第四節 沈む都
カンッ…カンッ…カンッ
アル
(……?この音って…確か…)
マーサ
「アルお坊ちゃま…至急、エントランスまでお越し下さい…。」
アルはそれに頷き、マーサの後についていく。一方、
レオ
「ここまでするのか…。もう、見境がないな……。」
レオが窓に手を当てながらそう言う…。
アル(部屋に入って)
「みんな…この音って、緊急事態の…。」
ルイ
「おう…。また
アル
「……っ!?それ、やばいんじゃない!?」
あまりの驚きに、アルの眠気が勢いよく飛んでいく…。
レイファ
「大丈夫よ…きっと。この家の騎士団は強いんだから…。」
僅かに震えながらも、子供達を安心させるべく、レイファは気丈に振る舞う。
──その時、
コール
「皆様方!!緊急事態です!!」
少し息の上がったコールが、大きな声でそう言った。
レイファ
「魔物氾濫でしょ?もう知っているわ…。」
コール
「それはそうなのですが…!!数が…尋常ではありません!!
それも、赤く爛れた目をしており…。死ぬまで怯まず向かってくるのです…!!既に騎士団の団員も、死者26名、重傷者167名の被害を受けております!
──このままでは…門を突破され、荒れ狂う魔物が街の中に解き放たれてしまうでしょう……!!」
レイファ
「何ですって…!あの人は…夫はまだ帰ってこないのですか…?」
マーサ
「奥様…大変お伝えしづらいのですが…」
マーサは少し言い淀みながらも、言葉を続ける。
マーサ
「ダグラス様は、皇命に応じて登城されたまま……未だ、ご連絡が……」
その言葉の影に、“伝えられぬ別れ”が静かに滲んでいた。
レイファ「えっ……?」
──空気が凍りつく。
ルイ
「そんな……親父が死んだなんて、どうして分かるんだよ!?見たのか!?……誰か、見たのかよッ!」
マーサ
「先程…ダグラス様の消息が途絶えた場所の周辺を重点的に探させていまして…」
「そこには…ダグラス様の物と思われる剣が、折れたまま…突き刺さっていたとの事です…」
レオ
(そうか…やはり……。あの召喚命令は罠だった様だな………)
(皇王様は我々に何の恨みが…いや、そもそも皇命そのものが偽装の可能性も…)
レイファ
「そん……なっ……。」
憔悴していたレイファだが、すぐに表情を変え、何かを決意した様に声に出す…。
レイファ
「……分かったわ…ここからは私が公爵代理として、貴方達に指示を送る!!」
…その姿は気高い大人の様で、それでいて脅威に震える、臆病な子供の様な姿とも重なる。
レオ
「僕も手伝うよ。お母様。僕はいつも近くで、お父様を見ていたから。」
レイファ
「ありがとう…。レオール……。」
レオ
「いえ、当然の事をしているまでです。これでも長男なので。」
レイファ
「あの作戦を……実行に移すしかない様ね…。」
レオ
「はい。ですが…僕は残らねばなりません。いざという時は、父上にそう…一任されたので…」
レイファ
「あの人がそんな事を…。やっぱり、そう言う事だったのね……」
ルイ
「俺も残る…。俺はもう一人前の騎士だ。せめて…最後まで戦っていたい…。」
マーサ
「それでは、アルセリオお坊ちゃんだけが逃げる……と言う事になりますね…。」
その一言にみな、覚悟をした様な顔をする…。
アル
「何…。みんな何を言ってるの……?僕…わかんないよ……。」
レイファ
「アル…ついてきなさい……。」
アルの手を引き、とある場所まで急ぐ……。
ゴゴゴ………
暖炉の下がゆっくりと軋み、隠された石段が口を開ける。
コン……コン……
石の階段に、レイファのヒールの音が反響する。
その音はまるで──栄華の城が、静かに幕を引く足音のようだった。
レイファ
「ついたわね…。アル……良い…?ここからま〜〜っすぐ進むの。
──決して後ろを振り返ってはダメよ……?
