
屋台のおっちゃん
「そうかい!リオ。
また買いに来てくれよな!!」
リオ
「ああ!また来る。」
──それは、もう“アルセリオ”ではいられないと知った、ひとりの旅人の名だった。
***
ガチャッ……
荘厳な扉を開けると、様々な姿をした
"夢追い人(ドリームシーカー)"達が目に映る。
──まるで、あの頃の“黄金の日々”の幻を、別の形で見せられているようだった。
リオは迷わず真っ直ぐ進み…受付前で止まる。
リオ
「あの。少し…良いですか…?」
受付嬢
「はい。どうかされましたか…?」
リオ
「最近…ここへ来たばかりのものなのですが…先程こちらで…地図をいただけると聞きまして…」
受付嬢
「はい、地図ですね…。
少々お待ちください。」
???
「おっ?新入りか…?随分と若けぇな。」
カウンターで待っていたリオの後ろから陽気な声をかけてくる…。
その声の主は、大柄で日焼けした肌の青年だった。瞳は…獣のようにギラついている。
リオ
「あなたは誰ですか…?」
ヴィクトル
「俺の名はヴィクトル。《旋廻》のヴィクトルだ!!
これでも…そこそこ名が通ってるんだぜ?」
リオ
「そうですか…すみません。まだ詳しく無く…。」
ヴィクトル
「おう!別になんてこたねぇさ。それと、ここじゃあ
リオ
「…そうか。分かった。」
それから数分後、奥から先ほどの受付嬢が歩いて来た。
受付嬢
「こちらが、この街の地図です。」
リオ「ありがとう。代金は…。」
受付嬢
「いえ、こちらは無料で配布させてもらっているものなので、お代金は必要ありません。」
リオ
「そうか…。分かった。」
受付嬢
「それと…。ご登録はされておきますか…?」
リオ(振り向いて)
「なぁ、ヴィクトル…こう言うのは登録しておいた方が良いのか?」
ヴィクトル
「ああ!色んな国への通行証代わりにもなるから、商人じゃねぇなら、とりあえず登録しておいた方が色々と楽だぜ?」
リオ
「そうか…それじゃあ、登録してくれ。」
受付嬢
「はい、こちらがあなたの夢追い証です。」
リオはそれを受け取る。金属板には、見慣れぬ名前が刻まれていた。
──"リオ"。今の俺の、たったひとつの名前。
リオ
「これが夢追い証か。F 級…確かSまであるんだったか?」
ヴィクトル(誇らしげに)
「おうよ。…ちなみに、俺はそのS級様だぜ?
まぁ、最近なったばっかだがよ」
リオ(首を傾げる)
「そうなのか!…だが、そこまで強そうには見えねぇな。」
ヴィクトル(腕の筋肉を見せながら)
「おいおい。どうみたってムキムキのナイスガイだろ?」
リオ
「確かに筋肉は凄いな。…筋肉は。」
ヴィクトル
「ちっ。まぁ良いぜ?また今度、すげぇ強ぇとこ見せてやっからな!!震えて眠れよ!!」
リオ(楽しそうに)
「ハハっ!…ああ。楽しみにしとく。」
彼はそうして、ギルドを後にした。
──風の匂いが変わった。
ここから始まるのは、アルセリオではない"リオ"の物語。
***
──街中を散策しながら歩いていくと、趣のあるお菓子屋さんが目に入る…。
リオ
「"ケーキ"…か。
そう言えば最近、食べていないな…」
あの日の母の言葉が思い出される。
リオ
「よし。一つ買ってくるか…。」
「お邪魔しま〜す。」
ガチャッ…
リオ
「ショートケーキを一つ下さい。」
看板娘
「はい。ショートケーキですね。
お代金はこちらになります!」
リオ(代金を渡す)
「ありがとう。」
リオ
「あの…。
あそこの席で食べてもいいですかね?」
そう、リオは外側にある席を指差した。
看板娘
「はい!ご自由にお使いください。」
リオ(一礼)
「ありがとうございます。」
ゆっくりと椅子に座り、食べ始める。
リオ
「うん。美味しいな…。なんだが、懐かしい味がする……」
リオ(感傷に浸りながら)
「母さんのケーキ…食べたかったなぁ……。」
気づけば、頬を伝うものがあった。本人すら、それに気づくのが少し遅れた。
ふと、柔らかな魔力の気配と共に、一人の影が向かい席に現れる。
???
「なんじゃ?随分としんみりしておるな。」
そう、小柄な少女が話しかけて来た。
リオ
「お嬢さん…こんな所で何をしてるのさ。」
つい、レオ兄の口調が出る。
???(胸を張って)
「お嬢さん…。では無いわい!!
妾の名はソフィア!小僧が先程話しておうたヴィクトルと同じ…"S級"、《万象》のソフィア・ミニアスタルじゃ!!
今後はお嬢さん…などと言うで無いぞ」
リオ
「君もS級なのか…?戦えそうには見えないし…それ以上にまだ子供じゃ無いか…。」
ソフィア
「なぬぅっ!!これでも妾は千年以上、生きておるのだぞ?"人生の先輩"じゃぞ!!」
リオ
(まじか…この見た目で。…分からないものだな…)
リオ
「そうか…。すまなかった。…それで、ソフィア…先輩?で良いのか?」
ソフィア
「呼び捨てで構わんぞ?…それと、あまり見ない風貌じゃな…。"アスペリア皇国"由来……それも、かのイゼルロットの者かの?
