第五節 かつて庭に咲いた花

はぁ…はぁ…


 静寂が木霊する暗闇で…荒い息のみが虚空を揺らす…。


 振り返れば、…もう誰もいない。手を引いてくれた人たちは──この暗闇に沈んだ。


 今はただ…ある少年の息と心音だけが……道を静かに照らしている…。


 果てしなく続く深淵は…少年に…"立ち止まれ"と囁く…。


 それでも…一歩…また一歩と、前へ進んでいく…。…すると、


少年

「……?…これは……光………?」


──かつての…優しい灯が差し込んでいた。


 その光に導かれるように、少年は階段を登り切る。


サァーーー……


 穏やかな風が…静かに少年の服を揺らす…。


少年

「ここ……どこなんだろう……」


 自然に出来た洞窟の様な穴から出て、気づくと、そこは何処にでもあるような森であった。


 今まで見た事もない景色、本の中でしか知らなかった景色が、少年の目に色濃く映った。


 少し経つと、キョロキョロと動く視線の先に、一輪の花がその姿を露わにする……。


 その花は、小さくても……そこに、確かに生きていた。


 ふと、浮かんだのは──かつて、あの庭に咲いていた花の匂い。

 春の日差しと、家族の笑い声。今となっては、夢のように淡い、記憶の色。


少年

「僕…頑張るからね……」


 その日…何処かの森の片隅で…小さな泣き声が聞こえたという…。


  ***


──何処かの果てで…


???

「ふふ……狂乱は、これから少しずつ大きくなるわ…。今夜はその序章…

 また…行き着いた先で会いましょう…?」


 暗闇を照らす真紅の瞳が…静かにあたりと同化していく……。

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