すっごく長いと思うけど、水と食料はこのバッグの中に詰めてあるから、頑張って光が刺す方へ走り続けなさい…。」
アル
「お母様は…お母様達は行かないの…?」
レイファ
「いえ。私たちも大切な用事が終わったらすぐにいくわ……。でもアルは足が遅いでしょう?だから、早めに出発するの…。
……そうだ!!良いことを思いついたわ…。」
──レイファは元気な顔をして、アルを見つめる。
レイファ
「アルが頑張って走って、光の先まで到着出来たら、私が追い付き次第、今度こそ"ケーキ"を作ってあげるわ…!」
アル
「ケーキ…?本当に……?分かった…僕、頑張る……。絶対、約束だよ……!!」
レイファ
「ええ。約束よ……。」
そう、レイファは優しく微笑むが、その笑顔は何処か、寂しそうにも感じる。
レオ
「アル……これを持っていってくれないか…?少し早いけど、アルの誕生日プレゼントだ。銃のおもちゃ…欲しがってただろう…?
勇者レオニダスの一行の一人が…すっごく強い銃の使い手だったって言ってたからさ……。」
小綺麗な箱に、おもちゃにしてはしっかりとした作りの銃が…丁寧に保管されてあった…。
アル
「うわぁ〜〜!!すっごくカッコいい〜〜!!!ありがとう…!レオ兄〜〜!」
レオ
「ああ…絶対に手を離すなよ…絶対にだぞ…?」
アル「うん!!分かった!!!」
アルは嬉しそうにそれをバッグに詰め込んだ。
ルイ「俺も…これ。」
ルイは一対の耳飾りを手渡す…。
アル「これなぁに〜〜?」
ルイ
「アルがとびっっっきり大きくなってから付ける物だ。それまで…大事に持ってろよ…?」
アル
「うん!!大事にするね!!」
レイファ
「それじゃあ最後は…私からかしら…。」
家族の写真が入った小さなロケットを取り出して…アルに手渡す……。
アル
「うわぁ〜〜!みんな映ってる!!凄いねぇ〜〜!!!」
レイファ
「これも、大切に持っていなさいね……。絶対に…手放しちゃダメよ……?」
アル
「ありがとう!!みんな!!!」
アルの純粋な笑顔に呼応して、その場にいた者はみな、一様に微笑んだ。
マーサ
「アルお坊ちゃま。これは…私の叔父が大切にしていた物です。どうか一緒に持っていってやって下さい…。」
そう言って、マーサは年季の入ったモノクルを手渡す。
アル
「マーサも、ありがとう……!」
マーサ
「はい。この不肖マーサ。その言葉を大切に胸へ刻んでおきます……。」
レイファ
「それじゃあ…。先に行っててね…アル…。」
アル「うん!!僕ね!頑張るよ!!」
アルは幼いながら、何かを察し…皆んなの言う事を心に刻み、一歩…また一歩と前へ走って行く…。
カンッ…カンッ…
──金の音が遠ざかり……アルの姿が…暗闇へと消える…。
………。
走り去っていったアルを見届けたレイファは、惜しむ様に小さく呟く。
レイファ
「貴方だけは生き残るのよ…アルセリオ……。」
「…貴方達も行かなくて良かったの?レオ…ルイ…。」
レオ
「行きたくても無理だよ。分かってるでしょ?そんな事くらい…。」
ルイ
「俺もさっき言っただろ?
戦い続けて死にたいって!」
レイファ(優しく微笑む)
「……強く…なったわね……。」
レオ
「ルイ…今までアルにばかり構って、お前とあまり一緒に遊んでやれなかったね…。ごめん…」
ルイ
「俺こそ!兄貴がアルとばっか遊んでる時、下町の友達と遊んでたから…お互い様だろ?」
レオ
「ふっ…。そうだな……。お互い様だ…。」
パンッ……とレイファは頬を両手で叩き、気合を入れる。
レイファ
「それじゃあ、レオール!ルイレクス!最期まで…しっかりとなさい!!
──ここが正念場よ!!」
「イゼルロットの名にかけて……私たちは、ここで終わるわけにはいかないのよ!!」
レオール&ルイレクス
「うん!!」
そうして…永劫栄える筈であった都は…安寧の闇へと…静かに沈んでゆく。
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