ダグラス……あの子童によう似ておるわい。」
リオ
「……っ!?」
リオはその発言に、思わず椅子から勢いよく立ち上がった。
ソフィア
「そう警戒するで無い。別に取って食おうって訳では無いんじゃから安心せい。…ただ、少し前に会ったことがあるだけじゃ。ダグラスが、ちょうどお主ぐらいの頃にな。」
リオ(辛そうな顔で)
「……知ってると思うけど、俺はもうイゼルロットじゃ無いからな…?戻っちゃ来ねぇ。」
ソフィア
「ちと、ここに来て屈むが良い…。」
リオ「……?分かった。」
そう言われ、ソフィアの前で屈むと、急に抱きしめられる。
リオ
「………!!ちょっ!周りの視線が痛ぇだろ!?」
ソフィア(頭を撫でる)
「…良く…頑張ったの…。何かあった時には、妾を好きに頼って良いからのぅ?」
リオ「……分かった…。分かったから離せ…」
ソフィア
「ふふっ…。やはり…あのダグラスの息子じゃな…。思い詰めているとき、良くその目に出る。楽しそうにしておっても、どこか…辛そうにしておるのじゃ…」
スッ…と手を離し、リオに向かって微笑む。
リオ
「はぁ……。まぁ…ありがとな。頼らせてもらう時があるかも知れねぇ…。」
ソフィア
「うむ。存分に頼るが良いぞ!!妾は"お姉さん"じゃからな!!」
リオ
「ババアの間違いだろ。」
ソフィア
「何おぅ!!もういっぺん言ってみぃ!!良いか…?妾は…お・ね・え・さ・んじゃ!!」
リオ
「ふふ……はははははっ!!」
ソフィア
「うむぅ……。……ふふっ。そんな顔も出来るんじゃな…。
ダグラスよ…お主の意思…しかと受け取ったぞ…。(ぼそっ)」
──街角に響く…その笑い声は、小さくとも、確かに“希望”の音色だった。
***
カランカラン……
──様々な声が飛び交う何処かの酒場にて…。
大柄な女
「マスター…いつものを頼む…。」
扉が開くと共に、北風が一筋、白い息のように差し込んだ。
ぴんと張り詰めた冷気が、木の床を這い、火の気すら一瞬で静まる。
それでも、客たちは黙々とグラスを傾けていた。雪国の夜に、静けさはつきものだ。
華奢な男
「ははっ。君…誰だい?いつものガサツさはどこに行ったのかな〜〜?」
大柄な女
「こういうものは雰囲気に合わせるものだと…"アンタレス"の奴から聞いてな?試して見たんだが…ダメだな。性に合わん。」
華奢な男
「それが良いよ…。僕もそっちの君の方が好きさ。イキイキとしてるからね。」
大柄な女
「ほぅ……この俺に惚れちまったか?」
華奢な男
「馬鹿言わないでよ。君のどこに惚れる要素があるのさ。雑魚は君とは釣り合わないし、強者も君を見ると怖気づいちゃうでしょ?
そういう事と君は、縁が無いんだよ。」
大柄な女
「ハハっ!…違いない。……それで?こんな所に呼び出して…一体何の用だ?」
華奢な男
「まぁ…そこまで重要な事では無いんだけどさ。少し…手伝って欲しい事があるんだ。」
大柄な女
「聞かせてみろ…。
聞いてやらんことは無い…。」
華奢な男
「へいへ〜い。ありがとうございまぁ〜〜す。」
二人の声は、やがて他の喧騒と混ざり合い、酒場の空気へと溶けていった──。
***
──大陸最大の大森林の一角で…二人の男が探索を続けている。
ヴィクトル
「…それでよ?酒場のねぇちゃん…この俺に惚れてる気がするんだぜ。」
リオ
「はいはい。良い男だな…で、何回言うんだ?それ。もう聞き飽きたぞ。」
ヴィクトル
「ハハっ!いいじゃねぇか、兄弟!!減るもんでもねぇしよ?」
ヴィクトルはそう言って、リオの肩に手を掛けてくる。
リオ
「やめろっ。…それに、俺はヴィクトルと兄弟になった覚えはねぇ。」
ヴィクトル
「連れねぇな?…まぁ、それはおいといて……っ!!」
ドタッ……
ヴィクトルは槍を投げ、物陰に隠れていた魔物を即死させる。
リオ
「…良く気付いたな…。それに、どっから出したんだ?その槍。
何も手に持って無かったろ?」
ヴィクトル
「これは俺の固有スキルだ。【
ヴィクトル
「すげぇだろ?…見た目じゃわかんねぇが、全部この服に“畳んで”持ち歩いてんだよ。
だから、デケェ武器を担がなくても済むってわけさ。」
リオ
「地味だな…。まぁ、だからこその拡張性か…。それで?ヴィクトルみたいなS級は…みんな固有スキルを持ってんのか?」
ヴィクトル
「おうよ!まぁ…俺が固有スキルの内容を知ってるのは二人ぐらいしかいねぇな。能力を知られるっつうのは危険だ。だから、親しい奴にしか基本教えねぇ…」
その一言で、少し空気が重くなる…。
リオ
「そうか…。なら、聞かない方がいいな。」
ヴィクトル(けろっと)
「いんや?兄弟になら教えても問題無ぇと思うぞ?アイツらなら、兄弟の事は気に入るだろうからよ。」
リオ
「……お前、マジでその“兄弟”って呼び方やめろ。ゾワッとすんだ。…だが、その二人の話は聞きてぇな。」
ヴィクトル
「了解!!それじゃあまずはアイツからだな。」
ゴホンッ…と息を整え、話し始める。
ヴィクトル
「《業魔》のダガン。奴に固有スキルは無ぇ。」
リオ(訝しむ)
「はっ?知ってる"固有スキル"って言ってたじゃねぇか。早速無いってどう言う事だ?」
ヴィクトル
「それがよ…。アイツは身体能力が優れてる訳でも…高度な魔術が使える訳でもねぇ。
ただ…奴が使えるのは《魔弾》。魔導士の間では“学び始めの練習用”とまで言われる代物で……それを極めてS級ってんだから、あいつは本物だ。」
リオ
「なるほど、その魔術だけを極めて…S級の座に登り詰めたって訳か。」
ヴィクトル
「まぁそうなるな。だが、奴の《魔弾》はそこいらのもんと違い…。
魔力を固めて撃つだけじゃなく…変形させたり、軌道を変えたりと…すげぇ多彩だ。あとは…」
リオ
「……?」
彼の顔が少し強張り…。
ヴィクトル
「数が多い…。それも異常なまでにな。…普通、魔術で生み出せるもんは一回の詠唱で一つまでだ。それは分かるな?」
リオ
「ああ。知っているとも。」
ヴィクトル
「だが奴の場合…。軽く五桁は出せる。それも全部、まるで生きてるかのように自在に動かしてきやがる。
──あれは、もう魔術じゃねぇ。一種の災害だよ。」
リオ
「……はっ!?5桁って…いくら極めたって言っても限度があるだろ…。
その上並列操作まで…魔導師はみんなそうなのか?」
ヴィクトル
「アレがおかしいんだよ…。世界中何処探したって、アイツほどの数を一度に出せる奴はそういねぇ…。正真正銘のS級さ。」
リオ
「確かにS級の格だな…そりゃ。それで?もう一人は誰なんだ…?」
ヴィクトル
「それはな…?」
ヴィクトルが続きを話そうとしたその時…。
ドゴーーーーーーーーン!!!
