一年前。

吉高 都司 (ヨシダカ ツツジ)

第1話

ある少女は、少年と出会って自分が変わって行く、そのことに戸惑う。ある少年は、ある少女をまだ、恋愛というには幼い、かといって、その時につながる思いは、大人のそれと全く同じ。もしかしたら、その思いに自分自身が思いあぐねて、どうして良いか分からない、決して他人には、ましてや、親兄弟、親友と呼ばれる自分以外の人に話すことも、伝える事も出来ず、夜寝る時、その人の笑顔や、笑い声、横顔を思い浮かべ、どうしたらいいか、解らなくなる。少女は、自分が彼にとって、どういう立ち位置か、好意を持たれるという事は一体どういうことなのか。答えるべきなのか、答えを出した先にあるものは一体何なのか。彼女もまた親友、や、友達親姉妹に相談する事も出来ず、同性の母親はすでに亡く、少年と同じく、この思いの行先を思いあぐねている。多分それは、遠い遠い、昔の事であって、でも今の事である。思いは今であって、記憶は昔。夏のひらめくカーテン、一緒に帰った、影法師、図書館の本の匂いそこで、本を探している横顔、給食の配膳、冷たい廊下、理科室の人体模型、標本、音楽室の肖像画、一軍女子の冷たい目線の者、三軍女子の卑屈な笑顔の者、一軍男子のヤンチャごっこの者、三軍男子の自分の世界に潜る者。いずれも、みな現実だった、あの頃。自分は、私は、これが書きたかった。図書館の隅で本を読んでいた自分に出会い、会うことが出来た。SF、文学、絵本、歴史、科学etc.貪るように読んだすべての物語を、あの頃の自分に投影して、表現したいと思った。丁度その時、変わらないもの、このサイトの存在を知り、その時に、香った匂いがそこにあり、扉を開いた。そして、その世界は自分を受け入れてくれた。多分、転校日初日、教室の扉の前で紹介される直前の自分の様に。その一歩を踏み出すことが出来た。いや、背中を押してくれた。このセカイ。思いはここに、そしてここに置いておくことが出来るこのセカイ。決して、ノスタルジックに浸りたいだけの、自己満足ではなく、読んでいただく、目を通していただくだけでそれで十分な世界。その時の自分と対峙できる、そのセカイ、それを知った一年前の自分。私が『書くこと』を始めたきっかけ。その作品は、漫画『事情を知らない転校生がグイグイくる。』を手に取った時、あの頃の自分が、その時の時間が、あの思いが、全て頭の中で展開した。あの時の自分の答え合わせをするため。

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一年前。 吉高 都司 (ヨシダカ ツツジ) @potentiometer

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