リオ&ヴィクトル
「……っ!?」
リオ
「ヴィクトル…今の…。」
リオは、すぐにヴィクトルの方を見たが、そこに彼はもういなかった。
***
タッタッタッ……
男はあたりを見渡しながら、一陣の風がごとく疾走する。
ヴィクトル
(確か…こっちから音がしたよな)
キィンッ…ガァンッ
壮絶な戦闘音が響き渡る。どうやら、もう近くまで来ている様だ。
ヴィクトル
「…見つけた。」
ヴィクトルは目の前の光景に戦慄する…。
ヴィクトル
「おいおい…何であんな奴がこんな浅ぇ所に居やがんだぁ……?」
先程まで人であった"モノ"を見て、ヴィクトルは嫌な気分になる…。
カチッ…(何かを押す音)
遅れて…リオが到着する。
リオ
「はぁ…はぁ…。やっと…追いついた…。」
「おい…そんな顔してどうしたんだ?」
ヴィクトル
「兄弟…あれを見てみろ。」
リオ
「…だから、それはやめろっ……て?」
リオはヴィクトルに呼び方を改める様、言おうとするが…あるものが目に写る。
グルルルルッ……
彼の目線の先には"ソレ"が居た。
紅く光る眼光…見上げる程の体躯…かすっただけでも致命傷になる程の鋭い爪。
そう…かのお伽話にも登場する、一体のS級魔獣…"ベヒモス"である。
リオ
「あれ…倒せるのか…?ヴィクトル。」
ヴィクトル
「いや…一人じゃキツイな…俺もS級とはいえ、まだ昇格したばかりだ…。流石に荷が重い。」
リオ
「そう…だよな。…せめてあと一人でも居れば…」
その巨体が、ゆっくりとこちらを向いた。
次の瞬間、空気が張り詰める──。
ベヒモス
「…………」
ヴィクトル
「横に跳べっ!!」
その合図と共に、二人は左右に思いっきり跳ぶ。
ドォーーーンッ!!!
先程二人が"居た"場所は…その音と共に崩れ去る…。
リオ
(近づかれた事にすら気付かなかった…ヴィクトルの掛け声が無ければ…今頃お陀仏だったな…)
ヴィクトルは大声でリオへ指示をする。
ヴィクトル
「お前、右から回れ!俺が囮になる!」
リオ
「分かった!…けど、死ぬなよ!」
ヴィクトル
「そっちこそ!俺の“兄弟”だろ?」
リオ
(クソッ…俺がもっと強ければ…)
ヒュンッ……
──風が吹いた。
まるで、その渇望に応えるかのように──。
ヴィクトル
「…来たか。意外と早かったな…
木の陰から姿を現したのは、一人の男。
蒼い外套をまとい、凛とした眼差しを宿した青年。
その目は──真っ直ぐ、
蒼
「……あたりを見回って来たけど、増援は来なさそうだね。ホント、勘弁してよね〜、ボク…意外と忙しいってのに…。」
ヴィクトル
「そういやぁ…今は『
確か…北方の国にあったよな…」
蒼
「そだよ〜。ヴィクトル"クン"が、さっき…ボクに合図を出したでしょ〜?
それに気づいたから、ここまで飛んで来たんだよ〜〜…」
ヴィクトル
「流石だな…。【カルレラ共和国】からここまで…相当距離があるだろ?それをこの速度で到着できるのは…蒼ぐらいなもんだろ。」
「それと、あれ…任せられるか…?」
ヴィクトルは、ベヒモスの方を見てそう言う…。
蒼
「大丈夫。もう終わってるさ…。」
ベヒモスの頸部に、蒼い閃光が駆け抜けた痕跡が残っていた。
時間差で、ドンッと音を立てて崩れ落ちる。
リオ
(……斬られた、のか? いつ……?)
ヴィクトル
「速ぇな…。全く…どうなってやがんだよ……。
おいおい、ここまで強ぇ奴はお前ぐらいじゃねぇのか?」
蒼
「そうだね。確かに腕に自信はあるけど…ボクよりも強い人は…少なくとも二人はいるよ。」
ヴィクトル
「マジか…。世界は広ぇもんだな…。…それで?怪我は無ぇか?リオ。」
リオ
「大丈夫。無傷だよ…。それで…彼は…?」
目線をやると…リオに気づいた様にして、こちらに向き直る。
蒼
「ああ。キミとは初めましてだね。ボクの名前は朝霧蒼。見慣れないタイプの名前だと思うけど気にしないで。ほら!次はキミの番だよ!」
リオ
「あっああ、俺の名前はリオ。駆け出しの夢追い人だ…。これからよろしく頼む…」
蒼
「うん!ヨロシクね!!…それじゃあ!ボクはまだ他に用があるから…帰らせてもらうよ。」
ヴィクトル
「おう。…今度、お礼に何か奢るぜ。」
蒼
「ホント!?…言質…取ったからね?あとでキャンセルは無しだよ!!」
「それじゃあ、あとは二人で後始末よろしく〜……あ、そうそう。
さっきの魔獣、たぶん群れの“偵察個体”だよ。……もしかすると来るかもね、“本体”が。」
ヒュン……
風が吹き抜け、彼の姿はもうどこにもなかった。
ヴィクトル
「音も立てずにいなくなるとは…相変わらずだな…。」
リオ
「さっきの人がもしかして…」
ヴィクトル
「いや。あれはまた別だ。そもそも夢追い人ですらねぇからな。」
リオ
「そっか…。あと、さっきの声…マジで助かった。ありがとう………兄貴。」
ヴィクトル
「おう。当然の事をしたまでさ!
……ん?今…兄貴って……。」
リオ
「……言ってない。」
ヴィクトル
「いんや!聞こえたぜ!?俺の聴覚を舐めてくれるなよ?千里先の声だって聞き取れるんだからな!!」
ヴィクトル
「もういっぺん聞かせてみろ?なっ?」
彼はニヤニヤしながらそう言う。
リオ
「…もう言わねぇ!
ふざけて無いでさっさと帰るぞ!」
ヴィクトル
「そんな怒んなって…。ほら…これ。美味しそうな飴ちゃんだぜ?」
リオ
「要らねぇよ。」
賑やかな話し声が森の静けさに響き渡る。
***
──大きな広場の噴水のそばで、人々が足を止め、まるで水面に浮かぶ落葉のように、音もなく集まっていた…。
人々が立ち止まり…息を潜める様に耳を傾けている。
リオ
(…ん?なんだ…?祭りでもしてんのかな。)
リオは、まるで吸い寄せられるようにして、その輪の中心へと足を進めていた。
露天の呼び込みも、子供の声も、まるで遠くなった様に思える。
そして、その中心にいたのは──、
一人の男。薄い灰色のマントを羽織り、長い髪を風に流し…膝に載せたリュートを静かに奏でながら、淡々と語っていた…。
吟遊詩人
「聞け、旅人たちよ。これは遥か昔、
世界がまだ、
混沌とした闇に包まれていた時代──
七つの大罪を犯した"獣"と、
七つの祝福を与えし"天使"が居た…。
かの者らは…互いの因縁の元、天地を分かつ
"衝突"を起こす…
──その者らの"衝突"は、大陸全土に波及し…世界全土に響き渡る、激動の時代の始まりとなったのだ…。
──だが、その二つの勢力の間を斬り裂く様にして、一人の男が沈黙を与える。
その後、天使は天界へ戻り…七つの獣は、各々…大陸そのものを牛耳る様になる。
されど、暗き獣を討ち払い、この地に光をもたらした者が居たという──。
そう、かの有名な童話の主人公…
"黄金の剣士"──勇者レオニダスである!!」
リオ
(懐かしいな…昔良く父さんに読み聞かせてもらってたっけ…。)
吟遊詩人
「──彼はかの、
【星霜の導き手(ル・エトワール)】の一員である、
《眞星》アンタレス
《骸星》ダイモス
《神聖レノヴァ帝国》の現教皇
アニューゼ
──そして、
《賢者》ソフィア
この者らと共に、七大罪獣を魔界へ閉じ込めるための…強大な結界を築いた…。」
リオ
(ん?今ババアの名前が出たか?もしや…いや流石に無いか?)
大声の大人
「さっすが!勇者レオニダスだな!!」
冷静な青年
「俺はどちらかっつうと、沈黙を与えた男の方が気になるな…」
知的な婦人
「確か…今も生きているんじゃ無かったかしら…クロノス…?のリーダーって話よ。」
元気な青年
「俺も聞いた事あるぜ!!東雲暁…とか言う奴だろ?」
吟遊詩人の話に、各々考えを吐露する…。
吟遊詩人
「だが今…その結界が少しずつ"限界"を迎えようとしている…。」
リオ
(なんだ?そんな所は知らないぞ?)
吟遊詩人
「全てを呑み込むさまは…【黒喰の獣】が如く…
《暴食》グルトニア・エレボス
──!」
「【業火の咆哮】が轟く大地は…いづれ、かの者の憤慨に呑まれる…
《憤怒》マルドュク・インフェルノ
──!」
「惰性を貪る【深淵の眠り主】は…その双翼を広げ…己が存在を証明する…
《怠惰》レヴィウス・ソムノス
──!」
「【虚栄の天上王】は天をも見下す…
《傲慢》ルキフェル・オラシオン
──!」
「幻想を糧とする【羨望の呪姫】、
《嫉妬》リリス・ネクロリア
──!」
「渇望せしは…【皇帝】の
《強欲》カエサル・ヴェルミス
──!」
「【夢喰の花姫】…逃れた者は未だ現れず…
《色欲》アスモデア・セレネ
──!」
吟遊詩人
「──かの者らが遺す懐疑の種は…数千年の時を超えて…大樹へと化す…。
かつての寓話が現実と"成る"だろう!!」
まるで夢を見ていたような顔で…誰もが動けなかった。
──次の瞬間、誰かが息を呑んだ音が聞こえた。
ゴンッ!!!!!
周囲が響めく…。
リオ
「……っ!?…まさか!!」
その方へと目を向けるが…既に吟遊詩人の姿はなく、灰色のマントだけが地に伏していた…。
必ず周囲の視線を浴び…最後には灰色のマントだけが残される…。
童話の本に現れる"語り部"と…まったく同じ去り方だった…。
***
見慣れた顔の男が走ってくる…。
ヴィクトル
「おい…リオ。さっきの音、聞いたよな…?」
リオ
「ああ。おそらくだが…魔獣氾濫だろうな。どのくらいの規模かは分からないが…」
リオ
(…吟遊詩人の語っていた“大罪の獣”。まさかあれが、本当に…)
ソフィア
「なかなかの大規模じゃな。」
ヴィクトル
「………!?」
(音も立てず、二人の横に小さな女の子が立っていた…)
リオ
「良く分かるな…ババア。歳は食ってても、耳は腐って無いらしい…」
ソフィア
「じゃからババアじゃ無いと言うておるじゃろう…。それに、歳の話はレディにするものでは無いわい…。」
リオ
「ハンッ。"レディ"ねぇ…」
ソフィア
「なんじゃ…???」
ヴィクトル
「まてまて…。リオ、かの《万象》ソフィア・ミニアスタルと知り合いなのか!?
それもここまで親しく…」
ソフィア(笑顔で)
「ぬっ?お主は…最近S級になった。《旋廻》のヴィクトルじゃったか?お主こそ小僧と仲が良いのじゃな。よろしく頼むぞ。ヴィル坊。」
ヴィクトル
「よろしく……お願いしやす…」
(いつもより辿々しく言う)
リオ
「どうした?ヴィクトル。元気が無いな?」
ヴィクトル
「おい、リオ。ちょっとこっち来い。」
リオ
「……ん?なんだ?」
ヴィクトルはリオと少し離れ、小声で話し始める。
ヴィクトル
「…おまえ。何処であの人と知り合った…?」
リオ
「ババアとはそこのお菓子屋で会ってな。今ではこんな仲だ。」
ヴィクトル
「どんな仲だよ!」
ヴィクトルは思わず、大きなツッコミを入れる。
ヴィクトル
「お前はここに来てまだ浅いから良くしらねぇだろうがよ…。
──《万象》と言やぁ…夢追い人の中でも屈指の実力で、同じS級がまとめてかかっても…勝てねぇ様なお人なんだぞ…?」
「まぁ、S級自体は数少ねぇがよ。」
(迫真な表情で)
「とにかく、そんな呼び方をするんじゃ無い…。俺の心臓が持たねぇだろっ!」
リオ
「別に良いだろ。ババアは神か何かか?本人も血の通った人間なんだから、そんな事続けてっとそれなりに傷つくと思うぞ?」
リオ
「あれで結構寂しがり屋だからな…ババアは。」
珍しく心配をする様に言う。
ソフィア
「おい。そんな事をしている暇はあるのか…?刻一刻と状況は悪化しておるぞ…」
「それと…先程から話しておることも、しっかり聞こえておるからな?」
ボカンッ…
大きな音を立てて拳骨が入る。
リオ
「痛ってぇーーー!!何すんだババア!!」
ソフィア
「お主の自業自得じゃろ?
妾のせいにするでない。」
ヴィクトル
(あの冷徹で有名な《万象》も、あんな顔をするんだな……)
その笑みには…幾千の死線を越えた者だけが持つ、優しさと覚悟が滲んでいた。
…まるで、全てを見通しているような眼差しのだった…。
***
――辺境ではない。
ここは、ルナヴィータの中心たる王都だ。
その都の周囲に今、異形の影が蠢いている。
大小様々な魔獣が、虎視眈々と王都を狙っている。
瘴気に満ちた風が吹き抜け、空気が濁る。鼻腔に刺すような腐臭が、肌にまとわりつく。
その中には…C級はおろか――
A級、S級と分類される災害級の魔獣すら混ざっていた。
ヴィクトル
「おい、マジで言ってんのかよ…。
この前のベヒモス討伐から、まだ三日も経ってねぇぞ?
やっぱおかしいんじゃねぇか?この国はよ……」
唾を吐き捨てるように言いながらも、
ヴィクトルの目は鋭く、剣の柄から手を離さない。
ソフィア
「……この瘴気、懐かしい気配がするの……」
ソフィアの長い髪が、微かな風にたなびく。
その眼が虚空を見つめたまま――ひとつ、過去を視た。
それは……かつて、滅びかけた王国に現れた“何か”。
歴史から消されたはずの、黒き災厄の記憶。
あの時と同じ波動。……いや、それよりも遥かに濃く、深く、禍々しい。
リオ
「とりあえず…雑魚共はババアに頼めるか…?」
ソフィア(訝しむ)
「ほぅ…?大きいのでは無いのか?」
リオ
「ババアが一番殲滅力あるだろ?適材適所ってやつだ。」
ヴィクトル
「俺はどうすりゃ良い?あまり過度な戦力は期待すんなよ?」
ソフィア
「確か…ヴィル坊の固有スキルは
ヴィクトル
「なんで知ってんだ?教えたこたぁ無いはずだが…。」
ソフィア
「なに…。ただ"分かる"だけじゃ。妾も伊達に長く生きとらんからの。」
ヴィクトル
「なるほど…お見通しっつう訳か。」
ヴィクトル
「それで…?リオ。俺たちだけでどうにか出来んのか?
ベヒモスにだって敵やぁしねぇぞ?」
リオ
「そうだな…この国に優秀な騎士団や魔導士がいるとはいえ…災害級(S級)はどうしようもねぇか…」
リオ
(一体ならどうにかなりそうだがな…)
「なぁ…。ババア…。それとヴィクトル。知り合いで、協力してくれそうな奴はいるか?」
ヴィクトル
「……。ダガンのやつならワンチャン…。あと、蒼は…流石に無理そうだな。」
ソフィア
(蒼…?もしや朝霧蒼か…?あやつ、消息を絶ったと思うておったが…意外な繋がりじゃな)
「妾も居らんの。まぁ強いてゆうなら…トリスの奴かのぅ…」
リオ
「トリス?知ってるか?ヴィクトル。」
リオは目を丸くして問う。
ヴィクトル
「俺の勘違いじゃ無いと思うんだが…トリスって、【
──トリス・アムレートじゃねえだろうな?」
リオ
「レクトって…たしか…《神聖レノヴァ帝国》に属する、人間種の最高戦力とか言われてる…」
ソフィア
「その通りじゃぞ。まぁ、来れぬと思うがな…確かあやつは今、仕事中じゃと思うからの…」
ヴィクトル
「マジかよ…。
どこまでスゲぇんだあんたは…」
ソフィア
「ちと、見識の広いお姉さんじゃよ。」
リオ
(お姉さんって…物は言いようだな)
ソフィア
「今何か失礼な事を考えたかの?」
リオ
「誠に申し上げございません。」
ソフィア
「よろしい!」
ソフィアはふんっと鼻を鳴らす。
リオ
「それじゃあ、とりあえずやるか。」
ヴィクトル
「早速ダガンに合図をしておいたが…来てくれるかは分からん。」
リオ
「…当てにしないでおこう。」
ソフィア
「小僧、分かっておると思うが…奥におる個体は最も注意すべき相手じゃ。心してかかれよ?
目があった時、全力で逃げなければ、お主らでは確実に死ぬじゃろうからな。」
リオ
「ああ。肝に命じておく。それと、ババア…ヴィクトル、少し耳を近づけろ…」
そう言うと、二人に、リオは何かを囁く。
リオ
「行くぞ。最善を尽くそう…。」
みな、各々の戦場に散っていった。
***
ドオーーン!!ガァーーーン!!!
数が多い魔獣だが…ルナヴィータ側の広域殲滅魔術にて、着実にその数を減らしている。
ソフィア
「うむ、やはりこの国の魔導士達は優秀じゃの。」
感心しながら、ソフィアは魔獣の方へと向き直る。
ソフィア
「さて、妾も、ちと…大きいのをぶつけてみるかの…」
その瞬間、膨大な量の魔力が一点に集まり、あたりへ伝播する…。
──何処かの深淵で…
???
(この魔力量…おばあさま…?)
ソフィア
「《
そう言うと…練り上げられた"ソレ"は…ゆっくりと森へ落ちていく…。
ドォーーーーーンッッッ!!!!
先程まで跋扈していた魔獣ごと…森に大きな窪みが出来る。
それを見た王国魔導士団の面々が、口々に吐露する。
エリート魔導士
「なに…あれ…。威力が桁違いじゃない…。
さすが…《万象》のソフィア・ミニアスタルね…」
一般魔導士
「天才魔導士…か。これ、俺達の出番…あるんすかね?」
指揮官
「黙って迎撃を続けろ…。我々まで呆気に取られてどうする…。」
指揮官
(彼女一人いれば、戦局が変わる……本気でそう思えてしまうな。)
先程の魔術が残した痕跡を見ながら、ソフィアは気まずそうにしている。
ソフィア
「…やりすぎたかの……?」
「まぁ…地形を戻しておけば良いか。」
また…ソフィアの周りに魔力が集まり、
ソフィア
「《
森に出来た窪みが…何事も無かったかの様に元の姿を取り戻す…。
ソフィア
「これで良し…じゃな。……っ。流石に使い過ぎたわい…。ちと休ませてもらおう…」
彼女は疲れた様にフラフラとその場にへたり込みながら、しばしの休息を取る。
***
一方その頃、リオとヴィクトルは、ある場所を目指し、駆け抜けていた…。
ドォーーーーーンッッッ!!!!
あたりに凄まじい衝撃が響き渡る…。
リオ
「……やってんな、ババア。」
ヴィクトル(呆れながら)
「相変わらず…エグいねぇ〜…」
リオ
「このまま、雑魚はババアとこの国の奴らに任せておいて…俺たちは奥のをやるぞ。」
ヴィクトル
「……っ!?さっきソフィアさんに忠告されたってのに、やり合う気か!?」
リオ
「当然だ。この魔獣氾濫――アレを倒さなきゃ終わらない。」
ヴィクトル
「まさか…。この魔獣共はアレの瘴気から生まれたってのか?」
リオ
「その通りだ。まぁ所謂、
ヴィクトル
「…なるほど。だがよ、この前のベヒモスすら倒せねぇってのに、どうやって殺る気だ?」
リオ
「どんな強敵だって、必ず弱点がある…と思いたい。」
ヴィクトル
「せめて言い切ってくれよ…」
リオ(咳払いをする)
「ゴホンっ。…今回はおそらく…七大罪獣の一角…その残滓か何かだろう…。…となれば…」
ヴィクトル
「"聖属性"か。でも俺らはそんなもん使えねぇだろ?どうすんだ?」
リオ
「"聖属性"は使えなくても、それに近い"もの"は使える。そうだろ?」
リオ
「それに……。いや、なんでも無い。」
ヴィクトル
「………?」
リオ
「少し…魔術には心得があってな。まぁ俺自身が使える訳じゃないんだが、ヴィクトルの力を借りればなんとかなるはずさ。」
ヴィクトル
「俺も簡単なもんしか使えねぇぞ?」
リオ
「出力量に限度はあっても、魔力は大量に持ってるだろ?起動するだけで良い。」
ヴィクトル
「そうかい。…分かった。……それで?実行に移すまではどうする?そもそも攻撃すら捌けねぇかもだぜ?」
リオ
「避ければ良い。」
ヴィクトル
「簡単に言うがよ…。それが出来りゃあ苦労はしねぇぞ。」
リオ
「俺が指示を出す。ヴィクトルはただそれに従ってくれるだけで良い。」
ヴィクトル
「へいへい…。とりま、やってみるしかねぇか……」
リオ
「頼んだぞ…兄貴。」
ヴィクトル
「……おうよ。」
***
………。
──大森林の奥地で、"ソレ"は目を覚ます。
あるはずがない…その、"鼓動"。
…生まれ落ちる事すらも"偶然"の産物であった。
ソレは一瞬にして"理解"する。
──自らが強大な存在の"残滓"なのだと…。
それでも…自らの命を失いたくないと願う、生物としての"本能"も…その身に存在していた…。
…………ッ!
ソレは…二人の人間の気配を感じ取り、自らの奥底で蠢く“狂気”に突き動かされる……。
ザザッ……
ヴィクトル
「見つけたぜ。デカブツ…。」
リオ
「ヴィクトル、手筈通りに。」
ヴィクトル
「分かってる。」
二つの運命を歩む者は、初の邂逅を果たす。
武器を手に取り、緊張を見せながら
"見上げる者"と…、
己が肉体を震わせ、余裕の笑みを見せながら
"見下げる者"…。
その間に生まれた静寂は…ソレの手によって引き裂かれる…!!
グルルルラァァァァッッッ!!!!
ソレの咆哮が大地を揺らす…。
ヴィクトル
「……来い!!」
ソレが勢い良く飛びかかってくる!
リオ
「右、左、跳べ!」
ドン!ドン!!ドォン!!!
前脚の2連撃、最後の噛みつきに至るまでを避け、上空からその刃を突き刺す。
ガンッ!!
ヴィクトル
「ちっ…かってぇな。」
ギロッ……
ソレの眼がこちらを向く…。
リオ
「後方へ力を抜け!!」
ブゥンッ!!!
ヴィクトル
「……っ!!」
死角から尾の攻撃が飛んでくるが、
──ヴィクトルは体をのけぞらせて、なんとか回避する…。
ソレは尾の勢いを利用し、反転しながらもう一度…右前脚を振りかぶる!
ヒョイッ……
ヴィクトルは槍を地面に突き刺し…伸ばす事で、それを躱わし、地に足を着ける。
タタッ……
グルァァァァァアッ!!
ソレは痺れを切らし…ヴィクトル目掛けて大量の魔力の塊をぶつける!
リオ
「左、前、右、右……止まって反転、左……よし、今だ!!」
ヴィクトルは一気に懐へ飛び込み、叫ぶ。
ヴィクトル
「おぅらあ!!!!」
槍を槌へ変形させ、思いっきりカチ上げる。
ドゴォオオンッッ!!!
………ッ!!
上空に吹き飛ぶが…その巨体を上手く捻りながら体勢を整え、もう一度…今度はリオ目掛けて放つ。
フィーンッ……
奇妙な音と共に大量の魔力の塊が、ソレに向かってくる!?
………ッ!!
驚いているソレの瞳の先に、リオが映る。
リオ
「《
戦闘直前…二人はある会話を交わしていた。
─────
リオ
「良いか…?アイツの攻撃は速ぇだろうから、いちいち長く言ってられねぇ。
だから、俺が右とか左とか言ったら、一歩…その方向へ進め。」
ヴィクトル
「おう。…だが、お前が狙われたらどうする?分かってても避けらんねぇだろ?」
リオ
「安心しろ。魔術を使えばなんとかなる。」
ヴィクトル
「魔術…使えねぇんじゃ無かったか?」
リオ
「俺は魔術を使えねぇが"知識"はある。俺が魔術を使う時は、ヴィクトルの体を介して発動させるから…頼んだぞ。」
ヴィクトル
「なるほど…分かった。」
─────
ソレは改めて…リオを危険視する。
リオ(ニヤリ)
「そう睨むなよ…照れるだろ?」
「さ〜〜て、振り出しだ。気張ってくぞ?」
ヴィクトル
「………おうっ!!」
ソレは馬鹿ではない。故に、避けられると知れば、無駄な力を使わない。
グルルル……
──しばしの睨み合いが続く。
ソレは初めて、
己が身に宿る"能力"を使った。
スゥ……
ソレは姿を消し、高速で移動し始める。
ヴィクトル
「消えた……か。どうする?見えねぇんじゃあ、どうしようもねぇぞ?」
リオ
「走るぞ、ヴィクトル。」
ヴィクトル
「は…?」
リオ
「俺について来い!!」
リオはそう言ってすぐさま走り出す。
タッ…タッ…タッ
ヴィクトル
「追いかけては来てるんだろうが…どうして攻撃を仕掛けてこねぇ?」
リオ
「機を伺っているんだろう。このまま走るぞ」
右へ曲がるかと思えば左へ、不規則な動きをしながら走る。
ヴィクトル
「おい、どこへ向かってんだ?終わりが全く見えてこねぇんだが……」
リオ
「安心しろ…"整った"。」
ヴィクトル
「……?」
リオはヴィクトルと地面に触れ、こう唱える…。
リオ「《
ブゥンッ!!!!
森の広範囲に…綺麗な円形の陣が現れる…
そして…ソレもたまらず姿を現す。
グルゥ……
ヴィクトル
「こりぁ…すげぇな。」
リオ
「《写し世(ハドマヤ)》……。
神聖系と似通った性質を持つ、闇を写し出す古代の術陣だ。」
「さぁ…小細工はお終いとしよう。ちったぁ見下す気が失せたか?デカブツ。」
…………ッ!!
ソレはかつてないほどに感情を露わにする。
リオ
「そんな顔も出来んだな…。随分と楽しそうじゃないか…」
グルルルラァァァァ!!!!!!
今までで一番の咆哮を上げると…。
ゴッ!!
ヴィクトル
「………がっ!!!」
ドンッ!!!!!
ヴィクトルは木に思い切り叩きつけられる。
ヴィクトル(額から血を流す)
(速ぇ………全く追えなかった…一体…俺は何に飛ばされたんだ…?)
リオ
「影が…実体を持っている……?」
その影は…地面に触れた瞬間、木々を腐らせるように侵食し…ゆっくりと、だが確実に、こちらへ迫ってきていた。
リオ
(見ただけでわかる…触れたら一発でアウトだな…近づきすぎてもダメらしい…)
リオは少し考え込む…が、すぐに結論を出し…ヴィクトルに指示を送る。
リオ
「ヴィクトルッ!!!最初の場所に戻るぞ!!」
ヴィクトル
「了解っ!!!!」
そう言うと、ヴィクトルはリオを抱き上げて、全速力で駆け抜ける…。
………ッ!!
すかさず、ソレも後を追い始める…。
ヒュンッ……
ザザッッッ……
始まりの地点へ帰り…リオはニヤリと笑う。
リオ
「もう…あんま相手にしてる暇はねぇからよ…始めんぞ?」
リオはもう一度、ヴィクトルと地面へ触れ、術陣に魔力を供給する。
ヴィクトル
「さっきと同じ奴で良いのか?ダメージも満足に与えらんねぇだろ。」
リオ
「それで良い…。奴のガードさえ破ればな。」
リオ
「行くぜ!?
……《神託の映影(レヴェラティオ)》!!」
リオは先程と違った術陣名を言葉に出す。
ファーーーーン!!!!
──すると、あたりを強烈な閃光が照らす。
………ッ!?
ソレの影と纏っていた異質なオーラが跡形もなく消える…。
ヴィクトル
「良し!!あの影が消えた。
…だが、光らせただけか?」
グルルルラァァァァ!!!
同じ位置…同じ角度で、ソレはまた…リオ達に向かって飛びかかる!
ヴィクトル
「リオ!!」
ヴィクトルは咄嗟にリオの前で武器を構える
──だが、リオは冷静に返す。
リオ
「いや……俺らの勝ちだ…。」
ヴィクトル
「は?そりゃどういう……」
月明かりを遮るように、一つの影が現れる。
???
「完璧じゃ。…小僧。」
「《
──瞬間、白き閃光が空を斬り裂く。
グルルルラァァァァ!?!?
けたたましい悲鳴と共にソレの肉体が呆気なく消え去った…。
???
「神聖系統魔術の最高位である《神罰》…お主のような半端者には致命的じゃろ?
──まぁ、真っ直ぐにしか放てんから、普通は避けられるんじゃが…」
リオ
「まったく…遅いじゃないか。ババア。」
ソフィア
「あたりの魔獣を生まれるよりも速く、あらかた片付けたからのぅ。仕方が無かろ…?」
ヴィクトル(呆れながら)
「あん時のソフィアさんに囁いてた事ってこう言うことかよ…だが、どうやってここが?」
ソフィア
「小僧の放った光のおかげじゃ。1度目の獣を打ち上げた場所でもう一度光を放った…。それだけあれば特定出来るわい。それと、
《神罰》は…魔の気配が完全に剥がれた時でないと、正確に撃てんのじゃが。
小僧の光が…それをやってくれたからの。」
ヴィクトル
「そう言う事か…だがよ…リオ。最初から何かを準備してたのが、《写し世》っつう術陣だってこたぁ分かったんだが、
──なんで同じ陣で別の術陣を使えたんだ?」
リオ
「良く見てみろ…本当に同じか?」
ヴィクトルはそう言われ、あたりを見回す。
ヴィクトル
「なるほど…逃げ回ってた時に不規則に見えた動きが…実は”術式の座標”を描いてたわけだ。
光に誘われて動く奴を、まるでペンのように使ったってことか…!」
リオ
「その通りさ。奴が闇と同化した時、奴の体からは膨大な魔力が漏れ出ていた。だからそれを利用し、"規則的"に移動させる事で、陣を書き換えていたんだよ。
んで、最後に最初の場所に戻る事で、別の術陣が完成する。
──つまり、一度…未完成の状態で保留にしておいた術陣と繋げて、別途で起動した訳だ。」
ソフィア
「まったく、良く考えるのぉ…。感心させられるわい。」
ヴィクトル
「俺はてっきり、リオと俺だけで倒すのかと思ってたぜ…」
リオ
「最初から俺たち"だけ"で倒すとは言ってねぇだろ?」
「ほら、さっさと帰るぞ?」
ヴィクトル
「へいへい。軍師様。」
リオ
「なんだそれ?揶揄うなよ…」
ソフィア
「ほれほれ〜軍師サマ!」
ソフィアはリオの体をつつきながら言う。
リオ
「まったく…ババアまで…」
──リオは手を顔に当てて、ため息をつく。
ソフィア
(…やはり、ダグラスの奴と癖が同じじゃな)
***
静かな広い部屋で、一人の男が座していた。
???
「さて、魔獣氾濫はどうなったかな?出来るだけ早く鎮圧出来れば良いんだけど…」
頬杖をつきながら、ステンドグラスから入ってくる日差しを眺める。
コンコンコンッ……
???
「入れ。」
ガチャッ……
冷静な伝令兵
「先程の魔獣氾濫について、ご報告致します。」
???(声を少し下げ)
「魔獣の勢力はどうだ…?偵察班の手に入れた情報を聞かせろ。」
冷静な伝令兵
「はっ。魔獣の数は数え切れぬほど多く、その全てが、最低でもC級…中では、S級のものもちらほらと…」
???
「……そうか。…それで?現在どれだけの被害が出ている?」
冷静な伝令兵
「いえ〜…それが……。」
???
「……?どうした?」
冷静な伝令兵
「偵察班によると…既に鎮圧した様子で…」
???(目を丸くして驚く)
「何…っ!?」
冷静な伝令兵
「今回の原因である…大罪獣の"残滓"が、夢追い人の3人組によって討伐されまして…次第に勢いが無くなり…鎮圧が完了致しました。」
???
「…夢追い人の3人組…か。特定は出来ているのか?」
冷静な伝令兵
「はい。一人目は《旋廻》のヴィクトル殿。かの残滓を相手に、大立ち回りを見せていただいたとの事。」
???
「確か最近S級となった夢追い人だったか?依頼達成率も高く…評判が良いと聞くな。」
冷静な伝令兵
「二人目は《万象》のソフィア・ミニアスタル殿。彼女が魔獣の8割方を殲滅して下さいました。そして…トドメは彼女が。」
???
「《万象》が王都に戻ってきて居たのか……。なるほど…かの"残滓"も倒せるはずだな。」
冷静な伝令兵
「それが…ヴィクトル殿と共に長時間の時間稼ぎに成功したものが…リオという青年でして…」
???
「リオ?聞いた事が無い名だな。」
冷静な伝令兵
「はい。最近この王都で夢追い人として登録したばかりのF級との事で…」
???
「F級!?
それは、戦闘で役に立たないのでは無いか?」
冷静な伝令兵
「いえ、かの《万象》どのと《旋廻》殿に指示を出し、残滓を誘導し、トドメを指す事に最大の貢献をなさったと……」
???
「それほどの傑物が…?どちらにせよ、今回の鎮圧への礼として、褒美を取らせるつもりであったからな。
その者らに召喚状を送っておけ。…ぜひ、対面してみたい。」
冷静な伝令兵
「はっ!!かしこまりました…アルヴレイド陛下。」
アルヴレイド
「ああ…頼む。」
報告を終えると、伝令兵はそそくさとその場を立ち去った。
アルヴレイド
(ほんとうに…ぜひ会ってみたいものだな。)
***
コツ…コツ…コツ
長い回廊を、3人は話しながら歩いている。
リオ
「この呼び出し…やっぱり昨日の奴の事についてだよな。」
ヴィクトル
「ああ。おそらく、表彰だろうな。かの王が直々に俺たちを招いたんだ。好きなもんを貰えんじゃねぇか?」
ソフィア
「あとは…小僧に興味を持ったんじゃろう。」
リオ
「俺か…?」
ソフィア
「うむ。登録したばかりのF級が、S級の討伐に際し、最大の貢献をしたとなると、気になるのもしょうがないじゃろう。」
リオ
「なるほどな。」
そうこうしていると、大きな扉の前に着く。
ヴィクトル
「うひょ〜〜でっけぇーー!!すっげぇ…!」
案内人
「……謁見の間です。大声はお控えください。」
ギィィィ………
荘厳な扉が、音を立ててゆっくりと開く。
静かな広い謁見の間。奥には重厚な玉座が据えられ、そこから真紅の絨毯がまっすぐに敷かれている。
玉座に座する男ーーアルブレイド王は、頬杖をつきながらステンドグラス越しの光を眺めていた。
リオが一歩、その上に足を踏み入れた。
……!
──一瞬、アルヴレイド王と目が合う。
アルヴレイド
「来たか…。勇敢なる夢追い人達よ、その足をここに運んでくれたこと、まずは感謝する。」
「とりあえず、今回の褒賞を与えよう。内容についても、ある程度の融通は聞くぞ。」
ソフィア
「妾は特に欲しておらんからの…甘い物が食べれれば満足じゃわい。」
アルヴレイド
「それでは、下町のお菓子屋での無料飲食の許可をしよう。次はヴィクトル殿に聞いておこうか。」
ヴィクトル
「俺も…大してねぇんだが…強いて言うなら…色々な武器を入れる為の魔導具が欲しい。」
アルヴレイド
「了解した。国一番のものを下賜しよう。あとはそなただな?リオ殿。」
リオ
「俺も…これと言った欲しいものは無いんだけど、…そうだな。地位が欲しい。」
アルヴレイド
「ほう…?地位…とな?」
リオ
「ああ。入り用でな。」
(俺たちの家が没落させられた理由は…まだ分かってはいないが、それを調べる為には…貴族としての"地位"がいる。
まったく…とんだ皮肉だ。)
アルヴレイド
「理由は聞かんぞ?なんとなく予想がついているからな。
──貴族の地位…だな、了解した。子爵までならば…即座に与えられるだろう。」
「だが、現在のその"偽名"では…貴族の名としての箔がつかんな?」
リオ
「……やっぱり、知ってやがんのか。」
アルヴレイド
「さぁ…?何のことだか皆目検討がつかぬ。」
リオ
「……分かった。そうだな…。」
リオは少し考え込み、
リオ
「…ヴィド。ヴィド・ファルグレイス子爵ってのはどうだ…?」
アルブレイド
「Videre(ヴィド)…。"私は見た"…か。…面白い。よし、それで行こう。」
アルブレイドは立ち上がり、こう言う。
アルブレイド
「リオ殿。今回の鎮圧への褒賞として、そなたに子爵の爵位を下賜する。
──これからはヴィド・ファルグレイス子爵と名乗るが良い!!」
ヴィドは赤絨毯の上に片膝をつき、深々と頭を下げた。
ヴィド
「拝命致しました。」
ヴィドの瞳の奥に、微かな決意の光が宿っている。
この日…ルナヴィータ王国にて、新たな貴族が誕生した。
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